【SIDEクレア】とある聖女の決意


 私は今、グローリアス学園の医務室のベッドの上にいる。


 身体に異常がないかの検査や、一連の事件の聴取のためだ。

 あんなに憧れたグローリアス学園とのファーストコンタクトが医務室なんて、考えもしなかったわ。


 あの時、地下で助けてくれた騎士様達が村に連れ帰ってくれて、しばらくしてからあの子が、すっごく美形の騎士様に抱えられて帰ってきた。


 ぼろぼろで、血がたくさん出てて、でも、私のこと見てすぐにバカみたいにヘラヘラ笑ってた。


「モミ子、無事でよかったです」


 そう言ってすぐに、彼女は気を失った。



 ────


 それから騎士様たちが両親諸共、学園に転移してくれて、治療を受けた。

 

 そして知った。


 あの子が、治癒魔法が効かない体質だって。

 

 治癒魔法かけたから痛くないなんて、嘘。

 無理して笑ってたんだ。

 私を不安にさせないように。



 父さんと母さんがヒメに泣きながらお礼を言って、何かさせてくれって言ってるのに、あの子は断った。


 それでもなお食い下がる両親に、困ったように笑って、「じゃぁ、ずっとパン屋さんを続けてください。私、おじさんたちのパンが大好きになっちゃったので、私が生きているうちは、やめないでください」って言ったの。


 私が聖女に選ばれたことによって、父さんたちが店を閉めようとしてたの、知ってたのかしら?


 魔力は開花しても魔力の弱い私たち平民は、普通の学校に通って身の丈にあった程度の生活魔法を学ぶ。


 たまに力の強い子が生まれると平民でもグローリアス学園に行くけど、大体の平民にとって、グローリアス学園は憧れだった。


 だから、とっても嬉しかったの。

 聖女は必ずグローリアス学園に通うことになるから。


 でも二年間学園に行くってことは、その間パン屋の手伝いなんてできなくなるし、卒業後も多分、神殿に入ることになる。


 私一人っ子だから、パン屋を注ぐ人間が居なくなっちゃう。

 私が聖女だって神殿の人が言ったその日の夜、喜びながらも、店を閉めるしかないかなって二人で話してたのを聞いちゃったの。

 でもまさかその3日後に、あんな事件が起こるとは思ってなかったけど。


 だから、ヒメがそう言ってくれて嬉しかった。

 あのパン屋は、私が生まれそだった大事な場所だから。



 そのあと、祭りの時にヒメについていたあの若い騎士様二人が来て、すっごい勢いで謝ってた。


「本当に、申し訳ない!」


 青ざめた顔で頭を下げる二人の背後には、すっごく美形の騎士様3人がすっごく怖い顔で立ってる。

 

 いや、ほんと、怖いからやめて。


「私が行ってくださいってお願いしたんですよ。お二人は気にしないでください。先生も、レイヴンも、レオンティウス様も、いじめちゃダメですよ?」

 って言って、ヒメは笑ってた。


 あの日ヒメを抱えてた、眉間に皺を寄せているけどものすごく美形の騎士様は、騎士団長様らしい。


 あぁ、聞いたことある。

 人嫌いで、敵も味方も誰も寄せ付けることのない鉄壁の公爵様。

 平民にも人気のある有名人だ。

 確かに、皆がキャーキャー言うのも頷ける。


 その隣で、笑顔でがっつり怒気と色気を噴出させているのが副騎士団長。

 若い騎士様二人の首根っこを掴んで殺気出してるのが、魔術師長。


 3人とも、タイプは全く違うけど、本当にこの子を大切に思ってるのがわかる。


 なんかすごいな。

 飼い慣らされてるようで、この猛獣3人組を飼い慣らしてるみたい。


 猛獣といえば、村の近くに出た魔物の群れは、騎士様達がやっつけてくれたんだって。

 魔物はあの誘拐犯達が仕掛けた罠だったって、聴取の時に騎士様が言ってた。

 その他のことは何も聞かされなかったけど、多分、大人達にしか知らせちゃいけないものもあったんだろうなって思う。



 その後で、憧れのグローリアス学園の学園長、フォース学園長がお見舞いに来てくれた。

 緑の髪と目を持つ、素敵な笑顔の紳士だった。


「クレア。保護が遅れてしまったが故に、大変な思いをさせてしまったね」

 申し訳なさそうに目尻が下がる。


「いえ!! ヒメが……この子がかばってくれたから……私は、何も……」

「うん。ヒメ、痛かっただろう?……頑張ったね」

 とっても優しく言って、ヒメの頭を撫でる学園長は、見た目は30代ぐらいなのに、さながら孫を愛しむおじいちゃんのようだった。


「それにしても、あんなに余裕のないシリル、初めて見たなぁ。やっぱり、彼に君を託してよかった。いい変化だね」


 嬉しそうに笑う学園長に、ヒメは悔しそうに顔を歪めて

「見たかったぁぁ! 私の心のクロスフォード先生アルバムに刻みつけたかったぁぁ!」

 とベッドを拳で叩いて悔しがってた。



 なんなのこの子、変態なの?



 私は、これから神殿に入るらしい。

 15歳の魔力開花まで、保護されることになるらしい。


 そして15歳になったら、あの子と同じ、このグローリアス学園に入学する。



 学びたい。あの子と。


 強くなりたい。


 もう誰にも傷つけられないように。

 もう私を庇って、誰かが傷つかないように。



 私はひっそりと、決意を新たにした。



 

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