第18話

 大まかスイーツ店の手筈は整えた。


 それに従業員になる者達にもスイーツの作り方も伝授しておる。


 全て順調であろう。


 だが、多少問題が発生した。フラグの事ではない。


 ずはり──


 フィーリアが我から離れん……。


 確かに我の専属のメイドではあるのだが──


 まさかまで入ってくるとは……。


 風呂は予め一人で入ると伝えているというの──


『お背中を流しに参りました』


 ──とサラッと言って、ミラと一緒にさりげなく入って来よる……。


 断ると──


「嫌なのですッ! お兄ちゃんとお風呂入るのですッ!」


 ──と、ミラを前面に押し出してくるので断るに断れぬ。


 我、可愛い妹を拒絶出来ぬッ!


 全く……どうなっておるのだ?


 もう勘弁してほしいのである……。


 我とミラが訓練しておると、隣で一緒にやり出しておるし……。


 しかも、どんどん強くなっておる……。


 ユニークスキル『影魔法』の使い方もわかって来たようで、いきなり現れるから気配も感じ辛くて最近ではネット検索を使い辛い……。


 我、プライバシーが無い件についてッ!



 そういえば、この間部屋に戻ると──


『クンクン、これがアーク様の匂い……この枕カバーは私のと交換しましょう』


 ──とか言っておった……少し鳥肌が立ったな。


 フィーリアも闇が深い気がしてきたのである……。



 闇が深いと言えば──ソアラだ……盗賊討伐の任務からしばらくしてから手紙が来た。


 それがこれだ……。


『拝啓:アーク様へ


 いかがお過ごしでしょうか?

 任務もお疲れ様でした。お怪我は無かったようで何よりでございます。

 ご活躍を近くで見れなくて残念です。


 そういえば、に救出された女性達のハーレムを作っているとありました。


 しかも、その1人は専属メイドとして雇っているとか?


 まさか浮気などされていませんでしょうね??


 もし、そのような事が起これば──


 している者達を介入するようにを出しておきます。ご存知かと思いますが、既にそちらの潜入させて頂いています。


 よろしいですね? くれぐれも過ちは犯してはなりませんよ?


 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい。


 あぁ、目の前にいて貰えないのなら──


 呪いたい──



 貴方様を愛するソアラより。


 追伸:ついに『呪魔法』を習得する事が出来ました』



 ……この短い文章にが篭りまくっておる件について。


 最近知ったのだが──


 屋敷の使用人に何人かソアラの手の者が入り込んでいると父上から報告を受けた。


 何故情報が筒抜けなのかよく分かった瞬間だった。


 まぁ、ソアラはいつか使用人と共に嫁いで来るから、こちらのを先に学んでいるのかもしれぬが──


 しかし、父上よ……よく雇ったな……情報だだ漏れであるぞ?


 それと、この屋敷の使用人になるには最低限の戦闘が出来ないとダメなのだがな……。


 おそらく介入する事が出来るぐらいそこそこ強いのであろうな……そもそもハーレムって……いったいどんな情報の伝え方をしたのだ?


 ちなみにフィーリアがメイドとして許可が降りたのは、さすがに我専用メイドがいない事に頭を悩ませていたかららしい。


 まぁ、今では屋敷でも指折りの強さになっておるがな……。


 それよりもだ──


 ソアラが『』を習得した事の方が問題であるッ!


 その内、呪われる気がしてならん。いや、まぁ、好意は素直に嬉しいのだがな……。


 夫になる男を本気で呪ったりせんだろ……たぶん。


 よし──今度、絶対にミラを連れて遊びに行こう……。


 しかし、任務がな……面倒臭いのである……あれから頻繁に手伝わされて自分の時間が減っておるし……。


 物語では確か学園に入学したアークはほとんど学園にいなかった気がするぞ? あれって任務のせいではなかろうか?


 なんとか当主を継ぐのを先延ばしにする為に原因を突き止めなければならん……物語には書いておらんからな。


 に聞くか……。


 だが、その前に息抜きをしてからだな。


 我はネットを開く──







 ──本編(フィーリア編一部抜粋)──



 憎い──


 領主としての業務を放棄したレイモンド家が憎い──


 最愛の弟、クロードを殺したレイモンドが憎いッ!


 殺すッ! 殺してやるッ!


 今は学園が長期休みのはず。一網打尽にしてやるッ!


 屋敷に忍び込み、しながらアーク・レイモンドの部屋まで移動する。


 あの時、護衛の兵士がいなかったのは盗賊に襲わせる為だと


 クレイ・レイモンドは既にいない──あの時一緒にいたアーク・レイモンドを殺すッ!



 私は寝室へと忍び込む──


「何者だ」


 さすが、国最強である男──【死神】アーク。

 気配を殺しているのにバレるとは……しかし、私も昔みたいに弱いままじゃない──


 私は即座に影の中に入り暗闇と同化する。


 そして短剣を死角である背中に向けて突き刺すが弾かれる。


「弟のかたき──取らせて貰う」


「覚えがない」


戯言ざれごとを」


「そうか──やるつもりか──」


 一気に場の空気が変わる。信じられない圧力。そして冷たい目──


「死ねッ!」


 しばらく『影魔法』を使いながら死角に攻撃するも全てが紙一重で避けられる。


「──君は操られているね」


 戦闘中だというのに、そんな事を言ってくる。


「操られてなんかいないッ!」


 私は先程よりも速く影を移動しながらアークに次々と死角から急所目掛けて攻撃していくが、擦りはするものの致命傷には至らない。


 なにより、不思議なのは攻撃は当たっているはずなのに


 それよりも私が操られているだと?


「そのネックレスは催眠効果のある魔道具だ。間違いない。俺はそれをで見ている。──がつけていた……」


「──!?」


 動揺した瞬間、すかさずアークはネックレスを切り飛ばす。


 すると、頭の靄が晴れていくような感覚に襲われる──


 頭が痛い。



 私は──


 盗賊に襲われた後は奴隷にされた。


 その後はひたすら主人となった人からネックレスをつけられた後は戦闘技術を身に付ける為にひたすら血の滲む訓練をやらされる。


 そして、その主人が──


「お前がそうなったのも、村人が死んだのも、弟が死んだのも全てはレイモンド家のせいだ」


 そんな事を毎日言う。


 そして、私はそれが正しいと──思い始めた?


 頭がガンガンする……。


 その場で蹲り、頭を抱える。


「アイテムの効果が切れたか……誰の指図だ?」


 誰? 私にこんな事をさせたのは?


 確か──


「……お、王太子……」


「そうか……君も被害者か……」


 被害者?


 いいえ、私は加害者……だって罪のない人を殺し過ぎたもの……。


 本当、何をやってんるんだろ……直ぐに死ぬつもりだったのになぁ……。


「ごめんな……さい……──そして、さよなら」


 早く、弟の元へ逝かないと──


 短剣を胸に突き刺そうとグッ、と力を入れるがアークに止められる。


「早まるな」

「──これから貴方を殺す為に周りが動き出すわ。逃げるなら逃げた方がいいわ」


 既にアークを殺す為の計画は進んでいる。ランベルト家も貴方の妹であるミラも──


「俺は逃げないよ。愛する人の為に──ね。君は奴隷から解放して逃してあげよう」

「いらないわ」

「わざわざ自分で死ぬ必要はない」

「あるわ。弟が待ってるもの」


 そう、弟が死ぬ時に私は──『一緒に逝く』と約束しているわ。


「では取り引きをしないか?」

「取り引き?」

「あぁ、君が生きるなら──俺の大切な人を連れて一緒に逃げて欲しい。そうしてくれるなら奴隷紋を外して、これをあげる」


 大切な人──それはソアラ・スカーレットの事だろう。王太子の元婚約者で今はアークの婚約者。

 その者の為に私を生かすとアークは言っている。


 それよりも手に持っているのは何?


「なにこれ? 玉?」

「これに会いたい死者を思い浮かべて割ると短時間だけその者と会える使い捨ての魔道具だ。どうせこれは俺には必要無い。会いたい者達には恨まれているだろうからね」

「──!?」


 それがあれば弟と会える?


 私はしばらく考え──


 条件を飲む事にした。


 死んだ所で会えるかなんてわからない。死ぬにしてもこの魔道具を使ってからでも良いと思ったから。


 そして、その帰り──


 魔道具を使おうとした時、背部に激痛が走ると同時に胸から剣が突き出てきた。


「ごふッ……」


 そのまま私は吐血しながら倒れ、魔道具も割れる。


「裏切り者には死」


 そう言い残して気配が消える。



 そっか……監視されてたのか……。


 生かされても結局殺されるとか笑えるわね。


 目が霞んできた……でも魔道具はちゃんと発動している。


 煙の中から会いたくて仕方がなかった弟の姿が見えた。


 とても悲しそうな表情をしている。何か話しているけど、何も聞こえない……。この魔道具は会うだけしか出来ないのかもしれない。


 心配かけちゃったかな……。


「今、逝く……わ……」


『ゆっくり休もう……もう頑張らなくていいんだよ……お姉ちゃん』


 クロードがそう言いながら私の頭を撫でてくれた気がした。


 クロードが頑張ったら──いつもこうやって、私がよく撫でてたなぁ……。


 あの頃に戻りたいよぉ……。


 笑顔でいっぱいだったあの頃に──



 アーク──


 約束──


 守れなかった……ごめん。




 ◆




 フィーリアよ……これからは自分の幸せの為に生きろ。


 失った者は戻らぬ。それは世のことわり──


 前世の我であっても不可能だった。


 だから──


 心の傷が癒えるまで我がサポートしてやる。


 死んだ者達の分まで笑え、不器用な笑い方でも良い──


 悲しみを消し飛ばすぐらい──


 ──笑え。


 そして幸せになれ。


 それが死者への手向けだ。


 そうすれば、きっと弟や村人達も笑ってくれる。






────────────

近況にてフィーリアの自作イラスト貼っていますので良ければイメージ補完に見てもらえると嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/users/tonarinotororo/news/16817139554982405376

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