第6話新学期⑥

「天川先輩って言ってみなよ」


柊の突き刺す瞳に、逆らえず輝は視線を外しながら


「天川…先輩…」


と、つぶやいた。


「目線、外さないで」


輝がゆっくり視線を戻すと、そこには小悪魔のような笑顔が目の前にあった。


その柊の表情に、輝は顔が紅潮していく。


「やめろよ」


柊の手を振り解き、思いっきり顔を背けた輝。心臓の音がうるさいほど、輝の耳に全身に響いていた。


そんな輝を見て、柊は笑った。


「ごめんね。ちょっと、からかいすぎちゃった」


そういって、再び自分の作業に戻る。


輝はそんな柊の後ろ姿を見つめながら、今度は落ち着いた声色で話しかけた。


「先輩が、俺を生徒会に入れるのは、俺が理事長の息子って知ってるから?」


予想外の言葉に、今度は柊が驚愕して振り向いた。


「君、理事長の息子なの?」


その驚き方は、本物だと輝は理解した。


だとすると、なんのために自分を生徒会に連れてきたのか意図がわからなくなった。


「本当に知らなかったのかよ。てっきり、親父が頼んで生徒会入れさせられたかと思った」


「全く。僕、そんなに情報屋じゃないし、たまたまさっきの喧嘩で転校してしたって聞こえたから、君が転校生って知ったくらい」


柊は平常に戻り、最後の欄を書き終わると、資料をまとめ始めた。


「じゃあ、なんで俺に構うんだよ」


「さあ、君が問題起こしそうだから、それ以外なんの理由もないよ」


下心なく、自分に近づいてきた柊の存在が不思議で、それでいて何故か安心感も感じた。


「じゃあ、逆に聞いてもいい?なんでわざわざ転校してきたのか」


柊は輝の前に座った。


「…くだらねーことだよ。今みたいに喧嘩して退学になったから、高校くらいだろって親父に言われて、ここに転校させられてきただけ」


理事長の力があれば、自分の息子くらいこの高校に入れることくらい容易いことだろう。


そんな偉大な父に反抗するように、こんな不良を演じているわけか。


「柊」


突然、柊は名前を呼ばれ振り向くと入り口には素也がいた。


「ああ、素也。どうしたの?」


素也は教室の中へ入ると、輝を一瞬睨み、すぐに柊へ視線を戻した。


輝も不快そうに顔をしかめる。


「そろそろ仕事終わるかなって、一緒に帰ろうぜ」


「ああ、いいよ」


柊は机を片付けると、もう一度、輝をみた。


「明日、また放課後ここにきてね。みんなも明日はくるから紹介するよ」


「本当にこいつを生徒会に入れるのか?」


素也は不服そうに柊に尋ねた。


「もちろん、素也の穴埋めが必要だし、彼の監視役しないとね」


「監視なんかされたくねーし」


「はいはい」


柊は輝の頭をポンポンと触った。


「明日からよろしく、輝」


突然、自分の名前を呼ばれて驚き、柊の顔を見ると、あの天使と呼ばれる笑顔が自分に向けられ、再び顔が紅潮していった。


「わかったよ…」


その返事に柊は嬉しそうに笑った。

それを素也は面白くなさそうに先に教室を出て行く。



これが柊の最後の高校生活の始まりだ。


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