第44話 沢山あると作り過ぎるよね?

屋敷に着いてから移動する間もなく、またすぐにグニーの召喚獣が屋敷に突撃して来た。

首の召喚証があったので私も直ぐに気付く。


だが一瞬にして壁の模様の蔦が召喚獣に反応し、生き物のように壁から動き出してそれの動きを捉えた。

私達の背後からゴツい甲冑の剣使いが召喚獣めがけて襲い掛かると同時に他の甲冑達も同じように倒しに武器を構えて突撃して行く。





「なんか…今日は多いね…。」


仕留められた大きな蜥蜴を甲冑達がつついているのを見て私は不安混じりの声で言った。

どことなくだがグニーからの苛立ちを感じる。


「タルソマの町でも大方、俺達を何処かで見ていたのだろうな。嫉妬に狂って急いで新しい召喚獣を出したんだろうが、焦り過ぎて大したものではないようだ。


以前の蛇はバジリスクの幼体で、ある程度の危険度があったがこれは小さめのニーズヘッグだ。

成長すれば凶悪なものが多いが幼体やこうも小さくては俺にとってはなんの脅威でもない。」


以前の朝の大蛇がバジリスクだったのは知らなくてサッと血の気が引く。死んでいたし、あまりよく見ていなかったから気付かなかった。


この召喚獣にしても蜥蜴にしては巨大だし、竜にしては小さいとしても、私にとっては十分脅威だ。


もう死んでいるようだがその蜥蜴は黒と紫の鱗に爪は尖って鋭く、べろりと出ている舌は長くて歯はぎらついている。

横から何やら薄紫の液が垂れているがなんだろう。


「ニーズヘッグって唾液の色薄紫なの?」

「いや、あれは毒だろうな。小さい割には毒は猛毒そうだな。お前達、その蜥蜴も毒も好きにするといい。

後で丸焦げだが海蛇もやる。


ロティ、俺達は少し部屋で休もうか。おいで。」


ルークに蜥蜴を好きにできる権利をもらったからか、甲冑達は喜んでいる様子でキビキビと甲冑を鳴らし動いていた。




部屋に入るとルークは手を離し、キッチンに向かった。ティーポットに手を掛けるルークを見てすかさず側に近づき話し掛ける。


「ロティ、お茶を用意するから座っていてくれ。」

「あ、私がやっちゃだめ?」


「え、いや、それはいいが、いいのか?」

「うん、ついでにキッチンの使い方とか物の場所とか教えてもらえると嬉しいな。

ルーク沢山食べるみたいだし、嫌じゃなかったら私も料理作るよ。」


「!!それは楽しみだ。」


ルークの目が見開き、パッと顔が明るくなる。

嬉しそうな表情で私にキッチンの仕様と中身を丁寧に説明してくれた。


試しに紅茶も私が入れてソファ近くのテーブルにお菓子と共に運んだ。

ルークがソファに座った後、私も隣に座る。

私の淹れた紅茶をルークが飲むと綻んでいた顔がさらに緩んだ。


「ふふっ、ルークってばそんなに嬉しいの?子供みたいな顔になってるよ。」

「っんん、ああ、嬉しいな…。ロティがしてくれる事ならなんでも…嬉しいかもしれない。

子供みたいな顔だなんて、他の人には言われた事がない。ロティだからだな。」


ルークと共にギルドや宿に行ったが、確かにルークは他の人には表情をあまり見せないようだ。顰めっ面か無表情か、じとっとした目をしている事が多いし、焦らないし笑わないし泣かない。


百面相を上手く隠しているのか、私だけに見せてくれているのか可愛くて笑ってしまう。

私が笑うとルークは照れたようにまた紅茶を啜った。



紅茶とお菓子でほっと一息ついたあと、ルークはソファに軽くもたれかかり何も言わずに私を見つめる。


「どうかした?」

「今後について。色々考えないといけないと思っていた。」


カップをテーブルに置き、ルークに再び尋ねた。


「今後?グニーのこと?」

「それもある。あの女を始末しないうちはロティと冒険をするにしても邪魔が入ったり、ロティを襲いにかかるかもしれない。


それが魔物の討伐中や、危ない場所だと俺も瞬時に対応出来るかは不安だ。

全力でロティを守るにしても他の全てを疎かにしていいならそれでいいのだが。」


「他の全てって、自分自身も入ってる…?

グニーはルークを傷付けないと思うけど、魔物の討伐中ならルークが魔物に襲われる可能性もあるからそれは駄目。

いくら最強魔導師なんて言われて、不老不死でも傷付いたら痛みはあるでしょ…?」

「ああ、老けず、死なないだけだからな。

体が欠損すれば、欠損部位を補おうと無理な再生が始まる。何度か死にそうな位の激痛で生き返った。死なないと言えど、あれはなかなかだ。何十回と体験したくはないな…。」


また呪いをかけた私のせいで、と言う思いが湧いて仕方ない。自然と目線が下がってしまい、自分の太腿とその上にある手を見つめた。


(そんな呪いを何故かけたのだろう…。)


早く思い出したい気持ちだけが先走る。

拳を握りしめているとルークが身を乗り出しそっと私の拳を手で包んだ。

目線をルークにやると先にルークが私を見ていたようでしっかりと見つめ合う形になってしまった。


そのまま優しくルークは言う。



「話は戻すが、冒険をするにしてもグニーを始末してから。呪いに関してはロティが全て思い出した後に解術が使えるなら。使えないようならまたその時に考えよう。


俺としては…辛い記憶もあるだろうが、俺はロティに早く思い出して貰いたい…。」


青い瞳が切なそうに揺れていて、それにつられるように私も感情が溢れる。


「うん…。最初は戸惑ったけど…今は私も早く思い出したい。」





今夜もまた前世が夢で見れるように私は心の中でひたすら祈った。



◇◇◇



暫く休んだ後、少し早めだがアリリセの父親に貰った野菜とルークの魔法鞄の中にあった塊のお肉とミンチ肉で夕食を作る事にした。


エプロンを借りて髪をまとめて準備万端だ。


お肉は何の肉か忘れたと言っていたがこれは鳥系だろう。魔物なのか普通の鳥なのかはわからないが、どちらにしても食べれそうなら問題はない。


更には卵、ミルク、チーズにキノコ後は沢山の調味料をルークが出してくれたのでキッチンに並べて調理開始だ。


キッチンの中を教えてもらったついでに私が作るとルークに伝え、ソファで待っていてもらう。

たまに見るルークはそわそわと落ち着かずたまに私を見ているようだ。


「ルーク、その魔法鞄の中に入ってる物は把握してるの?」

「…。してない。」


(だろうな、何のお肉かわからないものが出てきたわけだし。)


怒られると思ったのか気不味そうなルークに明るい口調で言う。


「食事できるまで時間があるから少し鞄の中整理するといいよ。ね?」

「…わかった。そうする。ここでは大きさ的に出せないものもあるから外に行ってくる。」


そう言うと素直にルークは立ち上がり歩き出した。


「行ってらっしゃい。」


私は包丁と野菜片手に笑顔でそう伝えるとルークは顔を赤らめた。


「……いっ、て、きます。」


何か言いたそうな顔をしていたが、後からゆっくり聞こう。今は調理に集中だ。ルークも私の横を名残惜しそうに通って外に出て行った。






食材と時間を気にせずに作っていたらふと気がついた時には時すでに遅し。

明らかに、料理を作り過ぎてしまった。


具沢山のサンドウィッチ、お肉と玉ねぎのグラタン、ハンバーグ、カボチャのポタージュ、トマトと胡瓜のサラダ、人参ケーキ。


量も2人で食べ切れるものではない。

だが、久々の料理は楽しくて更に色んな食材があるもんだから止まらなく夢中になってしまった。



「ルークの鞄…料理入るかな……?」


そんな呟きは暖かい料理の湯気と共に消えて行った。





ルークを呼びに玄関の扉を開けると外は何やら色んなもので溢れていた。

魔導具や書類、果物に飲み物。

なんとも魔物までいたがそれは死んでいるようでぴくりとも動かず伸びていた。


たくさんのものに囲まれて体が隠れていたルークに若干驚きつつ声を掛けた。


「凄く沢山あるね、いつから溜めていたの?」


私に声を掛けられたルークは集中していたのか肩をびくつかせた。照れた顔で眉間に皺が寄っている。


「これを貰った時から整理してない…。

から何十年ぶんだろうな…。1回2回で整理が終わるわけじゃないからゆっくりやろうと思う…。


料理は出来たのか?」

「整理整頓はゆっくりでいいよ。

うん、料理は出来たんだけど…。」


ルークから視線をずらすと何か勘違いしたのかルークは真剣な表情で言う。


「失敗しても俺はきちんと食べるから大丈夫だ。」


私はそんな大真面目に言うルークが面白くて笑ってしまった。


「ふふふっ、違うよ。味はちゃんと出来てると思うよ。

ただ作り過ぎて量が多くなっちゃったの。

鞄に料理は入るかな?残したらそこに入れてもらいたいの。」

「なんだ、そうだったのか。勘違いしてしまった。ああ、もし残したら入れようか。前にロティに出した料理も以前王宮の料理長が作った物なんだ。

ロティに食べさせたくて入れておいたのだが、好評だったみたいだし。」


「え!?あの食べ過ぎた料理はそうだったの!?てっきりルークが作ったんだと思ってた。」

「俺はあまり料理は得意ではないからな…丸焼きなら出来る…。さて、冷めないうちに食べに行こうか。」


ルークはスッと立つと風魔法でそこら辺に置いてある物を次々と鞄の中にしまった。

最後の一つも入れると鞄を片手に持ち、私の手を繋いで屋敷の中へ入った。



◇◇◇



何度も目を輝かせてルークは私が作った料理を頬張った。いつものルークより浮き立つその姿は2.3歳若く見えた。

ひょいひょいと食べ進めていくルークが可愛い。


「美味しい?」


と尋ねると口に物が入っているためか喋れず無言のまま何度も頷いてくれた。

私もスプーンでグラタンを掬い、伸びたチーズと格闘しながら続けてルークに言う。


「ふふ、顰めっ面とか不機嫌な顔してないと少し若く見えるね。ルークって実年齢は100歳超えてるけど、見た目の年齢は何歳なんだろう?」


切れたチーズも纏めて口には運ぶ。

味は素材が良いのもありかなりおいしいと思う。

ルークは咀嚼が終わると私の質問に答えてくれた。


「ロティに呪いを掛けられたのが確か…24歳の時だったと思う。そこから全く老けてないから見た目は24歳くらいだろう。」


ルークは言い終わると大きめの一口でサンドウィッチを食べた。約半分ルークの口に消える。

見た目は上品そうで近寄り難くもあるルークだが食べ方は貴族ではなく冒険者寄りだ。スピードもあるし量も食べる。

かなり作ってしまったと思ったが意外と残らなそうだ。


「24歳…。呪いが解けたらそこからまた歳を取る形になるんだよね…?私今17歳なんだけど…。7歳差は気になる…?私は気にならないけど。」

「ロティが何歳でも俺は気にならない。

あまり幼過ぎるのはどうかと思うが、15歳で成人のこの国では結婚するにしても普通の年齢だと思う。」


結婚というワードが出てほんのり頬に熱が篭る。

照れてしまったのがバレないようにハンバーグを食べて誤魔化す。

飲み込んだ後、私は話を続けた。


「冒険者なんて12歳からギルド登録は可能でしょ?私は15歳の時に母から住んでたところ追い出されてタルソマの町に来てギルド登録したんだけど、最初のパーティの時成人ならお酒飲めーって言われた時には困った記憶があるなぁ。次々飲ますからお腹いっぱいでね…。」

「母…に。それは…可哀想に…。

いや、それも勿論酷いのだが、酒を飲ましたやつらはどこのどいつだ?まさか何かされたのか?」


お酒の話をした途端、ルークの目がぎらついていて怖い。

サラダを刺すフォークの力加減が絶対間違っている。ぎゅうぎゅうにフォークに積み重なる野菜が悲鳴をあげているかのようだ。


過去の事と言えど、ルークは制裁を加える気なのだろうか。私は首を横に振る。


「母は別に、もうなんとも思ってないから。


パーティに入ってると食事も一緒の時が多いでしょ?

その時は仕方がなく飲んだけど、私より先にその飲ました男性が潰れちゃってね。

その酒屋から運ぶのとかが大変そうだったよ。

私は手伝ってないけど。私が飲んでたの水だったのかなぁ?その後から飲んでないからわからないや。」

「そうか、それならよかった。酔わされてなんかされていたのなら俺は今からでもそいつを探し出す所だった。」


ルークはホッとした様子でフォークに沢山刺さっているサラダを漸く口にいれた。

だがまだ鋭い眼光は冗談を言っているようには聞こえず、というよりも本気で言ってると思い身震いする。

ルークが水を飲む姿を見てふと疑問に思った。


「ルークはお酒飲まない人?」

「あまり人前では飲まないな。飲んでも2.3杯だな。

その程度なら酔わないし、人前で飲むなら嗜む程度だ。

前世もその前も2人で飲んだことがないから、ロティが良いなら今度ここで一緒に飲もうか?」


「ルークとなら酔っても安心だしいいねぇ。」

「…。」


私が酔って倒れても寝てもここなら安心だし、ルークが隣にいれば怖い物なしだろう。

笑顔の私にルークは何故かルークは複雑そうな顔をしている。


「酔った勢いは…多分…ない…。」


手を口元に当てているため小さすぎたルークの言葉に私は何も聞こえずにサンドウィッチのかけらを口に収めた。

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