第33話 寝ていたら凝視もばれない。◆

◆◆◆

ジョッキをぶつけ合い、酒盛りをする人。

肩を組み、陽気に大きな声で歌う人。

ウエイターは忙しそうに両手で沢山のお酒を持ったり、出来立ての料理を急いでお客の元へと運んでいる。


賑やかな酒場の私達のテーブルの上にはサラダ、パン、スープや肉などの食べ物が置かれて、湯気を放っている。

いつもなら目を輝かせるところだが、私は胃を掴まれるような感覚で顔が強張ってしまう。


「ロティ…?大丈夫か?具合悪い…?」


ルークが心配そうに私に尋ねるが、私は顔を見られたくなくて伏せ気味になった。


「ごめんね…ルーク…。」

「何がごめんなんだ?」


「私のせいで、パーティを脱退する事になって…。」

「それはロティのせいじゃない。

俺は言っていた通りロティと居たいんだ。

強いパーティではあったが、俺の希望に沿わなくなっただけ。あとはグニーに嫌気が指していたからこれで良かったと思う。

希望に沿わないパーティにいることはないし、これまでもパーティ内で入ったり、抜けたりする事はあったんだ。そこまでゼゴ達は気にしていないよ。」


「…うん。でも、グニーさんが許さないって…。」

「グニーは自分の思い通りにならないとああやって不機嫌になるんだ。放っておけばいい。


冷めない内に食べようか?ここのはおいしいよ。」


「…うん。頂きます。」


そう言って食べ始めたはいいものの、不安と罪悪感からか食事が進まない。

パン少しとスープのみ食べてお腹が膨れてしまったため、後はルークに任せてしまった。


ルークは何か言いたげな表情をしながらも私が残した分もきっちりと食べてくれた。





警戒をしていたが、グニーは現れず。

拍子抜けしたが、関わらない事に越した事はない。

気を張っていた為か、どっと疲れてしまい早々に私はベッドに潜ってしまった。



◇◆◇



次の日。

目覚めると昨日の疲れと気分が幾分晴れた感じがした。

時計を見ると寝過ぎたようで慌ててルークを探すが見当たらない。 

冷や汗まで出始めた時、突如と部屋の扉が開いた為驚いてしまった。


探していたルークが何やら袋を持っていて、驚き変な格好をした私を見てルークの顔が綻ぶ。


「ロティ、おはよう。寝てたからその間に食事を買ってきた。」


ルークは部屋に入るとテーブルの上に袋を置きながら、私を手招きする。

早くなる心臓を落ち着かせながら私はルークにお願いをした。


「今度私が起きなかったら起こしてね。」

「……考えておくよ。さ、まだ温かいから。」


明確に肯定されず話を微妙に逸らされたような気もして不思議に思ったが、椅子を引かれ座るよう促されている為それ以上はいえなかった。



食事中にルークがギルドに行きたいと言っていたため、食後に街中を2人で歩く。

少し遅い朝食と昼食を兼ねて食事をした後でお腹が膨れて若干苦しいが、いい運動だ。



「ルーク、ギルドには何をしにいくの?」

「パーティの除名をされたかの確認と、新しいパーティがあるか見に。

魔導士のパーティ募集は結構あるから見つかるとは思うんだけど。」


「なら私も何かやる事を探そうかな。」


そう私が言った途端、ぴたりとルークは止まり私に咎める様な視線を投げつけてきた。


「ロティ、俺は少しの間は俺に甘やかされるように言ったよね?」

「言われたけど…。今まで動いていたのを急に止まれと言われても難しいよ…?せめて目星くらいは…。

ただでさえ私はもう魔法も使えないからやれる事も限られるし…。


ルークに呪いを掛けなかったらこんな事にはならなかったのに…。」


落ち込んだように言うと、短くルークは溜息を吐いた。

だがすぐに優しい表情になり私に言う。


「せめて半年くらいは休んで欲しい。

魔女のとこでもずっと動いていたんだろう?

魔法が使えなくても俺にとっては大事なロティである事は変わりない。


それにロティが呪いの事を後悔するなら俺だって記憶を覚えていないことへの後悔がある。

だけど…ロティが後悔している所申し訳ないが…俺は嬉しかったんだ。」

「呪いを掛けられて嬉しい…?

呪いが不老不死だから?あれは…」


「いや、違う。ロティが嫉妬してくれた事が。

嫉妬したから呪いを掛けてしまったと言っていただろう?

記憶がない時は気にも止めてなかったが、今はその事を考えると寧ろ俺は嬉しくてしょうがない。」


ルークは口を手で覆っている。


照れて口元が緩んでいるのが隙間から見え、それを隠しているみたいだ。

眉間に皺を寄せていた私が、それに釣られて照れてしまい顔に熱が篭る。


不意にルークに手を引かれ距離が近づいた。


「そんな顔、他には見せないで。またキスしたくなる。」

「こ、ここは街中だよ!駄目だよ!」


「街中じゃないならいいの?」


試すかのような口調に私は少しむっとする。

なめられているのだろうか。

言葉にするのはかなり勇気がいる事だが、そんなの今までの思いに比べたら幸せな悩みだ。

ルークと離れるのはもう嫌だ。


「人がいないなら…ルークならいいの。」


きちんと目を見て言おうと思ったのにやはり最後は恥ずかしくて目を逸らしてしまった。


ちらりとルークを盗み見ると私以上に顔を真っ赤にして、目を見開いていた。


「ルーク…、大丈夫?」

「…。大丈夫じゃない…。

今のは完全に大丈夫じゃない…。


血が沸きそう…。あー駄目だ駄目だ駄目だ。

一回おしまい。早くギルドに行こう…!」


耳まで赤くしたルークは少し早足のまま私の手を引いてギルドに向かって急ぐ。

その間ブツブツと何やら独り言を話しているルークが新鮮で少し可愛かったのは秘密にしておこう。

◆◆◆

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