そして少女は剣を取る

スカートは膝上5センチが鉄板です

 時は流れ、私は15歳になった。



「よし!! 完璧です!!」


 鏡に映る長い黒髪の少女は、赤いリボンを襟元でキュッと結び、膝上5センチのスカートを揺らしながらクルクルと回って、満足気に笑っている。


 

「忘れている」


 ふわリ。


 グレーのサラリとした肌触りの良いショートマントが肩にかけられる。


 それについている銀でふち取られたブラックオニキスの宝玉のマント留めは、彼、シリル・クロスフォード先生から数ヶ月前の祈りの日に送られた、私の宝物だ。


 このマント留め、大体が自分や婚約者の髪や瞳の色などを選ぶもののようで、先生にどの色が良いか聞かれた時、私は迷わず彼を連想させる漆黒を選んだ。

 ちなみにふちの銀は先生の髪の色だ。

 

 マント留めといえば、ここにきて私はゲームの先生と今目の前にいる先生のマント留めが違うと言うことに気づいた。

 ゲームでは深い紫紺のアメジスト、エリーゼの瞳の色だったものが、この先生のものは深い緋色のガーネットなのだ。

 ゲームとは違うものに気づくたび、一抹の不安がよぎってしまう。



「ありがとうございます! クロスフォード先生」

 私は彼に向かってふにゃりと笑った。


 

「……入学、おめでとう」

 そう言って相変わらず無表情のまま先生が私の方に向かって右手を伸ばしかけたその時。


「ヒメ~~~~!!」


 バタンッッ!!


「わぁっ!!」

 甘い香水の香りとともにずしりとかかる衝撃によろけながらも、私はしっかりとそれを受け止める。

勢いよく扉を開け、抱きついてきたのは、副騎士団長であるレオンティウス・クリンテッド様だ。


 今日も右目の下の泣きぼくろが色っぽい。


「入学おめでとぉぉ!」

 いつになくハイテンションでぎゅうぎゅうに締め上げてくるレオンティウス様の背をぽんぽんと叩きながら「ありがとうございます」と緩く笑う。


「は・な・れ・ろ」


 低く研ぎ澄まされた先生の声とともに、レオンティウス様は首元を引っ張られ、私から引き剥がされる。


「それと、カンザキ、君はスカートの丈が短すぎだ」

「エェー!? 女子高生て言ったら膝上5センチが鉄板ですよ!! 20歳ではもうできない貴重な格好なんですよ!? 今しかチャンスはないんですよー!!」

「知らん。貴族子女は足を出すことはないから丈は足首までだ。それに、平民でも膝下だ馬鹿者」


「んもぉ!! 嫉妬深い男ねぇっ!!」

 口を尖らせながら再び私に抱きついて言うレオンティウス様に、先生は眉間に皺を寄せすぐに私を引き離す。


「もう子どもではないんだ。執拗にくっつくな」


 5年の間に、先生との距離もグッと縮まってラブラブ……なわけはない。


 私たちは変わらない。

 悲しいくらいに変わらない。


 こんなに四六時中一緒にいるのに、変わらない。


 それでも師弟としての信頼関係は確実に結ばれているように思う。

 関係も悪くはない。

 若干過保護なくらいには大切にしてくれている。

 ただ、きっと彼にとっては異性というよりも妹か何かのような存在で、あくまで弟子なのだろう。


 それよりもレオンティウス様だ。

 この数年、ものすごく距離が近い。

 物理的に。


 歩く18禁としてのレベルが上がったのだろうか?



 私が悶々と考えていると、先生が部屋の時計を見上げる。


「そろそろ時間だ」

「あら、もう? ヒメ、会場までエスコートするわ」

 そう言って私に手を差し出すレオンティウス様。


 私はその手に自分の手を重ねながら「先生は?」と聞く。


「私は教師席だ」

「保護者席ではないんですね。ジオルド君の」


 ジオルド君も随分逞しくなった。

 その強さから、かつて先生がそうであったように、まだ学園入学前から騎士団に所属し、活躍を見せている。


 私もそれについて、騎士団の訓練や魔物討伐に参加しているが、「騎士になろうかなぁ」とぽつりと言ったところ、大人3人組からすごい勢いで却下された。


『男ばかりの場所に、君のような嫁入り前の女児が入るのは危険だ』

『危険も伴うから、あなたは安全な所で、おとなしくしていてちょうだい』

『ヒメ、お前は俺に永久就職って手があるだろう』


 解せぬ。


 

「心配しなくても、保護者席には私がいるし、シリルもレイヴンも教師席から見守ってるわよ」

 そう言ってウインクを飛ばすレオンティウス様。


 教師席には美しい現役騎士団長とワイルドかっこいい魔術師長、保護者席には色気溢れる現役副騎士団長。


 豪華な顔ぶれに今年の新入生は大丈夫だろうか、と私は心の中で心配する。



「さぁ、胸を張って。グローリアスが、あなたを待ってるわ」



 そうして私は、未知の学園生活へと足を踏み入れた。

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