第21話 帰還


 強い光に思わずつぶってしまった目を開けると先程までいた自室と何一つ変わらない部屋があった。


 周りを見回す、同じ部屋にいたシトリーとアヌビスはいない。だが…。


「ダンジョンで仲間割れしたヤツらとか冒険者ギルドで絡んできたダンとかいうヤツらが持っていた物だ…」


 部屋の片隅にまとめて置かれている奴らが持っていた装備や道具…、それが僕が確かに異世界にいたという事を如実に物語る。


 それから窓を開けた、見慣れた風景。僕が生まれ育った家と両親が守る畑…。丁度、日が暮れ辺りは薄暗い。それを確認すると僕は自室を後にした。


「あの、ルイルイさん、メイメイさん、アイアイ。入りますよ」


 僕は一声かけてから彼女達がいる部屋のふすまを開けた。


「いない…」


 いるはずの三人がいない。さらに僕は冷蔵庫を確認すると部屋に戻った。


「シトリー、アヌビス。ルイルイさん達もいない。だけどヤツらの道具類は手元にある。逆に日本からペットフードやパンとかも持ち込めた…。冷蔵庫にはサンダーバードの肉…。この事から考えるに」


1、日本と異世界を行き来して自由に持ち込めるのは品物だけ。


2、シトリー達もルイルイさん達もいない事から生き物は僕だけが行き来できる?しかし、これはパソコン画面から直接魔法陣を見た僕の体がなんらかの影響を帯びている?


 分からない事、断定できない事もあるがだいたいこんなトコだろう。いずれにせよもう少し検証が必要かも知れない。


「そう言えば兄さん、異世界転移には燃料蓄電池が50パーセントぐらい必要って言ってたっけ…」


 僕は蓄電池のメーターを確認しに行った、現在の残量は48パーセント。…うん、転移前は残量100パーセントだったし一回の転移で50パーセントぐらい消費するという話は間違いないようだ。


「だけど…、困ったな。少なくとも50パーセントは燃料蓄電池に残量が無いと転移できない」


 商業都市セキザンに行く約束してたのに僕が姿を消しては…。だけどこれじゃマウローに戻れない。


「まさに『くっ!!電気が足りない』状態だ」


 そんな事を言っていた僕だったが自室にある男達が残した荷物に目を留めた。


「もしかするとこの中に…」


 ヤツらの所持品をあさると結構な数の魔石が出てきた。試しに蓄電池のメーターに一番小さな魔石を乗せてみると…。


「9パーセント回復した。うん、だいたいクズ魔石で10パーセント前後の回復が見込めるみたいだ。少なくともこれで燃料の問題は解決かな。魔石があれば夜間でも充電できる」


 そうと分かれば…、僕は電源のついているパソコンでいくつかの検索をすると同時にその記事をプリントした。そして上着を着て出かける事にした。あまり異世界の店舗を留守には出来ないが…手に入れておきたい物もある。


 そんな訳で僕は原付に飛び乗ると急ぎ走り始めたのだった。

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