第171話 魔道王

 珍しい魔道具と聞いた魔道師達が慌てて迎えに来た結果、息も絶え絶えでまともに会話も出来ない状態。

 そんな彼らに渡すのはもちろんコレ!シュワッと爽やかで、気分も爽快!疲れた時はこれ1本!おなじみの元気湯登場!


 ただであげるけど、もちろんただでは無い。エテルネにあるローマン商会でも取り扱う予定だから、大口顧客になりそうな魔道士達への売り込みわいろです!


「皆さん良かったらどうぞ。我が国の特産品の疲労を回復してくれるポーションの様な物です。」

「そ、それは・・・お気遣い感謝する・・・。」


 ・・・・・ゴクリッ


「何だこのポーションは!!!」

「力が湧いてくるぞ!!!」

「桜殿だったか!?このポーションは貴国以外では買えないのだろうか!?」

「ローマン商会で取り扱う予定にはなっていますよ!その時は是非ご贔屓に!」

「「「 絶対買いに行きます!!! 」」」


 これは思わぬ宣伝効果があったね。ローマン商会エテルネ支部が取り扱いを始めたら、きっと魔道士達の長蛇の列が出来るんだろうな。ローマンファイト!


「それでは魔道具の研究室へとご案内させて頂きます。どうぞこちらへ。」

「魔道具の研究室・・・ですか?」


 元気になった魔道士達の先導で歩き始めたのだが、案内先はまさかの研究室。こういう時って謁見室とか応接室とかじゃないの?まさか魔道具だけ取って、魔道王に会えないとか無いよね!?


「あの・・・魔道王様に直接献上させて頂きたいのですが・・・。」

「はい。ですので研究室へどうぞ。魔道王様は研究室におられますので。」

「???」


 やっぱり魔道具だけ取られるのではと不安になった私は、魔道士達から事情を詳しく聞き出してみた。

 何でも今代の魔道王様は、元は魔道具の研究をしていた魔道具師だったらしい。その関係で、今でもよく魔道具の研究室へと通っているのだとか。とりあえず一安心かな?


 そんな話しをしながら歩いていると、いつの間にか研究室へと着いていた。

「温泉街から来られた桜様がご到着なさいました!」

「来たか!入ってくれ!」


 魔道士達に促され研究室の中へ入ると、髪はボサボサ、ローブはヨレヨレな人達が整列して出迎えてくれた。

 集団から一歩前に出て出迎えてくれたのは、一際疲れ切った感じの分厚い眼鏡を掛けた男性。


「よく魔道都市エテルネへ来られた!歓迎しよう!」

「あ、はい・・・ありがとうございます?」

 どうやら彼が魔道王らしい。・・・・・え?本当に?この研究者っぽい感じの人が?


 チラリと胸元をはだけさせたような着崩した格好で、アンニュイな雰囲気を漂わせた黒髪のエキゾチックな男性を勝手に想像していたよ。

 私の想像は無いにしても、まさか魔道王がブラック企業に疲れ切った社畜の様にヨレヨレな姿をしているとは誰も思わないと思う。


「魔道王様と、魔道士の皆様。よろしければこちらをどうぞ。」

 差し出したのはもちろん元気湯!ここでも営業しておく事は忘れないよ!


「魔道王様!そのポーションは素晴らしいですよ!」

「私達も先ほど頂いたのですが、疲れが吹き飛びます!」

「是非飲んでみて下さい!」


 怪しい液体を飲むかどうか悩んでいた魔道王に、先に飲んだ魔道具師達が熱心に勧めだした。何これちょっと食いつきが良すぎるのでは!?

「お前達がそこまで言うのは珍しいな。分かった、飲んでみるとしよう。」


 ゴク・・・・・ゴクッゴクッゴクッ


 一口飲んで美味しかったのか、一気に飲み干す魔道王。疲れた体にはさぞ染み渡ったことでしょう。


「う、美味い!!!もっと飲みたい!!!」

 これでローマン商会に魔道宮という大口顧客が出来たね!今回の営業も大成功だね!!


 元気湯を飲んで復活した魔道王と魔道具師達が、ギラギラした目をしながらソワソワしている。

 珍しい魔道具を早く見たいんだろうけど、先に見せたら話が進まず大変な目に遭いそう。私も学習してるのだよ!アマリアでの失態は繰り返しません!


「それでは改めまして。カティアの森の中心部に温泉街という国を創った桜と言います。本日は貴国と同盟を結びたく、まかり越した次第でございます。事前に連絡することが出来ず、申し訳ございません。」


 そしてここですかさず冷蔵庫をドーン!!!とカティアダンジョン産の収納袋から出してみせる。


「こちらは今回の非礼のお詫びとして献上させて頂く魔道具【 冷蔵庫 】でございます。」

「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!」」」」」」」


 そして研究室中、いや魔道宮中に響き渡る大歓声。余りの歓声に耳がいた・・・くない?

 歓声があがる瞬間身構えて気付かなかったけど、クレマンがいつの間にか私の耳を押さえてくれていた。


「クレマンありがとう。でもあなたの耳は大丈夫?」

「大丈夫でございます。ご心配には及びません。」


 さっきまで少し離れた所に居たのに、一瞬であの距離を詰め、さらに耳まで守ってくれるなんて・・・。さすがクレマンだね!



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