第16話 本当によくある勇者召喚⑮

「あの、どうしたんですか?」

「……す、すみません、聞き間違えたみたいです。今、レベル1と聞こえたような?」

「はい。俺のレベルは1ですよ? ……えっ、何かおかしいですか?」

「「お、おかしすぎますよ!」」

 うわっ! な、なんで二人ともそんな驚いているんだよ!

「レベル1がそれほどおかしいですか? 異世界人だし、現状のレベル1は普通だと思うけど?」

「おかしいよ! トウリは魔の森で数日生き抜いたんだよね? レベル1でどうやって魔獣の相手をしていたんだよ!」

「魔獣の相手はしてないよ?」

「「……え?」」

「ずっと逃げていたんだ。戦えないし」

「「…………ええぇぇぇぇっ?」」

 いや、だって、鑑定士ですもの。

「魔の森で魔獣から逃げるって、普通はできませんよ? そもそも、レベル上位の魔獣を鑑定するなんてこともできないはずです」

「でも実際にできちゃいましたからね。ほら、ここにやり遂げた人間がいるわけですし」

 嘘は言っていないし、すべて本当のことだ。

 俺がどうやって魔の森で過ごしてきたのか説明すると、二人は口を開けたまま固まってしまった。

「うーん……あり得ない!」

「そうよね、あり得ないのよねぇ」

「そんなことを言われてもなぁ……そうだ! 二人とも、ちょっとだけ待っていてくれ!」

 俺は二人に信じてもらうためにはどうしたらいいのかを考え、言葉だけではなく証拠を突きつければいいのだと判断した。

 リビングを飛び出した俺は自分の部屋へと向かい、ぶどうを入れていた小皿を手にして戻る。

 テーブルに小皿を置くと二人はしげしげと眺めたあと、首を傾かしげながらこちらを向いた。

「……あの、マヒロさん、これはいったい?」

「これは俺が魔の森を脱出するために食べていた果物で、一時的に能力が上がる果物なんです!」

「……またまた。冗談だよね、トウリ?」

「本当だって! これを一粒食べると速さの能力値が倍になったんだよ! 疑うならアリーシャさん、鑑定をしてみてよ!」

 必死の説得が通じたのか、アリーシャさんが俺の目の前で鑑定を発動してくれた。しかし——「……あ、あれ? 鑑定、できない?」

「そうなの? 姉さんの鑑定スキルのレベルって、確か5だったよね?」

 ふむ、レベル5ってことは、最高の10の半分までは上げているんだな。

「鑑定ができないとなると……うん、よし!」

「どうしたの、姉さん——えぇっ!?」

 グウェインが驚いたのも仕方がない。何せ、アリーシャさんがぶどうを食べてしまったからだ。

「ちょっと、大丈夫なの、姉さん!」

「……うん……全然大丈夫。むしろ、今まで食べてきたぶどうよりも甘くて美味しいわよ!」

 ……あっ、この世界でもぶどうはぶどうなのか。

 アリーシャさんの言葉を受けてか、グウェインも残りの一粒を口に運び、あまりの美味しさに目を見開いていた。

「……おぉ、これは美味しいね!」

「うんうん、美味だよねぇ……って、そこじゃなくて! ステータスを確認してみてよ!」

 確かに美味しさには感動したけど、大事なのは能力値が上がるかどうかだから!

「俺の場合は速さが5しかなかったから倍になっても10とかだったけど、二人の場合はどうなるのか気になるんだ……って、どうしたの? なんか、ものすごく変な顔をしているけど?」

 アリーシャさんもグウェインも、はとが豆鉄砲を食ったような顔でステータス画面を見つめている。

 しばらくそのままの状態で動かなくなっていた二人だが、ゆっくりと顔を見合わせてお互いにアイコンタクトを取ったのだろうか、続いて二人が同じ速度でこちらを向いた。

「「……ほ、本当に上がっている!」」

「だから言ったじゃないですか!」

 そこからは二人の質問攻めとなり、俺が知りたい情報はお昼まで聞けずじまいになってしまった。

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