第8話 仲間割れ


「うーん、諦めが悪いのか身動き取れないのか…」


 自室のパソコンのモニターに連動した建物周りの防犯カメラの映像を確認すると昨日店の周りにいた冒険者グループの一つ…4人の男達が地べたに腰を下ろし不機嫌そうにしていた。


 ある者はガリガリと音がしそうな固そうな干しパンを前歯で削るようにして、またある者はナイフで割るようにしてカケラにした干し肉を奥歯で噛んでいる。


「うわー、固そうだしまずそう。デンジのごはん食べたらもうアレには戻れないよ」


 アイアイが後ろから僕の肩越しにモニターを見ている。


「見るからに喧嘩の後ね。殴られた傷もあるみたいだし…。あの後、ずっとここにいて待ち構えていたのね」


「探索や討伐もしないなら何も得られないでしょうに。水と食料を消費するだけよ」


 ルイルイさんもメイメイさんもため息を吐きながら応じている。


「そう言えばアイツら水をあまり口にしないね」


「本当だ、コップはあるみたいだけど」


 アイアイの言葉に僕もモニターに映る男達の様子を見ながら応じた。


「水が残り少ないようね」


「そうね、あの大人数が乱闘になってたんだから…。暴れ終えた後は相当に喉も乾いていたはずよ。きっと水をガブ飲みするくらいに…。ましてやここで夜明かしをしたんだもの、補給は出来てない筈ね」


「加えて鎧も着込んだままだ、見張りを立てていたならさらに疲労してるだろうね」


 三姉妹は冷静に状況を分析している。


「これなら時が過ぎれば過ぎるほど彼我ひがの差がハッキリしてくるでしょうね。もっともそこまでの時間は要らないでしょうけど」


 そうルイルイさんが言った。


「どうしてです?」


「不満に疲労、それが重なってを起こすわ。いわゆる仲間割れね、仲間内で交わす言葉もほとんどないし不機嫌さを隠そうともしてないから」


「なるほど…、皆さんを待ち伏せてる…それだけがかろうじてヤツらをつなぎ止めているという訳ですね。それならもう少し待ちましょうか」



 鎧などを身につけ三姉妹は出発の用意をした。その後に紅茶を飲みながら時間をつぶしているとモニターに変化があった。予想通りの仲間割れ、はじめはいきりたった者同士のものだったが止めに入った男の顔面に振り払おうとした手が当たると止めに入った男も激昂。たちまち収拾がつかなくなる。


「朝っぱらから何やってんだか…」


 念のためシャッターの新聞受けようの小口から外を覗くと…、やってるやってる大喧嘩。


 罵声に肉体をぶつけ合う音、芝居じゃできない本物の乱闘だ。


「チィッ、クソッ!死にやがれ!」


「ぐわあ!」


 男の一人が短剣のような刃物を抜いてもう一人の腹を刺した。


「何やってんだ!?」


「うるせえっ!」


 咎めた他の仲間の言葉を振り払うように刃物を向ける仲間を刺した男はさらに次の仲間を襲う。二人目が刺された。


 それを見て残る男が自分も刃物を抜いて凶行に及んだ男を刺した。最初に仲間を襲った男は自分が刺されると刺した男の体をグッと掴んだ。


「は、離せ!!」


「離すかよォォ!オラッ!」


 掴まれた男は最後の力を振り絞り自分を刺した男を刺し返しそのまま倒れた。


「あ…。が…」


 最後に刺された男も崩れ落ちダンジョンの地面に転がり言葉にならない声を上げている。


「アイツら、昨日喧嘩してたうちの何人かも殺したんだろうね。それが自分達の番になったんだよ」


「えっ、殺した?」


 一緒に外の様子を覗いていたアイアイが呟いた。


「うん、アイツら荷物が増えてるよ。きっと喧嘩が殺し合いにでもなったんだよ、ついでに奪ったんだろうね」


「うわあ…」


 ずいぶんと人の命が安い世界だ。


「でも、まあ…。手間なく地上には戻れるかな」


「地上か…」


 アイアイの言葉に僕は異世界の風景とやらも見てみたいと思う自分がいる事に気付いた。案外と冷静でいられている、それはアイツらが縁もゆかりもない連中だからだろうか…。



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