第5話 現代日本の食事は美味い&僕の身の上話
「はい、こんな感じですが…」
僕は店舗スペースの奥にある畳敷きの小上がりにあるちゃぶ台に食べ物を並べていく。…と言っても簡単な物だ。
柔らかさに定評のある食パンのダ◯ルソフ◯、そして
「美味しいっ!なんなのコレ!?」
マグカップに入ったコーンポタージュを味わうと開口一番、アイアイさんが興奮した様子を見せた。
「柔らかい…、なんてパンなの?」
「この肉料理も…なんて味付けなの!」
メイメイさんもルイルイさんも喜んでいる。
「あれ?デンジは何やってるの?」
どうやら
「あ、僕はこうしてパンにこの肉を挟んで食べるんです」
僕は湯煎(ゆせん)にかけたハンバーグをレトルトパッケージからパンに直接乗せた。こうすればハンバーグを皿に乗せなくて済むので洗い物が一つ減る。そんな理由で僕は直接パンに乗せていたのだ。
「すごい…。こんな美味しいものが食べられてダンジョン内なのに安心して休める…。セーフティゾーンとは言うけど心から安心して寝られる訳じゃないし…」
アイアイさんと呼んでいたのを僕と同い年だからと言う事で呼び方を改める事にしたアイアイが呟いているのを聞いて他の異世界ラノベと同じく現代日本の食品の良さを痛感する。
「そりゃ良かった、もしよかったら泊まりますか?睡眠をとったとは言えアレじゃ仮眠も良いところ…、正直小休止って感じだと思うし…。僕は一人でここにいるもんですから是非とも色々な話を聞けたら…」
「「「………」」」
三人の視線がこちらに集まる。あれ、もしかしてしくじったか?…女の人に泊まっていくか聞くのって…うわっ、考えてみたらなんか下心アリアリの男の物言いみたいだ。
「あ、あの…、僕は戦う力も無いですから…。皆さんをどうこうしようとかってワケじゃ…」
クスクスとルイルイさんが笑った。
「ごめんなさいね、そういうつもりで笑った訳ではないの。だけどあなたがあまりに必死だから…」
お、大人だ…。ルイルイさん。大人の余裕だ…。
「分かってるわ、あなたがそういう人ではない事くらい。そうでなければ私達を匿(かくま)おうなんてしない筈よ」
「ボクだってそれは分かるよ!じゃあさ、今度は私達やこの辺りの事じゃなくてキミの事を教えてよ」
メイメイさんもアイアイも少なくとも僕をある程度は信用してくれているようだ。
だから僕も彼女達に自分の事を話し始めた。異世界転移については話さなかったけど、自分が田舎の小さな商店の次男坊として生まれ、両親は楽隠居という訳じゃないが商店を僕に任せ自分達は農業に勤しむ事にした事。
僕は店を任され集落の人と県道沿いに店がある事からたまにブラリと入ってくる一見客を相手に商売をしている。
もっとも販路はそれだけでなく近隣の公立小学校から高校で児童生徒が使う上履きとか体操着などの物品を納品したりもしている。特定の季節に限っての売り上げとなるがこの売り上げが意外と馬鹿にならない。
あとは僕が言って家族で始めた農作物の通信販売。値段が安くないとモノが売れない時代と言われて久しい。だけどある時、何気なく見ていたテレビを見て高くても売れる物がある事を知った。例えばブランド物、化粧品もそうだ。高くても他に代えがきかないなら売れる。
だから珍しい野菜を育ててそれを単純に既存の販路に乗せるのではなくネットというチャンネルを窓口として日本全国の個人に見てもらう事にした。具体的にはそれを料理して食べてるだけの動画だけど…、そうしたら意外とウケたようで注文が入るようになった。
単純に今までの販路に乗せるより知る人ぞ知る野菜となって高値で売れる。だからあまり来客がない事を利してネット販売の対応に時間を充てた。
ネット販売については言わなかったけど、小さな商店でやってきた事を話していたら彼女達は興味深そうに聞いていた。もっとも僕がどうしてここに現れたのか、この建物はどういう存在なのか…それは自分でもよく分からないとだけ言っておいた。
彼女達に身の上話をしているうちに僕は高校を卒業してからの半年ほどの事を思い出していた。
□
この春、僕は地元の高校を出たんだけど就職活動が上手くいかなかった。やっとの事で就いた職場はいわゆる外食産業でファミレスを展開する企業だったんだけどコレがいわゆるブラック、若いからと良いように使われ寝る時間はおろか休憩時間もロクにない。
職場であったファミレスは一階が店舗、裏手には階段があり二階には居住スペースがある。寮完備と言えば聞こえは良いがアレはまるで牢獄みたいなものだ。
「人手が足りない?なら、すぐ職場に降りろ」
非番の日に部屋で休んでいても何かあればすぐに呼ばれる。自店舗でなくても近隣店舗で欠員が出てもだ。
それゆえ社員は車とか原付とかを持っている事が必須、別に持っていなくても良いが『すぐに行け』と言われたら行かなければならない。だから歩きや自転車じゃ話にならないのだ。何時までかかるか分からない他店のヘルプ…、クタクタになって帰る時に自転車になんて乗ってられないし電車やバスがまだ動いている時間に帰れるとは限らない。…と言うか、深夜にやっと終わる。そんな状態で働いているのに会社側からはやれ数字を上げろ、人員をもっと削って効率よくやれの一点張りだ。
出かける暇も体力も無かったから金はそれなりに
『辞めたい?まだ八月だぞ、社員としての自覚が足りん!認めん、さっさと店に戻れ!』
会社の人事部はそう言っていたが何が社員だ、奴隷の間違いだろと腹の中で怒りがこみ上げてきた。いくら働こうが会社の勤務管理には一日八時間しか記録が残らないようになっている。そんなにされて開店準備から閉店作業まで毎日十五時間以上働かされちゃあさ…やってられないよ。
そう思った僕はブラック企業という話の通じない相手なんてまともに相手するだけ無駄だと判断しこれまたネットで見つけた退職代行というサービスだった。三万五千円ほど払ったらあっさりと退社できた。
そうして始まった僕の加代田商店での生活、バカ兄貴のせいでいきなり異世界に来てしまったけど…。そんな異世界生活1日目は美人三姉妹を迎えてというなんとも華やかなものから始まったのだった。
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