第12話
なんという凄まじい威圧──そして殺気……。
洞窟から次々と現れる盗賊の手足を一瞬で刈り取る動作も無駄が一切無い。
これがレイモンド家、歴代最強になると言われているアーク様のお力か。
この年で既に一流とは恐れ入る。
残念なのは人望が皆無という点だけか……クレイ様の奥方が一時期は同世代の貴族を招いていたそうだが、全て怖がられていると聞いている。
確かに嫌悪感が凄まじい上に、この威圧で更に増している気がする。
なんとか我が子、ソラには慣れてほしいのだが、難しいかもしれんな。
そういえばアーク様は見張りだけしか殺していないな。出てくる盗賊はあくまで戦闘不能にしているだけだ。
何故だ?
人数が多いからか?
「ソラ、まだ殺すな。戦闘不能にしておけ」
「はッ」
アーク様の指示も殺せとは言っていない。
まさか──不慣れなソラの為にあえて殺さないという指示を!?
確かにまだ殺しに慣れていないソラではあるが、ただの戦闘であればしっかりと動けている。
しかもアーク様はソラが動きやすいようにサポートもしている。
この思考力と判断力は既に子供の域ではないな……。
しかし、クレイ様も本当ならご自身で殲滅したかったであろうに……。
こいつら盗賊のせいでレイモンド領の村が一つなくなってしまった。
許せる所業ではない。
例え、アーク様が生かして捕らえた場合でも後で確実に処理せねばなるまい。
それがレイモンド家をサポートするランベルト家の役目──
◆
アークよ……実はお前って既に俺より強いんじゃないか?
父は切り札を使わないと、そんなに速く動けないぞ?
しかも殺すより、無力化させる方が難しいんだぞ?
もしかして訓練の時は手を抜いていたのか?
──まさか!? 父の威厳の為にあえて互角を演じてくれていたのか!?
なんと父想いな息子だ。
やはり、ぼちぼち俺も潮時かな……切り札を使わんとアークと渡り合えんだろうし。
仕事を一通り教えたら継承を済ますか……国の為ならその方が良いだろう──
だが、アークには国に対する忠誠がない。どうしたものか……。
それに本来であれば──スキルに恵まれているミラに継承するのが一番良いのは分かっているが、今回の件でどうしても俺はアークに継承させたいと思ってしまった。
これだけ領民の為に怒ってくれるアークならば立派な領主となれるはず。それにミラにこんな汚れ仕事はさせたくはない。
──近々、魔王が復活すると王から報告を受けている。その時にレイモンド家が真っ先に駆り出される事は容易に予想が出来る。
【神々の呪い】で能力の制限を受けたお前はいずれ力が無い事を悔やむかもしれない。
この力は少しだけ死に辛くなるし、努力を怠らないお前の力に必ずなる──
そんな事を考えていると大半の盗賊共は地面に転がり、呻き声をあげていた。
残りは後少しか……。
しかし、生かしている事から何か理由があるのかもしれんな。
洞窟から1人の盗賊が出てきたな。おそらく、あれがボスだろう。
「──ちっ、これはお前がやったのか? ひでぇ事しやがる……」
盗賊のボスはアークに向けて悪態を吐く。
「あ゛? お前らに言われたくないが?」
「──ぐぅ、餓鬼の癖に何て殺気出しやがる」
「誰が──親玉だ? 答えれば楽に殺してやる」
親玉? どうやら目の前のボスっぽい奴に言っている感じではなさそうだな……確かにこいつらは盗賊にしては身なりが良いな──まさか、どこかの私兵か?!
「ふん、俺が親玉だ。俺の部下を使い物にならなくした落とし前はつけさせてもらうぜ?」
「どっやって? その腕じゃ無理だな」
「なにを言ってやが──!? うぎゃぁぁぁっ」
盗賊の親玉が話している最中にアークはかなりの速度で両腕を斬り落としていた。
今の速度はソラには見えなかっただろう。俺とジョイでギリギリかもしれない。
「さぁ、誰が親玉だ? 正直に答えたら命を助けてやるか考えてやる」
「知らないッ! 助けてくれぇぇ、このままじゃ死んじまうッ!」
「他の奴は?」
アークは地面に転がる盗賊に問いかける。
「「「隊長しか知らないッ!」」」
「隊長か……。部下がそう言っているぞ?」
やはり、私兵か。しかし、どこの私兵だ?
「し、知らないッ!」
「しらを切るか……ならば直接体に聞こう──我に
「……親玉は知らない……我らは傭兵団で定期的に送られてくる手紙の命令により、奴隷狩りを行っている…………あ、れ? 何故?」
──!?
アークが睨んだ瞬間、親玉が虚な目をして、すらすらと質問された内容を答えていく。
そして、いきなり正気に戻ったようで困惑していた。
いったい何が? アークには何か特別な力でもあるのか? スキルは何度確認しても無かったはず。
「ふむ……中々抜け目のない親玉のようだな。ご苦労──安心して死ね」
「!? 答えたら助けてくれるんじゃ!?」
考える素振りを見せるアーク。
まさか──約束を守るつもりなのか?
「ふむ、そうだな──考えた結果、お前らは死刑だ。なぁに痛いのは一瞬だけだ。そうだな、情報の褒美として特別に我の自作アイテムで殺してやろう」
「「「!?」」」
アークは棒みたいな物を腰に付けた袋から取り出す。
そして、それを親玉の口に咥えさせる。
「さぁ、全員良く見ていろ? これがお前らの死に様になる──」
アークが少し離れると──
ドォォォンッとけたたましい音と共に棒が破裂し、親玉は肉片と化した。
「い、嫌だ、助けて、助けてくれぇぇぇッ」
両足がある盗賊は涙を流しながら走り出して逃げ出す──
「逃すわけがなかろう──」
「──!?」
アークはまた先程の棒を投げつけて爆発させて絶命させる。
その姿に容赦は一切無い。顔色も変えない。
ソラは震えているが、俺達の仕事はこういう事も多々ある。
「ソラ、1箇所にこいつらを集めろッ!」
「はッ!」
震えるソラとアークは盗賊達を1箇所に塵山のように積み上げると命乞いが始まった。
「な、な、な、何でもするから命だけは……」
「お願いします、お願いします」
「助けて下さい、助けて下さい」
アークは口元を吊り上げて告げる──
「村人の親子がそう言った時──お前らはどうしたんだ? こう言っただろ? 『嫌だ』とな。だから我は死した村人達の為にお前らの魂を捧げよう。少しぐらいは村人達も気が晴れるであろう──だから安心して逝け──」
まるでこいつらが死んだ村人達に言って殺したかのように吐き捨てるように告げる。
「この悪魔がッ──」
最後に盗賊が悪態を吐いたのと同時に大爆発が起こる──
「ふん、最高の褒め言葉よな。村人よ、安らかに──」
アークは目を瞑る。その顔は少し寂しげだ。
良くやった……立派に務めを果たしたお前の想いはきっと村人達に届くさ……。
レイモンド家は代々、理不尽な暴力などから守る為に立ち上がった家系だ。
その心意気を少しでもわかってくれたなら俺も嬉しい。
ジョイは驚きつつも、羨望の眼差しを向けているが、ソラは何か思う所があるのだろう。浮かない表情だ。
ソラが友達になってくれたらもっと嬉しいのだがな……。
お前にスキルさえあれば──
呪いさえ無ければ──
そう思ってしまう。
親である俺でさえ嫌悪感を感じてしまう。
だが、俺達家族はお前を見放したりはしない。
ソアラちゃんだってお前の事が大好きみたいだし、ミラだって今ではかなり懐いている。何事も不可能という事はないはずだ。だから、折れずに頑張って欲しい。
ミラに関しては少し異常なぐらい懐いてる気もしないではないが……少し将来が不安だ……。
そういえば王太子からの婚約の話が来ていたな……どう返事をするやら……。
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