婚約披露パーティーー3人でワルツをー



「あいつ、懲りないな」

「伯爵も娘に激甘だしねぇ。ま、今のは少しは効いたんじゃない?」

 レイヴンとレオンティウス様が呆れたように言い、手に持ったグラスの飲み物をひと飲みする。



「すみません兄上。俺のことまで……」

 珍しくしゅんと頭を垂らし弱々しく言葉をこぼすジオルド君の肩に、先生の黒い手袋に覆われた手が乗る。

「お前のせいではない。それに、言いたい者には言わせておけ。クロスフォードの跡取りはお前なんだ。堂々としていなさい」

「兄上──はい!!」

 先生の言葉を噛み締めながらジオルド君が力強く頷いた。


「じゃぁシリル、私はここらで騎士団の方に行くわね」

 レオンティウス様はグラスを近場のテーブルへと置くと、私たちにそう告げた。

「あぁ。すまない。私もすぐに向かう」

「いいのよ、あんたは。ゆっくりしてなさい。んじゃヒメ、今日は一緒に踊れて嬉しかったわ。最後まで楽しんでね」

 レオンティウス様が私にウインクをする。


「はい!! レオンティウス様、無理はしないでくださいね」

 私がふにゃりと笑ってそう言うと「ふふ、ありがとね──チュッ……」と小さなリップ音とともに左頬にレオンティウス様の存分に手入れされた柔らかい唇が触れた。

「っ!?」

「レオンティウス!!」

 先生が声をあげて、クレアたちはそんな私たちを見て顔を赤くしながら驚きの声をあげる。


「ふふっ。休日出勤代よっ。じゃ、ラウル、メルヴェラ嬢、失礼するわね」

「はい。お忙しいところ、ありがとうございました」

「お気をつけて」

 ラウルとメルヴィと挨拶を交わしてから、レオンティウス様は何事もなかったかのようにその場を後にした。


 頬に触れた唇の感触を思い出すと、熱が一気に顔へ向かって上昇する。


 するとジオルド君がそっと近づき、おもむろに私の顔へと手を伸ばしてきた。


「!?」

 ゴシゴシ……

「注意力散漫だバカ」

「あ、あの、ジオルド君?」

 ゴシゴシ……

「お前、僕の義妹ならもっとしっかりしろ」

「え、いや、私義姉……」

 ゴシゴシ……

「ったく、世話の焼ける……」

「あ、あの、痛いです、ジオルド君」


 レオンティウス様が先ほど口付けた左頬を、ハンカチでゴシゴシと削るが如く拭いていくジオルド君。


「あんたたち兄妹、仲良いわねぇ」

「ふふっ、良いお兄様を持ちましたわね、ヒメ」

 私たちを見てクレアとメルヴィが笑う。


「ジオルド、面倒見良いしな」

「ツンデレだけどな」

「うるさいぞ、そこ!!」

 からかうようにマローとアステルが言ってジオルド君が吠える。


 先ほどまでとは一変、和やかに笑いあう私たちを、先生とレイヴンが見守る。


「ヒメ、踊りましょう!!」

「えぇ!? メルヴィと!?」

「あら、私も混ぜて!!」

「クレアまで!? いやいや、流石にそれは……」

 女性同士で、しかも3人で踊るとなると気になるのはルールやマナーだ。


「大丈夫ですわ!! 今宵は私がルールです!!」

 そう言ってメルヴィが私の右手を、クレアが私の左手をとって、ホール中央へと歩き出す。


 3人で輪になってくるくると回り続けるワルツは、もちろん注目の的。

 だけどそれを疎ましく見つめるような視線などどこにもなくて、皆微笑ましそうに私たちを見守ってくれた。



 苦手なダンスをたくさん踊った私はクタクタになったけれど、とても楽しい時間を過ごしたのだった──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る