第127話 温泉宿の評価

「リリーお疲れ様!温泉宿はどんな感じ?何か困ってる事や足りない物はない?」

「桜様、コタロウ様、リュウ様、いらっしゃいませ!わざわざ見に来て下さったのですか?」

 はんなりと笑んだリリーはすごく綺麗。元暗部所属とはとても思えない。


「俺は桜の護衛だ!」

「僕も桜ちゃんの護衛だよー!」

 コタロウとリュウの返しが可愛くて、リリーと2人して思わずホッコリしてしまう。


「温泉宿はとても順調ですよ。お肉には困りませんし、野菜や果物もソーヤーが新鮮な採れたてを毎日沢山持って来てくれるので助かってます。従業員も増えたので、お客様が大勢来られてもいつでも対応可能です。」


 え?野菜や果物がもう沢山採れてるの?畑を耕したのつい数日前だよ!?

 何だか不安になってきた。確認するのは少し怖い気がするけど、あとで畑を見に行ってみようかな。


 温泉宿も問題無さそうなので、とりあえず一安心。今度は利用者側の話として、冒険者達の話も聞いておきたい。


「宿泊してる冒険者達は今宿に居る?」

 アンナ達とのデスマーチでかなり無理をしただろうから、ゆっくりしてるかな。


「さっき皆さん揃って鍛錬場に向かわれましたよ。身体が鈍るといけないからっておっしゃって。」

「えっ!?あの冒険者達が!?怠け癖が付きそうでアンナがデスマーチに連れて行ったあの!?」

「はい、その冒険者さん達ですよ。」


 驚きすぎて口が開いてしまう。そんな私の反応が面白かったのか、リリーはクスクス笑ってる。

「分かった!鍛錬場に行ってみるね!リリーありがとう!」

「行ってらっしゃいませ!」


 見送ってくれるリリーに手を振って分かれ、鍛錬場へと向かう。

 その途中で、新しく従業員になった皆が、楽しそうに笑いながら働いてる姿を何度も見かけた。連れて来た身としては、馴染んでくれるか心配もあったので、肩の荷が降りた気がする。


 そんな心温まる光景をコタロウの背中から見ていると、気付けば鍛錬場へ着いていた。

 中に入ると陽菜達も一緒になって、鍛錬している光景が目に入ってきた。


「あ、桜!こんにちわ!」

「おっす!」

「帰って来て早々に鍛錬とか精が出るね!てっきり温泉に浸かったりして、のんびり過ごしてるのかと思ってた。」


 冒険者達が一様にバツが悪そうに、頭をかいたり視線を泳がせたりしている。陽菜達はそれを見て笑っている。


「あの時は本当すみませんでした。あまりにも居心地が良くて、甘え過ぎてました。俺らもっと強くなって、必ずダンジョン攻略してみせます!」

「う、うん。頑張って!」


 3パーティー共、ここを拠点にしてダンジョン攻略に励むそうだ。しかも陽菜達を含めた全員での即席チームで。その誰も彼もやる気が溢れ、燃えている。


 随分アンナに絞られたんだな。人が変わったように真面目になっている。アンナデスマーチ・・・恐ろしい・・・。


「本題を忘れるところだった!温泉宿の感想を聞きたくて来たんだった。何かこうして欲しいみたいな希望とかある?」

「最高の宿です!」

「料理も酒も美味しいし、温泉にも入り放題!」

「どこの国にもこんな良い宿ないって!」


 参考になる意見はなかったけど、ここまで言ってもらえると励みになるな~。リリー達が頑張ってくれてるおかげだね!


「そうそう優斗!たこ焼き用の鉄板出来てるよ!今夜は皆でタコパしよう!タコパ!タコないけど、ソースはあるよ!」

「ぶふっ!ははっ、タコパ良いね!やろうやろう!」

「まさかここでたこ焼きが食べれるなんて!嬉しい!」

「じゃあそれまでにしっかり腹空かせとかなきゃな!」


 そう言うと3人は嬉しそうに駆けて行った。皆が喜んでくれるように、美味しい具材を準備しておこう!



 タコパで使う野菜を貰えないか、様子見がてら畑に来たんだけど・・・これは想像以上だよ。

 数日前まで更地だった場所に、実り豊かな畑が出来上がっていた。


 果物がたわわに実った木や、ツヤツヤしていてとても瑞々しい野菜が畑に所狭しと並んでいる。たった数日でここまで変わるわけないよね!?


「あれー?いつの間にかどこか違う国の畑に転移しちゃったかな?」

「桜様こんにちわ。野菜が必要ですか?」

 太陽が似合う小麦色に焼けたソーヤーが、にこにこと野菜を入れた籠を抱えて現れた。


「あ、うん。キャベツが欲しいかな。」

「丁度採れたてがありますよ!こちらをどうぞお持ち下さい。」

 持っていた籠の中から、ツヤっとして大きなキャベツを取り出した。有り難く貰うんだけど、今はそこじゃない。


「ソーヤー。何でたった数日でここまで野菜が出来てるの?」

「それは桜様が栄養水を作って下さったおかげですよ!」

 いや作ったよ?作ったけど、こんな効能があるとは書いてなかったよ!?


「毎日これだったら、手が足りないんじゃない?大丈夫?」

 せっかくこんなに美味しそうな野菜が出来てるのに、傷ませてしまうのは勿体なさすぎる。


「大丈夫です!新しい助っ人が何人も来てくれたので、悪くすることなく収穫出来てますし、宿舎や温泉宿で使ってもらえてますよ!」

 よくよく見ると、確かに畑のあちこちで野菜を収穫してる人が見える。これなら大丈夫そうだね!


 そういえば、桜の木もあっという間に育ってしまったんだった。今の今まで忘れてたよ。

 私が理想としてた自給自足が、あっという間に叶ってしまった。あまりに早すぎて、実感が湧きにくいよ。



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