私と彼の1週間ー6日目ーシルヴァの力ー



「すごい……一瞬で……!!」


 シルヴァ様の感嘆の声が耳に届き、グリフォンが大人しくなったことを確認すると、私は魔法を解いて、この子を縛っていた草を消失させる。


「グリフォンさん。手荒な真似をしてごめんなさい。気分はどうですか?」

 私がたずねると、グリフォンはそれに応えるかのように元気よく「グルルルン!!」とひと鳴きした。


 よかった。

 闇は完全に払われてるみたい。

 聖魔法も真面目に習っててよかった!!


 この聖魔法。

 属性持ちが少ない上に、聖魔法属性を持っていてもヒーラーたちのように一人ずつの治療が精一杯という人の方が多いので、聖魔法について書かれた本が少ないのだ。

 だからどうしても、最上位の聖魔法までマスターしている先生頼みになってしまったけれど、彼は聖魔法に関しても、自分の持つ全ての知識と技術を私に叩き込んでくれた。


 だから、私に使えない聖魔法は、聖女専用の魔法のみ。

 聖女としての力を覚醒させた時に習得できる聖魔法最上位の攻撃魔法【聖女の裁き】と、魔王を消滅させることのできる唯一の技【聖なる浄化】のみだ。


 どす黒いもやまとっていた陰鬱いんうつな色は消え、くるみ色と飴色が混在する艶やかで綺麗な羽がバサリと大きく羽ばたかれる。


「綺麗な色ですね。グリフォンさん、素敵です」

 ふにゃりと笑って見上げれば、首をカクンと横に傾けながらも澄んだ眼をパチクリとせる。

 可愛い……!!


 私がグリフォンに萌え、戯れていると、いつの間にかシルヴァ様が隣に立っていた。


「瘴気も、グリフォンの闇も消えている……!! ヒメ嬢、これは一体……?」

「魔王を封じるには聖女の力が必要ですが、このくらいなら、聖魔法を極めていれば聖女じゃなくてもできます。膨大な魔力が必要なので、全国の瘴気を晴らすとなれば、命が幾つあっても足りませんが」


 途端に私の体に気だるさが襲いかかる。

 あぁ、結構消耗したからなぁ。

 それでも倒れなかったあたり、かなりの進歩だと思う。


「大丈夫か?」

 言いながら私の方を支えてくれる紳士・シルヴァ様。

 顔が……!!

 先生によく似た整ったお顔が近い!!


「団長!! ご無事で!!」

 瘴気が消えたことで異変を察知した騎士たちがシルヴァ様の元へと駆け寄る。


 足を引きずりながら。

 腕を庇いながら。

 互いに支え合いながら。


 でも全く動けないという者はいなさそうだ。


「あぁ。皆、無事か?」

「はい!! こちらのお嬢さんのおかげで──」


 ぁ、グレイル隊長だ。


「ヒメ嬢の?」

 シルヴァ様が私を見下ろす。

 ぁ、これは説明を要求されてるな。


「えっと、治癒魔法を使いながら来たんです。時間がなかったので、重傷者にとっては致命傷から脱する程度ですが。みなさん、命に別状はないはずですよ。あ、これ、ありがとうございました。助かりました」


 シルヴァ様へと説明をしてから、グレイル隊長に借りた剣を彼に返す。

 改めて周りを見渡してみても、皆、元気とは言い難いが、ひどい人はいないようだ。

 それを確認して、私は安堵の息をつく。



「この量の治療をしながら来たにもかかわらず、あの魔法……。やはりあなたは──。いや、今は騎士団本部へと帰ろう。グレイル、全員揃っているな?」

「はい!! 全員こちらに」

「よし。では一斉転移をする。負傷した者は医務室へ行くように。グレイル、私は彼女と後から行く。皆を頼んだ」

「はっ!!」


 グレイル隊長が答えると、シルヴァ様が魔力を放出させ、騎士たちの真下、足元へと大きな陣が描かれた。


 これは──巨大転移陣!?


 私が驚いている間に、一瞬にして人の上にいた騎士たちは光に包まれ陣の上から姿を消した。


 これだけの人数を一斉に転移させるって……。

 こんな光景初めて見た。

 ていうかできる人いるの!?


 転移魔法は自分一人転移させるだけでも高度な魔法だ。

 だから大体の人間は、作られた転移陣を使って転移をしたり、風魔法所持者は風魔法に頼って移動をしたりする。


 それを一人で……3隊の騎士を一瞬で……。

 さすがセイレ王国騎士団長。


「驚いたか? これが私の得意魔法【一斉転移】だ。まぁ、流石に魔力の消耗が激しいから、少し休憩が必要だがね」


 そう言って困ったように笑ったシルヴァ様に、私は身を寄せる。

 支え、支えられ、残ったのはふらつく男女と伝説級生物。


「無理しすぎです」

「あなたもね」


 言われて彼に苦笑いを返し、誤魔化すようにグリフォンの腹をそっと撫でる。

 すると不思議とグリフォンの言っていることが伝わってくるようだった。



「シルヴァ様。あの、乗せてってくれるらしいです。グリフォンさん」


「────は?」


 何言ってんだこの子、みたいな顔しないで!!

 私もよくわかってないんだから!!


 刹那、竜巻のような強風が吹き荒れる──!!


「わっ!!」

「ひゃっ!!」


 私とシルヴァ様は風に乗って宙へと巻き上げられ、ストン……とグリフォンの背に乗せられた。


 ふわふわ〜!!

 何これ。

 背の部分の羽だけ他の羽よりも僅かながらに柔らかくて気持ちが良い。


「キュイィィィ!!」


「わわっ!!」

「おっと!!」


 グリフォンがひと鳴きし顔を大きく仰け反らしせた反動でバランスを崩した私を、抱き込むように後ろから腕を回すシルヴァ様。


 うあぁ……!!

 尊い……!!


「あ、ありがとうございます」

「いや、大丈夫。むしろ役得というものだ」


 この人本当に先生の父親なんだろうか。

 キャラが息子と正反対だ。


 バサリ──。


 グリフォンが翼を広げたその時、私はあることを思い出して声をあげる。


「ぁ!! グリフォンさん、少し村へ寄ってもらって良いですか?」

 預けたものを引き取りに行かないと。

 クレア達も心配してるだろうし。


「キュイィィィィ!!」


 グリフォンは私の声に応えるように鳴くと、大きく翼を羽ばたかせ、夏霞なつかすみたなびく空へと舞い上がった。

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