私と彼の1週間ー6日目ーれおんちっす様ー
さて、午後からはどうするかな?
またもやることがなくなった私は、ぶらぶらとグローリアス学園を探索中である。
一年生も二年生も、午後からは騎士科と合同で、騎士団に付いて魔物討伐の訓練に行っている。
この時代でも、一年生から実践を経験させようとしているあたり、やっぱりこの闇に覆われつつある状況は芳しくないんだろうな……。
静かな校内を一人探索していると、医務室から声が聞こえてきた。
あれ?
この声──。
それが聞き覚えのあるもののように感じられた私は、確認するように医務室へと入っていった。
「大丈夫? レオン」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう、エリーゼ」
そこにいたのは、少し顔を赤くしてベッドへと腰掛けるレオンティウス様と、それを支えるようにして身を寄せるエリーゼの姿だった。
え、もしかして逢引き!?
わ、私、お邪魔ですか!?
よし、見なかったことにして帰ろ……。
私がすぐさま引き返そうと再び医務室の扉を開けようとすると、
「横になって。今、治癒魔法で治しちゃうから」
とエリーゼの声。
ん?
治癒魔法で?
それにさっきのレオンティウス様の赤い顔。
まさか体調不良!?
私は勢いよく振り返ると今まさに治癒魔法をかけようとするエリーゼに向かって
「ストォォォォォォップ!!」
と叫びながら全力で止めに入った。
「ヒメ!?」
「あんたなんでここに?」
まさか私がいるとは思わなかったのだろう、二人して驚いたように目を大きくして私を見る。
「ヒマすぎて探索してました!! って私のことより、レオンティウス様!! 何かあったんですか?」
「あぁ、ちょっと熱がね……」
力なく答えるレオンティウス様
やっぱり体調悪いんだ。
「心配しなくても大丈夫よ。私の治癒魔法で、すぐ治っちゃうから」
私を心配させまいと優しく微笑むエリーゼ。
天使か……!!
だけどそういうことじゃなぁぁぁぁいっ!!
「エリーゼ、待ってください」
私は治癒を施そうとするエリーゼを再び制止する。
「ん? どうしたの?」
キョトンとして私を見るエリーゼは超絶に美しいけれど今は萌えてる時じゃない。
「治癒で熱を治してしまっては、今後レオンティウス様は、きちんとした自己免疫を持つことが出来づらくなります。このまま看病して、熱が下がるのを待ちましょう」
未来ではだいぶ定着してきた医学だけれど、こちらではまだその概念もない状態だ。
魔法に頼りきって、自分の身体本来の力を鍛えることのない間違った常識のまま。
「でも、すぐ治るのよ?」
「それでも自分の体の免疫機能を高めるためには、このままにしておいた方がいいです」
私が一歩も譲ることなくはっきりと言葉を落とすとエリーゼは、
「そうなの? んー、じゃぁヒメ、レオン見ていてくれる? 私授業に戻らなきゃいけないから……」
と申し訳なさそうに眉を下げた。
「はい、もちろんです。頑張ってくださいね、エリーゼ」
「ありがとう。じゃぁレオン、騎士科のジゼル先生には、医務室で休ませてるって言っとくから、心配しないで。お大事にね」
そう言ってエリーゼは、慌ただしく医務室を後にした。
さて、と。
ベッドの上を見れば苦しそうに眉を顰め、汗を流し洗い呼吸を繰り返しているレオンティウス様の姿。
色っぽい!!
ただでさえいつも漏れ出ている色気が大放出されてますよレオンティウス様!!
「っはぁっ……はぁっ……」
はっ!!
こんなこと考えてる場合じゃない!!
「レオンティウス様辛かったら言ってくださいね」
私はベッド下に備えてあるバケツを取り出し、その中へ水魔法で水を出現させた。
そして次に氷魔法で氷を出し、水の中へと浮かばせる。
氷水の出来上がりだ。
サイドテーブルのタオルを浸して、ギュッと絞る。
冷えたタオルを伸ばしてから、そっとレオンティウス様のおでこに乗せ、ポケットから取り出したハンカチで汗を拭う。
頬、首筋、少し失礼して胸元まで軽く拭うと、すぐ近くから「ふふ」と小さな笑い声が耳に届いた。
「なんだかシリルに悪いわね」
力なく蒸気させた顔で微笑むレオンティウス様。
ぎゃぁー色気が!!
色気しまってくださいっ!!
「な、なんでそこでシリル君が?」
とりあえず落ち着こうと、私はサイドテーブルのコッピに水魔法で水を注ぎ口に含ませる。
あぁ、水が美味しい。
クールダウンクールダウン。
「あら、あんたたちそういう仲じゃないの?」
「ブフゥゥゥゥゥッ!!!!」
ぁ……。
口に含んだ水は勢いよく私の口から噴射された。
レオンティウス様の美しいお顔に……。
「あんたねぇ……」
「ひゃぁーごめんんさいごめんなさい!!」
謝りながら私はすぐにレオンティウス様へと浄化魔法をかける。
あれだ。
水も滴るいいオネエ……いや、それならもっと綺麗な水で滴っていて欲しい。
「まったく。……シリルだけど、あいつ色々あったから人と距離を置きすぎてたのよ。特に女性はね。でも、あんたが来てから柔らかくなったわあいつの中に、光が灯ったんだと思う。本当、ありがとうね、ヒメ」
静かな声でそう礼を言うレオンティウス様。
この人は、本当に友人のことをよく見ている。
レイヴンのことにしてもそうだった。
きちんと見て、分析して、見守ってる。
レオンティウス様も……
それについてなんとも思わないはずがない。
大切に思ってくれていたというのだから。
きっとたくさん苦しんだんだ。
なのに私は、私の中の
ちゃんと、話さないとな。
レオンティウス様とも。
「時々私を見て苦しそうにしているのは、私が何かしちゃったから?」
思考の中に入り込んできた言葉に、私ははっと息をのむ。
「ち、違います!!」
確かに勝手に気まずさは感じていたけれど……。
私が勝手に感じていたことでレオンティウス様を不安にさせてたなんて。
申し訳ない。
「その……ここに来る前、喧嘩してしまったんです。
私がそう告げて頭を下げると、ベッドに横になって話を聞いていたレオンティウス様がゆっくりと起き上がって、ふわりと笑った。
「あんたも従兄がいるのね。私にも、それはもう可愛い従妹がいたわ。……もう、会えないけれど。会えるうちにちゃんと仲直りしちゃいなさいよ? 相手も意外と気にしてるかもしれないしね」
そう言って優しく私の頭を撫でるレオンティウス様。
あ……この感じ。
ずっとずっと小さな頃にも、私を諭し、こうして頭を撫でてくれた。
しっかり覚えてはいなくてもちゃんと残っている、私の記憶のカケラ。
「ありがとうございます……レオンティウス様」
私が照れながらも礼を言うと、彼は「どういたしまして」と笑ってから、またベッドへと身体を沈めた。
しばらくしてスースーと小さくっ聞こえてくる寝息。
どうやら寝ちゃったみたいだ。
「────ありがとう。……れおんちっす様」
小さく呟き私はいつもキラキラして綺麗な彼の、意外と傷だらけでマメだらけの手を握るのだった。
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