第45話 よく我慢したと褒めたい…。
ルークside
少しだけ戻り39話辺りのルーク。
【それじゃ、目が覚めたら連れてきな。
2.3日寝てりゃ起きるだろ。話からするときっと今前世の記憶でも見てるんだね。待ってやんな、1週間経っても目覚めないようならワタシが行くよ。】
「わかった、ありがとう、魔女殿。その時はまた連絡する。」
【カーッッ、魔女はやめな!スザンヌだって何度言えばわかるんだ!けっ!とりあえずもう少しお待ち!】
そう言うと魔女との通話が切れてしまった。
通信の魔導具を置き、俺はため息をついてしまう。
ロティが熱を出してから目覚めない心配から記憶の魔女に連絡をすることにしたのだが、ロティの今の状況をわかる範囲で記憶の魔女に伝えたら今の会話になった。
魔女との通話は王宮の魔導具でしか繋がらず、急ぎで王宮に来たものの用事が終わったらと思うと早く帰りたくて仕方がない。
近くで俺の通話が終わるまで待機させていた侍女に屋敷に戻る事を伝えて、急足で帰る。
ロティを甲冑達がいるとは言え1人にしておく時間は短い方がいいだろう。
急いで戻ったがロティは屋敷で変わらず眠っていた。
その様子は何処かの眠り姫の様だ。
静かに寝息を立てているロティの側に行き、ひと束髪の毛を掬いキスを落とす。
「俺以外の奴がキスしに来たら薙ぎ倒さねばならんな。」
と変な心配をしてしまい、かなりの睡眠不足に陥ってしまった。
ロティが眠る間にしたことと言えば、王宮へ行って魔女への連絡と、陛下から掛かってきた通話、それにしつこいアレックスからの通話を対応しただけなのにどっと疲れてしまった。
陛下の通話の内容は古代竜の交渉の褒美と称号の事だった。ロティ優先の為、起きたら連絡すると言って手短に済ますが、1日1回必ず通話がかかってくるし城に来る時はロティもついでに連れてこいと口煩く言われた事には参ってしまう。
アレックスに至っては雑談が主だったが、褒美はきちんともらいに来いと何度も念を押されていた。
俺はロティ優先でもしかしたら本当に報酬も称号もいらないと言う可能性を危惧したのだろう。
それにしても掛けてくる数が多くて苛ついていた。
ロティが寝ているからかあの女の召喚獣も1匹たりとも来なかった。
なので後はなるべく目覚めた時寂しくならない様にとロティの側で過ごす。
ロティの隣で触れずに寝るのも今日で3日目。
そう思うとそろそろロティを抱きしめたい気持ちが募る。
そんな事を思いながら今夜もどことなく眠るために目を閉じた。
◇◇◇
目が覚めると明らかに体調が良くなっていた。
犯人は隣で静かに愛らしく寝息を立てているロティしかいないだろう。
僅かにしか覚えていないが、夜中ロティが座っていたような気がして声を掛けたはずだ。
それなのに俺の視界はすぐに真っ暗闇になった。
ロティの謝ったような言葉と回復魔法を使われたと推測すると真っ暗になった視界も、この良好な体調も納得がいく。
寝ている最中に起きるのが苦手で、その間何かあってもなかなか記憶に留められないのだ。
パーティの野営中は自分に色々な魔法をかけるし、気を張っているのでこの弱点がバレたことはない。
ロティにもバレたくない気持ちもあるが、このまま2人で同じ寝床に寝るならそのままでもいいかとも思う。
可愛い寝顔をじっと見つめ堪能する。
きめ細かい肌に潤った唇。長い睫毛に少しだけ乱れた髪。
髪を見ると一部不自然な部分がある。
(夜中に水を溢した?)
シーツを触るが濡れてはいなかった。
ロティが寝込んでいる間、体だけは清潔を保とうと魔法で綺麗にしていた。
髪が気になったため魔法を掛けようか悩んでいるとロティが短く唸り声をあげている。魔法は後からにしようとその起きる様子をじっと見つめた。
目がゆっくり開くとぱっちりと俺と目が合った。
抱きしめたい気持ちと、夜中になぜ魔法を掛けられたのか不思議に思う気持ちを交差させながら笑顔でロティに言う。
「…ロティ、おはよう。夜中1度目が覚めたと思うのだが、何故また眠らされたのかまず聞きたいな。」
ロティはずりずりと布団で口元を隠し、上目遣いで俺を見て、疲れてそうだったから、と言い訳のように話す。
その仕草が可愛くてとりあえず触りたくなってしまった俺はロティの頬をするりと撫でた。
それに自然と擦り寄るロティに若干の違和感を覚えてしまう。
ロティはハッとした様子で顔を布団から出てきた。
「3日も寝てたんだ…。通りで沢山見るわけだ…。」
「…またなにか思い出した?」
俺の問いに答えずロティは体を起こそうとしていた為、丁度いいと思い同じように起きようしたその時。
「えいっ!」
と言う声とともに何故かロティが顔面に降ってきた。
ロティからのいきなりの抱きつきでベッドに倒される。
頭が追いつかないついでに、押し付けられている胸も今の俺には刺激が強くて耐え切れない。
苦しいよりも心臓が跳ね上がりそのままではまずいと
ロティに伝えたくて声を出そうと奮起する。
息を吸うだけでロティの匂いを感じてしまい、朝一番から俺の全てを刺激する。
だが、声を出し続けているとどうやらロティは察してくれたようで、一度俺から離れた。
だが、覆い被さるようにロティが上から見ているため顔の紅潮を止める事が出来なくなる。
「急にどうしたんだ!?」
「えーと、抱きしめたくなって抱こうとしたら勢いを間違っただけなんだけど、ごめんね?3日も寝てたからか体がうまく動かなかったや?」
ロティの金色の髪が俺に降る。
そんな事も構わずにロティは誤魔化したようにえへへと笑いながらいう。
「え?いや、ん?どういうことだ?なにを思い出したんだ…。」
「ちゃんと話すよ。話すけど…。」
俺の顔をじっと見つめる。
見つめられるのが気恥ずかしくて俺はたじろいでしまった。さすがに記憶がないロティに色々と急かし過ぎるのは良くないとかなり我慢はしていたが、ロティからこんなことをしてくるのは予想外過ぎてどう表情を変えて良いか全くわからない。
思い出した所はどこなのか凄く気になるのに中々ロティは話さない上、焦らすようにロティは俺から離れていった。
少し寂しい気もしたが、とりあえず体を起こしロティと向き合うとあろうことかロティから抱きついてきた。
俺はまだ目が覚めてなかったのかと一瞬錯覚しそうになり、紅潮を抑えられない顔を手で隠した。
「ルーク…どうしたの…。」
「…それは俺が聞きたい。どうしてこうなっているのか…。ロティが積極的に朝から抱きついてくるなんて想像してなかったし、頭が追いつかない…。何を思い出したのか早く知りたいのだがっ…。
俺にこのまま襲われても文句言えないからな…。」
「ふふっ。」
多少脅したつもりだったが、余裕のあるロティに少しもやつきを感じ、顔にあった手をロティに回した。
動揺するかと思ったら嬉しそうに笑うロティ。
3日間まるまる寝ていて、記憶が結構戻ったのかと思うほど前世のロティの表情だ。
ロティは俺を見つめて言う。
「まだ全部思い出せないから、全て思い出した後なら文句は言わないと思うよ。今はこれで我慢してね。」
そう言われるとロティから俺にキスをしてきた。
「!!?」
一瞬の出来事だったが、本当に襲いかねないと思い震えを抑えながら瞬時に魔法を使う。
「すまない!!ちょっとだけ1人にしてくれっっ!」
風魔法でロティを部屋の外に出すとロティは何をしているのかわからないが、物音も聞こえなかった。
だがそれよりもロティに朝から抱きつかれて、しかもキスまでされるとは夢にも思っていなくて自分を抑えるのに暫く時間を使ってしまった。
◇◇◇
暫くすると隣の扉の音が聞こえ、閉められた扉の音がした後はまた静かになった。
ある程度収まったため少しふらつきながらも俺も部屋を出た。
どうやらシャワーを使っているようだったので、その間に紛らわそうと朝食の用意をした。
魔法鞄から朝向けのメニューを選び出し並べていく。
カップを出そうと体を少し捻った時にロティが扉から此方を見ていた為、心臓が跳ねる。
少しの罪悪感が過ぎるが、ロティの少し下がった眉が可愛くて俺が照れてしまう。
「ロティ…、さっきはごめん。食べながら話そうか…。」
「う、うん…。…わかった。」
扉からぴょんと出てきたロティは白の可愛いワンピースを着て、まるで前前世を思わせるような姿をしていた。
懐かしくて、また抱きしめたくて、今度は完璧に守ってあげたくて。
色々な感情が一気に溢れそうになる。
目に潤いを感じ、眉に皺を寄せてなんとか耐えた。
だがロティは俺の元に着く前に足がぴたりと止まって俯いてしまった。なんだか泣きそうな雰囲気のロティが不安になる。
「ロティ、どうしたんだ?」
「どうしたもなにも…ルークがさっきから嫌そうな顔をしてるから…。そんなに嫌なら私出て行くよ…。元の服だけ返してもらうね。」
ロティは踵を翻し、部屋を出ようとした為急いで抱き止めた。こんなとこで逃すほど、俺は優しくなれない。
「嫌なわけないだろう!勘違いしないでくれ!」
「だって、キスだって困っていたし今だって怒ってるじゃない…。」
怒っていたのではなくて戸惑っていただけ。
まだ記憶が戻らないロティに自分がしていい事はほんの僅かだ。
ロティが嫌がらればそれで終わる可能性もあるのに大きく踏み出せやしない。
欲を言えば前世だってもっと色々したかった。
溜息と共に、少しの体の隙間も埋めたくてロティを抱く腕に力を入れる。
「違う、100年以上振りのロティからのキスに驚くなと言っても無理があるだろう…。
それに前だってそんなに多くはしていなかったのに……。
俺だってまだ早いと我慢していたし…。
この屋敷にあるものはロティのものでもあると言っておいただろう?
だから何を使うのも、着るのもいいんだ…。
そうじゃなくて…その服を着たロティが可愛かったから表情に出さないようにしたかったのが、かえって怒ったように見えたらしいな…。すまない。
似合ってるし、可愛い。こっち向いて、ロティ。」
涙目のロティが美しくて、可愛くて自分の欲を抑えるのに精一杯だ。欲が溢れて止まない自分に困るが、さっきの短いキスの1回では今は足りそうにもない。もう少しだけ欲しい。
「俺をこんなに動揺させるのはロティただ1人だ…。涙目で、上目遣いで可愛い顔して煽らないで…。…もう1度キスしてもいい…?」
「いつでも私は煽ってないよ…。駄目って言っんっ」
駄目と言われたくなくて、話している途中で唇を塞いでしまった。
先程とは違う長いキス。
時々短く離れ唇を啄んだり軽く噛むとロティを食べてしまいたい欲がぐっと高まる。
だが、渾身の我慢でなんとか踏み止まり、まだ離したくない唇を名残惜しさを残しながらも離した。
またロティを抱きしめて精一杯、普通に出せる声でロティにこれだけは伝えておこう。
「…凄く我慢してるのだけは覚えておいて。」
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