第10話 アリリセの水分はきっと殆ど涙に消えてるね!
シラーは食事をする為、私は部屋で待機している2人の元に戻った。
ルークは私を見てほっとした顔をする。
アリリセは勢い良く椅子から立ち、その勢いのまま私に深々と頭を下げた。
「ありがとう!!ロティ!本当に妹の命の恩人だ。
今は報酬金通りにしか渡せないけど、お金を貯めてきちんと報酬を払いたい!
それにロティが困った時には今度は俺が手伝いたい!薬草採取とかも手伝うから!」
床にポタポタとシミが出来ている、声が最後の方掠れているし、涙を出しているのだろう。
「アリリセ、頭上げて。今回はこれでいいんだよ。
シラーも無事に治せて良かった、お金の事もルマさんから聞いたから。
家の手伝い、頑張ってね!
後は、シラーが森に行く時には必ず一緒に行動してね。
何が危険なのか教えてあげて。
私の事は気にしないでいいよ。また今度、どこかでパーティを組む機会があったら一緒に頑張ろう!」
私は笑顔で言ったが、顔を上げたアリリセはやはり泣いていた。嬉し泣きだろう、眉は上がっていたから。
泣かない様に顔に力を入れているが、止めどなく涙は溢れてくる。
「でも………足りなくて…。」
「気にしないでって言っても気にするなら、困ってる人がいたら助けてあげれたら嬉しいな。
ギルドの掲示板とか見ても、町を見ても困ってる人はいるでしょ?だから、ね?」
私がアリリセにあやすように言うと、ルークが立ち上がり私の方に来た。
「それに、次からは俺がロティの側にいるから困る事は無いと思うぞ。」
そう言うと私を引き寄せる。軽く抱きしめられてしまう。ルークは至って真面目な表情だ。
「…ルーク、距離感おかしくない?」
「全然おかしくない。寧ろこれでも足りないくらいだが。」
私の髪を掬いキスする。
(よくもまあ、人前でこんな事を…。)
また顔に熱が篭る。
いや、人が居ても居なくてもルークに抱きしめられる謂れはないのだが。ないのだが、強く拒否も出来ない。
「あー…そうか。ロイヴァさんが居ればロティは大丈夫なのかな?敬語じゃないし、名前も呼んでるし。
いつの間にそんな仲良くなったのかわからないけど。」
鼻水と涙を溢れさせながらアリリセは妙な納得した様だ。
◇◇◇
アリリセの家を出る時にはルマからも絶え間ない感謝の言葉を言われたり。
シラーは今度はうちに遊びに来てとお誘いをされたり。
結局涙が止まらないままのアリリセの父親のビグには泣きながら畑で採れた野菜を沢山頂いた。
断ろうとしたが凄い形相と何を言っているかわからない嗚咽混じりの泣き声でビグに押し切られてしまった。
野菜は重いからどうしようかと思ったがルークが魔法袋に入れると提案してくれたのは感謝だ。
アリリセの家からギルドに向かう道を3人で歩く。
私はルークに右手を引っ張られて。
歩調を合わせてくれているので、歩きにくくはない。
今一度、手を拒もうとしたら笑顔の圧力にあっさり負けてしまった。
なのでそのままタルソマの町を歩く。
私は町に着く前にすっぽりと頭にはフードを被り、口にはスカーフをした。
凄く目立つルークは堂々と道を歩いていて、女の人の視線が半端ない。
アリリセはまだ嬉しさの余韻が消えず半泣きだ。
他人の色々な視線が凄く突き刺さってきて居た堪れない気持ちになった。
◇◇◇
ギルドに着くとウルカは私達を見て安堵した後、慌てた顔を見せた。
椅子から立ち、カウンターに乗り出しながら私に飛びかかる様に話し始めた。
「お帰りなさい!ロティさん、アリリセさん。
ロティさん!申し訳ありません!私が忘れていたのはエルダーの花の加工のことで!」
「ただいま〜ウルカさん。加工なら終わったから大丈夫だよ。もう妹さんに薬も塗ってきたよ!」
私が笑顔で言うとウルカは驚きながらも安堵した顔を見せた。
肩から力が抜け、カウンター乗り出した身を沈めて静かに椅子に腰を下ろした。
「済みませんでした…。
英雄様の言う通りでした…。ありがとうございます…。ロティさんが薬師で本当によかったです…。」
「ん?英雄様?いやいや、いいのよ。
瘴気跡を消すのなんて滅多にないものでしょ。忘れていても仕方ないよ。」
「私がギルド職員になってからは聞いたことなかったもので…。本当に…。」
「ストップ!もう十分ありがとうは貰ってきたから大丈夫!ウルカさん!報告いいかな?」
私がそう言うと分かりましたと言い、ウルカは浮かない表情をスッと変え、丁寧にお辞儀した。
「改めてまして…。お帰りなさい。ロティさん、アリリセさん。そして英雄ルーク様。ロティさんにお会い出来て良かったです。お二方は無事の帰還で何よりです。アリリセさん、依頼は無事に達成でよろしいですか?」
「はい、ロティのおかげで。」
「では、ロティさんに報酬金をお支払い致しますね。」
そう言ったウルカはカウンターの下に目線を落とした。紙の擦れる音と金貨の音がする。
(ウルカさんルークに会ってるのかな?ルークこのギルドに寄ったって言ってたからその時だよね。
さっきも英雄様の言う通りって、ウルカさん言っていたし。
なんか話でもしたのかな?そういえば、ルークは私を追いかけてきたんだっけ…。そこらへん本当に謎なんだよね。)
私が物思いに耽っていると、ウルカは2万Gをカウンターの上に出した。
アリリセは先にギルドに報酬金を預けていたのだろう。
ふとルークを見ると驚いた顔をしている。
そういえば、報酬金がいくらか言ってなかった。
多分だが、報酬金に驚いて固まっているのだろう。なんとなく気恥ずかしくなり、すかさず私はカウンターに置いてある報酬金を受け取った。
「はい、ありがとう。
ウルカさん、ギルドの掲示板にあった大型の犬の様な魔物について話したいからギルドマスターと話せるかな?」
「何かございましたか?」
「え、と。襲われて…。ルークに倒してもらいました。」
端的に言ったがウルカさんの顔は真っ青になった。
「今すぐに取り次ぎます!少々お待ち」
「俺に話しか?ロティ?」
カウンターのウルカさんの後ろから声がした。
ムキムキの熊みたいな大きい体躯の男性が現れた。
短い黒い髪にちょび髭、厳つい顔と頬と右目に大きい古びた傷がある。
他にも所々真新しい傷があり、知らない人から見たら目線を合わせられない位に怖い見た目だ。
「ギルドマスター!珍しいね?ここに居るの。
いつも何処かに魔物倒しに行っているか、部屋にいるはずなのに。」
「ギルドマスターはよせ、ゲオーグでいいといつも言ってるだろう。
今はグリフォンをギルドで預かっているから外に出れなんだ…。俺が面倒を見とる。俺だって魔物を倒しに行きたい。」
「いやいや…ゲオーグさん。
ギルドマスターなんだからギルドの仕事しようよ…。
よく書類仕事も溜まってるでしょ。
ギルドの掲示板も綺麗にして欲しいよ?グリフォンは他の人じゃダメなの?」
「書類仕事はどうにも好かんでな…。掲示板は…なんとかしなくちゃならんな…。
だがグリフォンは他の者ではちときついな。
俺は扱えない事はないのだが懐く事はないからな。
早くグリフォンをテイムできる奴が来てくれればいいんだが。」
ゲオーグは至るとこにある傷を撫でながら困り顔をした。
その真新しい傷はグリフォンによるものなのかと理解する。
ルークはゲオーグを怪訝な顔をして見つめて口を開いた。
「ゲオーグ。グリフォンなどテイムできる奴がタルソマの町にいるとは思えんが?
あれは中々に厄介だろう。」
「ルーク様。無事にロティと再会出来て何より。
確かにそうですなぁ。この町の周辺は比較的魔物が弱いですからな。魔物使いならもっと王都よりか、北の方へ向かいますからな。はぁ、グリフォンどうしよう。」
弱々しく嘆くゲオーグだが、全然弱々しく見えない。
ゲオーグもルークに会ってるみたいだ。
ウルカは痺れを切らした様にゲオーグに言う。
「ギルドマスター、それより至急でロティさん達から話を聞いて下さい。シュワールの森の大型の犬のような魔物をルーク様が討伐なさったそうで。」
ゲオーグの目がギラリと光る。
「ウルカ、会議室は空いてたな?」
「はい、空いております。
皆様、会議室にてお話をお願い致します。」
ゲオーグがカウンターから出てきて、ゲオーグを筆頭に会議室に4人で向かった。
ゲオーグの首の後ろにも小さな引っ掻き傷が見え、私は会議室に向かう途中静かに回復を唱え、ゲオーグの真新しい傷達をそっと治してしまった。
❇︎アリリセは4人家族。ビグ(父親)、ルマ(母親)、アリリセ、シラー。
家業は農家。沢山の野菜を育てている。
魔導具はルマが使うため購入。
畑作業の効率が以前と比べ物にならない位良くなった。
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