第48話 【元魔王の雑談部屋】含む
マリア──いや、母さんが亡くなって数日が経った。
既に時魔術の副作用の期間は過ぎて力は戻った。
だが、我は何をするにもやる気が全く出ない。
自室に引き篭もる日が続く。
我に力が無いからこうなった──
我に力さえあればこんな事にはならなかった──
そんな自問自答ばかりしてしまう。
かつての我ならばこんな事は考えなかった。
以前の我は国を守るのに必死だった記憶がある。
今世ではフラグを折る事で気楽に生きたいと思っていた……出来れば恋人や友も欲しかった。
そして、呪いはあったが気が付けば──
家族、友達、恋人、仲間、部下──
周りには大事な者達が前世以上に恵まれた。
しかし、我は物語に関係ある者達の死亡フラグの事ばかり考え、フラグとは関係無い者に目が行かなかった……。
これは物語ではないとわかっていたのにだ……。
我は前世の知識と物語を知っているが故に傲慢だった……なんとかなると思っていた。
その結果──もう1人の母親を死なせてしまった……。
「結局──我はただの人か……」
久しぶりに落ち込んだな……。
誰かに相談──いや、愚痴でも聞いてほしい……だが、肯定ばかりする者達ではダメだ。
第三者の視点で対等に話してくれる者達でなければ──
やはり、会った事のない──あやつらしかおらぬな。
あやつらなら、不甲斐ない我を叱咤してくるかもしれぬな。
たが、その方が我は救われる気がする……。
フィーリアやノーラの事を言えぬな……。
我は『ネット検索』を使用し、スレ立てをする。
1:元魔王
誰かおるか?
2:導き手
王よ、心配しておりました!
3:黄昏のニート
待ってたぜッ!
4:迷える暇人
おるおる。ずっとスレ立てするの待ってたぜ!
5:名無しの勇者
ダンジョンはどうなった?!
返信が早いな……こやつらも気になっていたのであろう。
6:元魔王
ダンジョンは攻略したが──
我は経緯を書いていく──
一通り書き終わると、しばらく誰も書き込まなかった……。
5分程経過して1人が書き込む──
7:名無しの勇者
凹んでるのか?
8:元魔王
そうかもしれぬな……
9:名無しの勇者
確かに王は今回、フラグの事ばかり考えていたはずだ。なんせ──物語がそのまま進むのか、それとも違う方向に進むかの分岐点と言える場面だったはずだからだ。
父親のクレイと勇者候補のノーラだったか? その2人の死亡フラグを折る必要があったのだろう?
だから必死だったのではなかったのか?
そして、それらのフラグを折る事に成功したんじゃないのか?
そういえば、こやつらは物語を知っておったな……そして、我がやろうとしていた事も予想がつくのだろう。
10:元魔王
名無しの勇者の言う通りだ。その結果、2人のフラグは折る事に成功した。
今後現れる魔王相手に我が通用する保証はない。保険の為にも、勇者候補のノーラが死ねば──今後現れる魔王を相手に出来ぬ可能性があった。
滅びを回避する為にもフラグを必ず折る必要があった。
我の目的には戦力の確保もあったからな……。
父上は我が学園生活中に身動きがとれるようにする為と、家族の悲しむ顔が見たくなかったというのもあったがな……。
11:名無しの勇者
別に全てを救う事は出来ない状況なのはわかっているし、それが必要な事もわかっている。
俺は両親を早くに無くしている。だからこそこういう時に慰めの言葉や同情はむしろ腹が立つとわかっている。
だからこそ俺は土足で踏み込む覚悟で聞く。
王の乳母が死んだ時、何と言っていた?
恨み言でも言われたのか?
いったい何を凹んでいる?
12:元魔王
いや、恨み言は言っておらぬ。マリアは最後に『また会いましょう』と言っておった。
凹んでおるのは我の無力さ故だな。
13:名無しの勇者
ならば、会えばいい。
王なら会う手段があるだろう? フィーリアの時のようにな。
それで少しでも整理が出来るなら安いものだ。普通は出来ないからな。
無力さを感じたなら修行しろ。
俺からは以上だ。
──!? 確かに──我には会う手段があるではないか!?
14:元魔王
名無しの勇者よ、感謝する。我は少し前に向けそうだ。精進を怠らぬようにする。
15:名無しの勇者
気にするな。王はいつも偉そうにしてるのが似合っていると思っているだけだ
名無しの勇者……いつも嫉妬に狂っておったが、今の我に適切な言葉をくれる。
確かに、我の思考は止まっていたし、前向きでもなかった。
前向きになれる手段があるのならば使えばいい──きっとそう言いたいのだろう事が我には伝わった。
感謝しかない。
16:黄昏のニート
僕はね……眷属にして救った仲間達が、きっとこの事を気に病んでると思うんだ。
眷属にしてた時間さえ無ければ、乳母のマリアさんだっけ? その人が生きてた可能性が高いでしょ?
17:元魔王
そうだな……結果論ではあるが、どちらかしか救えない状況ではあった。
18:黄昏のニート
なら、ちゃんと眷属と話し合う時間も作った方がいいよ。僕がその立場なら心が苦しいよ……。
それにちゃんと家族の人達にも心配かけてごめんなさいしないとだよ?
引き篭もってるんでしょ? 僕達みたいになっても良い事なんて何もないんだから。
後ね……マリアさんは王の回復魔術のお陰でギリギリまで元気な姿だったはずだと思うんだ。回復魔術がなかったら、きっと苦しみながら動けずに死んだかもしれない……王のやった事は間違ってないよ。
きっとマリアさんも嬉しかったはずだよ。
マリアさんは笑ってくれなかった?
確かにマリアに回復魔術を施さなければもっと早くに寝たきりになったかもしれぬな。マリアのお願いは我と過ごす事だった。
ギリギリまで一緒にいれて良かったかもしれぬ。
19:元魔王
マリアは最後には笑ってくれておったな……。
話し合いか……助言感謝する。
黄昏のニート……こやつも気遣いの出来る奴なのであろう。
心が苦しいか……そんな事、思いもしなったな……。
確かにその時間が無ければ救えたかもしれぬ……だが、我はあやつらに死んでほしくなかったのも事実だ。
20:迷える暇人
王はマリアさんとは魔術使えば会えるんだろ? ならとりあえず早めに踏ん切りはつけられる。
俺は気の利いた言葉などは言えん。
だが、これだけは言える。
『死んだ者を忘れるな』
存在が消えても、王の心の中に記憶さえあれば残り続ける。
俺は今でも亡き嫁さんの事はずっと忘れていない。辛い記憶、嬉しい記憶、悲しい記憶、全てを忘れるんじゃない。都合良く美化はするな。
そして、悔しい気持ちは絶対に忘れるな。二度と同じ過ちを犯さないように何をやればいいか考えて行動しろ。
迷える暇人の助言は大人だな。
確かに忘れてはならぬ。どんな記憶であっても、それが生きた証だ。
そして、今後も同じようにならないようにしろ──そう言いたいのだろう。
21:元魔王
そうだな。忘れはしない。我は同じ過ちは犯しはしない。
迷える暇人はいつも的確に助言をくれる奴だ。今も、名無しの勇者と黄昏のニートと被らぬように助言をくれておる。
22:導き手
皆さんは優しいですね。
私は王が不甲斐なく思います。おおかた、叱咤でもされて自分が楽になる事でも考えたのではありませんか?
私は甘くありません。他の人達が言えなくても私は言います。
まず、王は慢心していたはずです。今までなんとかなっていたから今回もなんとかなる──そんな感じで。もちろん先の事などわかりません。ですが、後悔しているのならば王の中で出来る事はあったはずです。
なによりッ!
何故、思考を止めるのですか?
何故、言われるまで気付かないのですか?
何故、今後どうするか考えないのですか?
今後も王にはフラグは折ったとはいえ、この先にどうなるかわからない本編が待っています。
本番はこれからなのです。
その時に何も対処しなければ同じ事の繰り返しです。
甘えなど私は許しません。
王は私達の想像を超えた存在なのです。
どんな苦境も簡単に跳ね返すだけの智謀、そして強さがあるはずです。
力がない?
そんな物は名無しの勇者の言う通り、鍛えれば済む話でしょう?
『畏怖』は努力を裏切らない異能です。天才が努力したらどうなるかわかるでしょう?
王はこれから大事な者達を守る必要があるのですッ!
こんな所で立ち止まるなッ!
そして──
私達をもっと頼って下さいッ!
23:元魔王
その通りだ。確かにお主らともっと連絡を取って意見を貰えておればなんとかなったかもしれぬ。
今後はもっと頼らせてもらう。
導き手が1番、男前な事を言っておる……。
甘さと優しさは違う──そう言いたいのかもしれぬな。だがとても優しい言葉に感じる。
それにソアラ、ミラ、フィーリアは今後も命を狙われる可能性だってあるのだ。その事も今後対処せねばなるまい。
言葉はそこそこキツいが、やるべき事の方向性を我に教えてくれておる。
なにより、情けない我にこの者達は慰めや同情はなく──
真剣に考えて我に言葉を投げかけてくれておる。
普通、こういうネットの繋がりは面倒臭いと返事もせずに関係が終わると見た。
だが、こやつらは本当に優しい者達だ。
24:元魔王
お主らは頼りになるな。情けない我をまた助けてくれ
25:黄昏のニート
当然! いつでも来てよ!
現代知識で知りたい事あったら僕が調べるからさ!
導き手って本当甘くないよね〜リアルじゃ絶対お
王が怖がって来なくなったらどうしてくれんのさ
26:迷える暇人
俺もいつでも待ってるからな!
物語での予想ぐらいしか出来ないかもだけど
27:名無しの勇者
俺も待ってるぜ!
妄想力で助けてやるぜ!
28:導き手
黄昏のニートは後で金にものを言わせて探し出してからお仕置きしますからね?
私達は王のフラグを折るだけじゃなく、関係無いフラグも折る為に尽力致します
29:元魔王
感謝する。四天王としてこれからも我を支えてほしい
30:名無しの勇者
任せろ!
31:迷える暇人
御意
32:黄昏のニート
写真もまたよろしくね!
33:導き手
我らは王の為に
34:元魔王
ありがとう。優しき四天王達よ。また会おう。
我は通信を切る──
こやつらは我の良き理解者だ──
我に大事な事を気付かせてくれた。
写真などではなく、いつかちゃんとした何かで礼がしたいな。
さて、皆にも心配をかけておる。
まずは──
「「「我らはここにッ!」」」
「「もきゅ」」
既に来ていたか。まぁ、断片的でも心が読めるならわかるか……。
皆が跪いている。
そして、何故かシロ丸とクロ丸もおるな……まぁ、眷属だからいいか。
さて、こやつらが気に病んでおるかはわからぬが、変な誤解をされておったらいかんからな……。
我が話し出そうとすると──
先にジョイが顔を上げて話し出す──
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