第2話 困ってるとつい声を掛けたくなる。
適当に昼食を食べ、ギルドに向かう。
他の商店等と比べたらギルドの建物は3.4倍は大きくて目立つ。
タルソマの町のギルドは二階建ての木造建築の古びた建物だが、ここの扉は地味に重くて好きではない。
ギギキィと軋む扉を開けて中に入る。
ギルドに入り左のほうにある掲示板の方へ行く。
大きく分厚い2枚の木板に沢山の紙が貼り付けられている。
パーティメンバー募集、依頼、討伐記録、指名手配者、事件事故等の事が書かれている、大事な情報源だ。
その中からパーティメンバー募集の紙を見るがなかなか条件が合わず溜息をつく。
ギルド職員に相談しようと掲示板を後にし、
ギルドの窓口へ向かう。なにやら窓口が騒がしい。
「ん?どうしたんだろ。」
少しだけ歩みを早めて近づくと、なにやら1人の少年が窓口にて声を張り上げていた。
「お願いします!すぐにでもシュワールの森へ行きたいんだ!もう何日も待ってるが一向にパーティメンバーが揃わない!これでは妹が死んでしまう!」
「D等級の貴方でも1人でシュワールの森に行くのは許可は出来ません。
妹様だけではなく貴方の命の保証がありません。
報酬金があまり高額とは言えないため人が集まりにくくて…ですが最低でも後1人はいないとエルダーの花を採取し、帰ってはこれないでしょう…。
貴方もご存知の通り、大型の魔物の目撃情報が他でも上がっているんです。襲われでもしたら…!」
窓口で対応していたのはギルドの職員、猫の亜人のウルカ。
悲痛な表情で少年を説得している。
他の冒険者達も遠巻きにその様子を窺っているようだ。
少年も引かない様子で声量を上げながら必死に話していて、ウルカも困り果てている。
「エルダーの花か…まぁ、いいかなぁ。あれは見つかりにくいだろうし。」
そう誰にも聞こえない声量でボソッと呟き2人に近づいた。
フードを浅く被り、スカーフはとってく。
後数歩で触れる位置までくると少年の声が今にも泣きそうな声で話していた。
「だけど…このままじゃ俺じゃなく妹がっ」
「ちょっとごめんね〜。ウルカさんこんにちは。
また戻ってきちゃった。パーティ紹介してくれたのにごめんね。ってなわけでこの人の依頼内容教えてくれる?エルダーの花が欲しいの?」
「「!!」」
無遠慮だが少年の横から2人に話しかける。
2人とも白熱していた為、私の登場に驚いた様だ。
最も驚いた後の反応は別々だったが。
「え、えっとこの美人さんは誰?え?
というか依頼を受けてくれる…?」
と私の顔を見た少年が頬を赤らめ戸惑いながら期待混じりの声を出す。
背は私より頭ひとつ高いか高くないかくらい。
髪は赤毛で顔を見ると私の年下か同い年くらいか、
まだ可愛い気が残る顔で動揺した茶色の瞳が私を見つめる。
ウルカは溜息を吐いて頭を押さえながら嘆く様に声を出す。
「はぁ〜…また追い出されてしまったのですね…。かわいそうに…。」
ウルカの耳が垂れてしまったが可愛い。
タルソマの町に来た2年前からウルカにはお世話になっている。
私のギルド登録をしてくれたのもウルカで、数少ない私を気にかけてくれる人。
最近では私単体でギルドの窓口に来ただけで、パーティを抜けたものだと判断してくれるようになってしまう程顔見知りだ。
「そう…ですね、ご紹介致しますね。
この方はロティ・キャンベルさん。C等級のダブル職の方で薬師と回復役も出来ます。前回のパーティ加入の時は回復役で入って頂いてますね。
ロティさん、こちらはアリリセ・マヴさん。
D等級で職業は剣士です。
彼は妹様が約10日前に魔物に瘴気を当てられてしまいまして、瘴気跡が体に出てしまっている状態とのことで…。2万Gの報酬金でパーティメンバー募集はかけていたのですが、中々見つからなくて…。」
「なるほど、報酬金2万Gね。」
ウルカが双方に軽く説明をしてくれて助かる。
大声で話していたとはいえ、何の目的でパーティを組むのかはちゃんと把握したい。
エルダー花は瘴気に当てられた時、もしくはポーションの原料の一部でしか使われない為、取りに行く人が極端に少ない。
しかも一定の条件の上でしか咲かない花のため、見つけるのが困難だ。
報奨金が高ければ別だがそれだけのために行く人はほぼいないだろう。
エルダーの花は取ってから半日で加工しなければ使い物にならなくなる。
魔物に瘴気を当てられたら異常状態回復魔法もしくは異常状態回復薬を使えば治るが、1日以上放っておくと魔法では治せず、どんどん体を瘴気が蝕み動けなくなり、そのうち死んでしまうのだ。
大抵のパーティには魔法が薬かどちらは準備されているため、その状態になる前に瘴気を浄化できる。瘴気跡が出来てしまってからでは、エルダーの花しか瘴気跡を消す事が出来ない。体に瘴気跡が出る前に対処するのが普通だ。
ふと疑問に思い、私はアリリセに質問をした。
「ねぇ、アリリセさんの妹さん、どうして10日も放っておいたの?瘴気に当てられたのならわかるはずよね?」
多少聞き方がきついかもしれないが、もしこれからパーティを組むのだとしたらこれくらいの口調で逆上されては困る。
緊急事態の時には言葉や口調が荒くなる事もある。
パーティメンバーはお互いが常に命を預かり合っているもの。
緊張感がないと命が幾つあっても足りない。
少しの気付きが大事だ。
アリリセの表情は少し強張ったものの、ゆっくりと口を開いた。
「俺の…誕生日だからと1人で森に果物を探しに行ったらしい。まだ妹は10歳で魔物の事も多くは知らなくて…。
帰ってきた時はあまり辛そうにしてなくて…3日後に気付いた時には体に瘴気跡があって…問い詰めたら大きい犬みたいな魔物の横を通った時に瘴気をもらったらしい。
そいつは寝ていたみたいで反応しなかったみたいだが、多分そいつから瘴気を浴びてしまったと思うと言っていた。」
「なるほど………。そっか…。
プレゼントを探しに行って自分が怪我して帰ってきたらびっくりするもんね。
心配かけさせたくなかったんだね。お兄さん想いの妹だね。」
そう言って私が笑うとアリリセは恥ずかしそうに笑い返す。本当ならもっと森は危ないとか、魔物にあったらどうしていたのか尋ねたい所だが、今は辞めておこう。
ウルカはそんな私達の会話の様子を見てホッとしながら話した。
「アリリセさんは剣士なので何かあればロティさんが回復を行いながらエルダーの花は採取可能かと思います。
通常なら見つけるのに時間がかかると思いますがロティさんなら見つけられますよね?
ついでに薬草採取も出来るのではないでしょうか?」
「うん、探し物得意だからね。見つけられるよ。
だけどさすがウルカさん!
私、薬草採取したいと思ってたの!採取しながら行けたら利益になるし、それでいいならパーティを組まない?アリリセさん?」
ウルカと私がアリリセを見る。
目に涙が溜まっていたが腕で擦り、頭をグッと下げた。
「あ…ありがとう…。ウルカさん…ロティさん…。
感謝します…。」
「巡り合わせるのも私の仕事ですから、感謝ならロティさんに。ロティさん私からもありがとうございます。気をつけて行ってきて下さいね。」
「感謝はエルダーの花で妹さんが回復してからね!うん、行ってきます!」
こうして、私とアリリセのエルダーの花採取パーティが結成された。
この後アリリセは余程嬉しかったのか涙が止まらず、ギルドの隅のテーブルで私と作戦会議をしながら大泣きをしていた。
❇︎タルソマの町の1ヶ月の冒険者の稼ぐ金額平均8万G〜15万G。
宿代500G〜1万G。パン、50G〜200G。
500Gの宿は期待できないオンボロ宿が多い。
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