第38話 自分で体験するとよりわかる。
目の横を生暖かいものが伝う。
それは重力で流れて行き、髪までもを濡らした。
薄目を開けるとまた見慣れない景色が視界に映る。
(いつの間に私は泣いていたの…。)
涙を止めようと瞼を擦るが何故か次々と溢れて止まない。
ゆっくりと上半身を起こすと隣の膨らみに気づいた。
そこには私の隣に寝ているルークがいて、私の方に体を向けて静かに眠っている。
ルークを見ただけなのに更に涙が出る。
次々に溢れる涙が止められない。
(何故私はルークを忘れてしまったの…。)
悔しくて眉は下がり顔がくしゃくしゃになってしまう。
夢の中の話ではスザンヌの生まれ変わりの手伝いが今世でなんらかの影響が出ると言っていた事が、記憶に影響して前世を忘れてしまったという事なのだろう。
それは理解できる。理解できるのにしたくない。
横で静かに眠るルークを涙で揺らぐ瞳で、ただじっと見つめる。ルークの顔の目下に少し隈が出来ている。眠れていなかったのだろうか。
私の最後の記憶は私が熱を出して寝込んでいた所をルークに抱きしめてもらいながら眠ったはず。
だがそれはいつの話なのだろう。
前世の記憶を夢で見たが、かなり長い時間寝ていたのではないだろうか。
周囲を見回すが時計しかないこの薄暗い空間で、日にちを知る事は出来ない。
まだ止まらない涙がシーツに落ちる。
次第に息が苦しくなりしゃくり上げてしまう。
声を抑えようと手で口を覆うがそれは止まる事も静まることもない。
今ルークに起きられたくはない、ほんの少しだけ1人で考えたい、そう思って嗚咽を必死に噛み殺すものの、その行為はまるで無駄だ。
「……ん。」
心臓が締め付けられる。
もぞもぞと体を動かし、ルークが顔を顰めて目を擦る仕草をしている。
(この姿は見られたくない……。)
「……ロティ…?」
寝ぼけた目で私をとろんと見つめるルーク。
体を起こし始めてしまったため、私は急いで目や口を押さえていた手をルークの瞼に翳した。
「ごめんなさいっ…《回復》…。」
「っ…。」
私の手から出た魔法の光が一瞬ルークを包み込んだ。
その直後にルークはベッドに身を崩し、そのままベッドに倒れると寝息を立て始めた。
隈ができるほどの疲労が溜まっている体と脳には回復魔法は堪らないだろう。
ルークを回復魔法で癒し、眠りに落としたのだ。
幾分隈と顔色が良くなったルークの体に縋り泣いた。先程とは違い多少声が漏れても起きない。
(ルーク………。
記憶がないのはこんなに苦しかった…?
ルークを想う気持ちを忘れた事がこんなにも寂しくて悲しい…。)
これを仕方ない、割り切れ等と言われてもすぐには無理で、確かに後悔に値するほどだ。
眠る顔をそっと撫でる。
(私は貴方を愛してる…。けど…。)
だけどまだ、足りない。記憶が欠如しているところがある。
思い出している記憶は私が死んでから遡って行っているようだ。
まだルークの前世の一部も、何故ルークに呪いをかけたのかも、2人で死ななくちゃいけなかったのかも私はまだ思い出せていない。
呪いに関してグニーが引き金で私は嫉妬し、魔力暴走を起こしたのだろうが、呪いをかけた時グニーはルークに何かをしたのか。
私は何を思ったのか。
考えても前世は思い出せない。
泣いて泣き晴らして、ぐちゃぐちゃになった顔と感情を整えようと必死になった。
漸く少し冷静になり、涙も落ち着いてきた。
泣き過ぎて目がしょぼしょぼする。
まだ真夜中を指す時計の針を見てからもう一度布団に潜る。ルークの体にぴったりと身を寄せて。
明日の朝は、今度は私から抱きしめたい。
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