婚約披露パーティーーワンコ騎士ー


先生とのファーストダンスが終わって、二人揃ってジオルド君の元に一旦下がると、クレア達がこちらを見て拍手を送ってくれた。


「よぉ!! 元気にしてたか?」

 マローが爽やかに笑う。

 彼と会うのは夏休み前ぶりだ。

 パーティー用に赤い前髪を後ろへと撫でつけているからか、いつもより少しだけ大人びて見える。


「はい!! マローも元気そうで何よりです」

「ヒメもクロスフォード先生も……あ、公爵様も、とっても素敵だったわよ!! お似合いのカップルって感じで」

 クレアが怪しい笑みを携えながら言うと、先生の眉間の皺が増えた。

 クレア……絶対面白がってる……!!

「は、はは、ありがとうございます、クレア」

 私は曖昧に笑って礼を言う。


 嬉しいけど!!

 カップルって言われて嬉しいけど!!


「にしても、すっげぇ綺麗じゃん、ヒメ」

 アステルが私を上から下までジロジロとながめながらそう言う。

「アステルの変態!!」

「いや、君にだけは言われたくないだろう」

 先生が呆れながら私を横目で見て、アステルがコクコクとうなづく。


 解せぬ。


「なかなか良いダンスだったじゃないか」

 満足そうに腕を組んで笑うジオルド君。

「ジオルド君のご指導のおかげと、先生のリードのおかげです。本当にありがとうございました、ジオルド君」

 私が素直に礼を言うを、ジオルド君は少しばかり頬を赤く染める。

「べ、別に、礼を言われるようなことじゃない。僕はただ、クロスフォード家の恥にならぬようにだな……」

「ふふ。わかってますよ」

 今日もジオルド君はツンデレだ。


「んじゃ、その練習の成果、俺にも発揮してくれよ?」

「レイヴン」

 私はチラリと先生の方を見ると先生はコクリと頷き「2度続けて踊るわけにもいかない。行ってきなさい」と言った。


「じゃぁ、レイヴン、よろしくお願いします」

「おう。お手をどうぞ、俺のご主人様」


 いや語弊!!



 レイヴンの手に引かれて再びダンスホールへと戻ると、少しアップテンポのリズムに合わせて体を揺らす。


「おぉ!! 噂には聞いていたが、少しは上達したんだな!!」

「どんな噂ですか!? 私だって日々成長してるんですっ!!」


 頬を膨らませて抗議すると、レイヴンがククッと笑う。

「まぁ、綺麗に成長したよな、お前。婚約者にって奴も多いだろ」

「あぁ、釣書ってやつですか? 全部断ってますよ」

 私が面倒くさそうに答えると、レイヴンが「はぁ!? もったいない!!」と声を上げた。


 いや、どうしろと?

 好きな人がいるのに受けるなんてそんな不誠実なことはできない。


「レイヴンだって人のこと言えないじゃないですか」

「まぁ……それはそうだが……」

 まいったな、と呟きながら笑うレイヴンに、私はふとこの間の先生との話を思い出す。

「レイヴン、いつか、先生の婚約者について言ってましたよね? レイヴンはお姫様のこと、知ってたんですか?」

 私が聞くと、ダンスの動きだけは止めることなく、「あいつ、話したのか」と驚きの声を上げた。


「……あぁ、知ってたよ。姫君プリンシアとシリルが婚約するって話は三大公爵家の中でだけ、決定事項として話されてたからな」


「どんな人だったんですか? そのお姫様って」

 私がたずねると、レイヴンは少しだけ考える素振りをしてから口を開く。

「んー……俺は会ったことがないからなぁ。公爵家とは言っても、姫君プリンシアのことは限られたやつ以外には会わせないようになってたから。あ、レオンなら詳しいだろうよ。姫君プリンシアは、あいつの従妹だからな」

「レオンティウス様の!?」

 驚き動きを止めそうになるも、レイヴンのリードがそれを許してくれず、私はダンスを続行する。


「あぁ。気になるなら聞いてみな」

「……はい」


 なぜだかとても気になってしまう【姫君プリンシア】の存在。

 私の知っている【マメプリ】には出てこなかった。

 表現としては正しくないかもしれないけれど、元カノが姫君プリンシアで、今想っているのはエリーゼってこと?


 あぁぁもう意味がわからない!!

 【マメプリ】制作部!!

 もうちょっと詳しいところまで掘り下げててよね!!


 私は心の中でもう久しくプレイしていない乙女ゲーム相手に悪態をつく。



「他のやつと婚約する気がないなら、俺の婚約者なら空いてるぞ」

 冗談めかして言うレイヴンに、私は同じく冗談めかして言った。

「あら、レイヴンは私のワンコでしょう?」

「誰がワンコだ!! はぁ、全く、お前ってやつは」


 反論し呆れながらも笑顔を向けてくれるレイヴンに、私も思わず笑みが溢れる。


 楽団による音楽が盛り上がり、そして終わりを迎える。


「お疲れさん、ヒメ」

「は、はい。ありがとうございました」

 なんとか最後まで踊り切った私の手の甲に口付けて、レイヴンが笑う。


「!?」

「忘れんなよ。何があっても、俺はお前のもんだってこと」


 犬歯をのぞかせて笑うレイヴンは、私のワンコであり、最高の騎士だと思う。


「ふふ、ありがとうございます、レイヴン」

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