第6話

 ソアラが自領に戻り、しばし時が過ぎたのである。


「お兄ちゃん顔が緩んでるのです」


 話しかけて来たのは我が最愛の妹、ミラだ。


「ミラよ、お兄ちゃんは嬉しいんだ。ついに婚約者が出来たんだぞ?」


「ずっと緩みっぱなしなのです!」


 それも仕方あるまい。

 今世でも一生結婚出来んと思っていたからな……忌々しい神々の呪いのせいでな。


 それより、無事にが出来て良かった。

 本当はその場で治してやりたかったが、部位欠損の治療は今の魔力量では足りんからな……丸2日もブローチに魔力を限界まで込めた記憶がある。

 それに魔道具を作る際に通常の術式ではブローチに魔術文字が刻めなかった……。


 そこで、勉強した日本語の漢字を試しに刻んで魔術を使用したら発動したので、最後は漢字を当て込んでみたのだが無事に発動して何よりだ。


 1番ホッとしたのはソアラが治ったので復縁しました〜、という結末が無かった事だ。

 物語でよくある踏み台キャラとか嫌なのである。


 まぁ、ソアラが幸せになるのであれば血の涙を流しながら祝辞を述べたであろうが……。


 治ったソアラを拝めるのはまだ先になるのが少し残念ではあるな。


 手紙はよく送ってくれるので元気なのは伝わるのである。


 ただ、ソアラは日本で言う『ヤンデレ』ではなかろうか?


 手紙の内容なのだが──


『拝啓──私の愛するアーク様へ


 お元気にしているでしょうか?

 私は元気です。アーク様のお陰で私の人生は変わりました。本当に感謝しかありません。

 最近、アーク様の婚約者として恥ずかしくないよう、淑女としての習い事や魔法の訓練を再開しました。私には魔法の才能があるようです。

 このまま貴方様を支えられるように精進致します。


 ですが、いつもアーク様の事しか考えられません。

 早くお会いしたいです。


 ところで──

 浮気はしていませんか? してませんよね? 浮気は許しませんよ?

 もし私の知らない内に他の女性と浮気などすれば、私は貴方を殺して、私も死にます。


 妻を増やすなとは言いません。ですが、第一夫人になる私の許可なく女の子に手を出す事は絶対に許しません。


 もしもの時の為に、お父様に有名な様を講師として迎え入れるように手配して頂いています。


 あぁ、早くお会いして貴方をしたいです。


 ソアラより』



 ……うむ、何度見ても闇が深いのであるな……これが日本でよくあるヤンデレという奴か……日本は怖い国だな……。


 相当心配性なのでいつか顔だけでも出しに行くか……これ以上、呪いは勘弁願いたいのである。


 というか嫌悪感は無くなったのであろうか?

 途中から態度に怯えが無かったが何故だ?


 不遇な環境にいて、憎しみや悲しみなどが我の与える恐怖感、嫌悪感、不快感を上回ったのだろうか?


 もし、そうであるならば──次会った時どうなるか、であるな。



 そういえば、熊が現れたあの時──ソアラの精神は既にかなり限界であったな。


 物語では学園でアークと再会した時には心が壊れておった可能性が高い。


 学園前の出会いでは本来であればプリンなどはなく、ただ話してその場が終わっていたのであろう。


 だが、我がアークとなり、干渉した事で少しずつ運命の歯車がズレておるのかもしれん。


 これでソアラの運命は180度変わるであろう。


 今までも十分辛い目に合っていたはずだ。これから少しでも幸せになってほしい。


 というか我が幸せにするのであるな。


 なんせ婚約者であるからなッ!


 本格的に物語が始まるのは学園が始まってからだったはず。


 それまでに我が快適に過ごせる環境を作らねばならんな。のんびり暮らしていきたいのである。


 そういえば物語のアークは学園に入学する時には既に当主となっていた。今度はそこを回避したい所である。


 若いうちから仕事とか面倒臭い。社畜は勘弁願いたい。


 さて、またラノベや日本の知識やらを漁るとするか──






 ──本編(ソアラ編一部抜粋)──



 とうとう、私の死刑の日がやってきました。


 罪は国家反逆罪です。


 私の醜い顔はギロチンという死刑代の上で晒されています。


 民衆からは『さっさとは死ねッ!』『このの手先がッ!』と罵倒を浴びさせられています。



 ふと、お母様の最後の言葉が頭を過ぎります。


『生きて──幸せになってね』


 お母様……申し訳ありません。その約束は果たせそうにありません。私に幸せな事は何一つありませんでした──


 いえ──幸せな事はあったかもしれません。


 それは──


『俺は次の戦で死ぬだろう。だが、生まれ変わってもお前とまた一緒にいたい。俺は──いつまでもお前の味方だ。愛してる──』


 そう言い残して、戦死したアークがいたから。


 思えば──


 ろくな人生ではありませんでしたが、アークがいたお陰で私はここまで生きれたのかもしれません。


 彼と学園で再会し、私を庇ってくれた。どんな辛い事があっても支えてくれた。彼も呪いで孤独でしたから私しか話せる者がいなかっただけかもしれませんが……。


 でも──それなりの時を一緒に過ごすと、私の事を『愛している』と言ってくれました。


 そして最後まで味方でいてくれた。


 そんな彼を巻き込んで死地に追いやってしまった自分が憎い。私も一緒に死にたかった。


「醜いお前はここで死ぬ。のアークをお前のお陰で始末出来た。礼を言うぞ? ゾンビのような顔のお前でも役に立ったな」


 私の元婚約者である王太子レオンが吐き捨てるように言う。


 それより気になる言葉が──


 邪魔者?


 そうか、アークを巻き込んだのはわざとなのか……。


「外道が……」


 こいつは気に入った女の子は力ずくで自分の物にしている外道。アークの妹であるミラちゃんを手に入れる為に『魅了』して、最後は最愛の兄を殺させた元凶。


 それだけではない。さっきの言葉からアークを始末する為、権力で言われのない罪を私になすりつけた。


「ふん、私のために動かぬ者はいらぬ。そのうち本当の魔王が復活する。その為に美しいのミラは必要だ。お前はだが、醜い。私の側には必要無い。代わりは用意するからな。そして私が勇者となり魔王を倒すッ!」


「貴方じゃ無理よ……」


「ふん、あの世から見ているが良い。さぁ──民衆よッ! 魔王の手先であるアークは私が討伐したッ! 残りはその仲間である魔女ソアラの死刑をこれより執行するッ!」


 これで最後か……。


「お前ら全員呪われろ──」


 吐き捨てるように言葉を出した瞬間──私の視界は民衆から床に切り変わる。


 首を切られたのでしょう。



 アーク……来世では必ず──


 再会して──


 幸せになりましょう──



 まぁ、転生なんてないのでしょうけどね……。



『必ず幸せにしてやる』


 ふふ、幻聴かしら? アークの声が聞こえる?


 でも、こんな最後でも──いえ、最後に声が聞こえるのは悪くないわ。


 貴方が本当の魔王だったら良かったのに──


 愛してるわ──


 アーク──


 私の意識はそこで途絶える──




 ◆




 ソアラよ──未来は変わったはずだ。


 我が必ず──


 ──幸せにしてやる。



 破滅フラグをへし折るというのは、神々のシナリオから外れる事になる。


 ある意味──



 になれば神々に対する『ざまぁ』という奴にならないだろうか?


 まぁ、今後の我次第ではあるがな。



 画面を閉じて空を見上げる──



 あぁ、別れてそこまで日が経っておらんというのに、早くソアラの笑顔が見たい──







────

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