第213回先生の学生時代のお宝を賭けた腕相撲大会



「おっし!! そんな騎士団長推しのヒメちゃんよぉ!! 今日もいっちょ、挑戦するか?」

 グレイル隊長が挑発するようにニヤリと笑う。

「アレですね?」

「おうよ」

「もちろん挑戦しますとも!! 第213回!! 先生の学生時代のお宝を賭けた腕相撲大会!!」


 必ず……!!

 必ず手に入れてみせる!!


「そうと決まれば──よっ!!」


 私が右手を大地につき魔力を流すと、そこから手を押し上げるように切り株が顔を出した。

 これが腕相撲の勝負台だ。


「魔法をこんなことに使うの、お前くらいだよ……」

 セスターが口元をひくつかせる。

 便利なものは使わなきゃ損だからね。


「じゃ、行くぞ? 3・2・1・スタート!!」

 掛け声と同時に私の手にどっと重たく圧がかかる。

「ぐっ……ま……負けませんっっ!!」

 私だって毎日修行を積み重ねて腕力を鍛えてるんだから!!

 私はグッと腹に力を入れると、押された分を押し返していく。


「おっ!! やるなぁ!! だが……!!」

「ひゃぁっ!!」

 ぐいっと手を丸め込まれるように圧をかけられ私は再び腕を傾かせてしまう。

 手の甲が切り株につくまであと5センチほど。

 こんな早くに……負けたくないっ!!


「んぬぬぬぬぅっ!!!」

 私は体を傾けながらめいいっぱいの力を込めてグレイル隊長のガッチリとした腕を押していく。


「っ!! へへ……、やるじゃねぇっっかっ!!」

「ふぁっ!? ま、負けません!!」


「すげ……筋肉ダルマといい勝負してやがる」

「女版筋肉ダルマだな、ありゃ」

 外野がうるさい。

 私はか弱い女の子だ。


「先生の学生時代のお宝……!! 私が貰い受けるんですからぁぁぁあ!!」


 ぐぐぐぐ──!!


 鍛冶場の馬鹿力とはまさにこのこと。

 私は一気にグレイル隊長の腕を押し倒し、有利に立った。


 フハハハハ!! どうだ!!

 これからは筋肉系女子の時代ぞ!!

 切り株にグレイル隊長の手の甲がつくまであと少し!!

 あと少しで先生の学生時代のお宝が私の手に──!!


「んぬぅぅぅ〜〜〜〜!!」

 私が一気に全身の力を腕へと注いだ……その時──。


「グォォォォォォォオ!!」

 大地が揺れるほどの低く大きな唸り声。


「【オーク】!?」

 ダンッ!!

「ぬあぁーーーー!?!?」

 私の手が……私の手が……。

 【オーク】に気を取られた一瞬の隙に、グレイル隊長は大人気なくも私の手を切り株へと押し付けた。


「あと少しだったのに……」

 私の……私のチャンスが……。

 大人気なさすぎでしょ……あの筋肉ダルマ……。


「【オーク】だけじゃねぇ!! 【オークキング】もだ!!」

 誰かが叫んで、一斉に臨戦態勢をとる3番隊の騎士たち。


 【オーク】?

 【オークキング】?

 正直そんなもん、もうどうでもいい。


 私たちを取り囲むように4体の【オーク】と一体の【キングオーク】が木々の間から姿を現す。


「これまた随分大勢で来たな」

「よし、お前たちはそれぞれ目の前の【オーク】を狙え!! 俺とヒメは【オークキング】を──って……ヒメ?」


「よくも……よくも私のチャンスを……。私の先生の学生時代のお宝を手にするチャンスを奪いましたね……!!」

 ギンッ!! と私は巨体を揺らしながらこちらへ近づいてくる【オークキング】を睨みつける。


「許しません……!!」

 私は素早く腰の愛刀を引き抜くと、自身と愛刀にまとめて風魔法を纏わせ、大地を蹴って後方へと飛んだ。


 くるり──。

 後方へ一回転してから背後の【オーク】の頭上から刀を遠慮なく振り下ろす!!


 ザシュゥゥゥッ──!!


 頭から刀を差し込むと同時に傾く【オーク】が倒れる前に、隣の【オーク】へと飛ぶ。


 ザッ……!! ザシュッ──!!


 右から、そして刀を返して左から、首を狙って切り込み、琴切れることを確認してまた隣へ──。


 シュシュシュシュッ──ガンッ!!

 風魔法の効果でかまいたちの如く、刻むように数回切り込んでからの正面蹴りをクリティカルヒットさせ、向かいの最後の【オーク】へと大きく飛び上がる。


 シュン──!! ザッシュ──!!


 首元へ真横に切り入れてから胸の中心へと刀を刺す──!!


 そして──。


 バキバキバキバキ!!

 刀に流す魔法属性を氷へと変化させ、突き刺した刀のある胸の中心から氷の花が広がり、【オーク】の巨体を固めていく。

 先生直伝!!

 私が唯一、適性の低い氷魔法でできる有効的な攻撃魔法だ。


 残るはあと一体。

 オークよりも遥かに大きな【オークキング】のみ。


 私は刀に流す魔法属性を雷属性へと変えると、【オークキング】目掛けて駆ける──!!


「お、おい無茶だ!! 退け!! 皆一斉に──!!」


 ザッ──!! バリバリバリバリッ──!!


 下から上へと抉り込むようにして切り上げた刹那、検査機から稲妻がほとばしり、【オークキング】を包み込むと──ドゴォオォォォォォン──!!


 大きな音を立てて【オークキング】は爆発に飲まれ、そのままドシン!! と地響きを立てながら倒れ込んだ。


「おととい来やがれです」

 来なくていいけど。


 あっという間に私の周りには【オーク】の屍の海が出来上がった。

 緑色の返り血が頬や身体にぺったりとくっついて、少し気持ちが悪い。

 早く帰ってシャワー浴びたい。


「いや、嘘だろ──? 4体の【オーク】だけじゃなく……【オークキング】まで……?」

 呆然と立ち尽くすグレイル隊長に私は「私のチャンスを奪ったんです。当然の報いです」と怒りを込めて言い放った。


「さ、目的の【オーク】退治も済みましたし、さっさと帰りましょ。血、流したいですし」


 言いながら私は小箱ホールに【オーク】と【キングオーク】の屍を収納して片付けていく。

 早く帰ってシャワー浴びて、先生に抱きつきたい。


「あ、あぁ……って、なんかお前、顔色悪くねぇか?」

 グレイル隊長が苛立つ私の顔を覗き込む。


 突然のワイルドな顔のどアップにビクッと一歩足を下がらせると、

「【オーク】のせいでチャンスが消えて、気分最悪なのが顔に出たんでしょう」

 とひらひらと手を振ってグレイル隊長の前を通って森の出入り口の方へと歩き始める。


「そうか? まぁ、んじゃ、早く帰ってシャワーでも浴びろ。よーし皆、撤収ー!!」

 グレイル隊長の腹の底から発せられる起きな声が森の中で木霊し、私は皆と一緒にグローリアスへと帰還した。

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