第1話 願わくば顔じゃなくて働きぶりで首切って!
「…え。リーダー、今なんて?」
私の体からサーッと血の気が引いていく。
こんな夜遅くにパーティリーダーに呼び出された時点で、なんとなく察してはいた。
言葉にされると嫌でも冷や汗が出てきてしまう。
このパーティを組んで今日で12日。
その言葉を聞くのは幾分早い気がしてならないが、聞き間違いの可能性を踏まえパーティリーダーに私は縋る様に尋ねた。
目の前の相手は言いにくそうに再び言葉にする。
「ロティ…本当にごめん…。パーティを、抜けて欲しいんだ…。」
聞き間違いでもなんでもない。私の勘はよく当たる。
この言葉を聞くのは何度目なのだろう。
明日から埋まっていたはずの予定はこれでまっさらになったのだ。
◇◇◇
パーティメンバーで寝泊まりしていた宿から、朝早くに出るため支度をする。
パーティに2人しかいない女子同士で、寝泊まりしていたが対して仲良くもなれなかった。
というより嫌われていただろう。
滅多に会話もしなければ私に向けられていた目は殆どが睨む様な視線だったのだから。
幸いにも多少ガダガダと音を出しながら、急いで身支度をしていても布団をすっぽり被り何の反応もなかったので胸を撫で下ろす。
最後まで睨まれたくはない。急ぎつつも部屋を出る時は扉の音がならないよう注意を払って出た。
一昨日まではパーティメンバーと魔物の討伐をしていた。
休みだった昨日、パーティリーダーから突如と告げられた脱退のお願いを拒否してまでこのパーティに残る執着心は私にはない。
(しょーがない、しょーがない。今回は実害がなかっただけまし!報酬も貰えたし!次で頑張ろー!)
心の中で自分に気合いを入れる。
私こと、ロティ・キャンベルはこれくらいでめげていられない。
私は宿の玄関を出る前にローブのフードを深く被り、口元にスカーフを巻いて宿から飛び出した。
そそくさと早足で町に歩みを進める姿は側から見れば逃亡者の様だろうに。
◇◇◇
大きな大陸のほぼ中央に位置するメルニア王国。
その王国の西の方にある比較的小さな町、タルソマの町を歩きながら昨日の事を思い出す。
「リーダー、抜けて欲しい理由聞いてもいい?」
「あー……。うん…。ロティもわかっているとは思うけど、パーティが機能しないんだ。
前衛も回復役の君の側に行きたがるし、メンバー同士でロティを巡って喧嘩にもなる。
女子同士仲良く…とは言わないけど、あの子はロティと話をする気も聞く気もないから連携も取れない。
君だけが悪いのではないし、毎日のことでもなかったけど、こう何度もあってはね…。
貴重な回復役なのに機能しないパーティの前じゃ回復うんぬんの話でもなくて…。
本当にごめん…。」
話し辛そうにながらもきちんとリーダーは言葉を選びながら理由を話してくれた。
私は首を横に振りながら苦笑いをして答える。
「あー、ううん。
前にも同じ様な事があったから、なんとなくはわかってたの。私の方こそごめんね、リーダー。
短い間だったけど、ありがとう。皆にもよろしくお伝えてね。」
あまり暗くならない様に心掛けながら謝罪と感謝を伝えた。
とは言え、この理由でパーティを抜けるのは初じゃない。もう何度目かも分からない位同じ様な理由で脱退勧告、もしくは脱退の申請をしているのだから。
今回のパーティはまだいい方だった。
私の他にいた1人の女子は睨んで口を聞いてくれないだけで、毒を持ったり服を隠したり、何かを盗んだりするわけじゃなかったし。
前衛とアタッカーは確かに私に対しての距離がおかしいと思うくらい近い時あったが襲ってきたりしたわけじゃない。
まぁ本当に近すぎて嫌ではあった。
好意がない男性に近づかれてもあまりいい気はしない。
決められた持ち場を離れて私の側に来るのだって大問題だ。
リーダーはしっかりしていただけあり、本当に申し訳なかったと思う。
タルソマの町に来て2年。
ここで冒険者をしているが、私がパーティを抜けるのは数え切れない程だった。
短くて1日、長くて1ヶ月持つか、それくらい私は人と一緒に居られない。
原因は分かってる。
両親のどちらにも似なかったこの容姿。
軽くウェーブがかかったロングの金髪に、翡翠色の瞳。
幾度ともなく何人もの人に、可愛いだの美しいと言われた顔。
得意とする魔法は回復魔法で、聖女の様に見えると言われることもある。
言い寄られる事が少なくないが、聖女でもなければ、私はただの冒険者だ。顔を売っているわけでも、愛嬌を売っているわけでもない。
自分で稼がなくては暮らしていけない。
願わくばきちんとその仕事ぶりを見てほしい。
自画自賛だが結構良い回復だと思う。
私の生まれはごく普通の一般家庭だったが、両親のどちらにも似なかったせいで2人には疎まれた。
親の不貞を疑わせ、2人は別れてしまった。
私をどちらも引き取りたくはないと、当時1人で暮らしていた母方の祖母に引き取ってもらえたのは不幸中の幸いだった。
祖母が亡くなるまでの15年間は平和に暮らせた。
祖母と暮らしている時には一切寄り付かなかったのに、祖母が亡くなるとすぐにその家は私の物だと母に急に押し掛けられ、出て行けと命じられた。
自分の荷物やお金を取られなかっただけまだましだった。
そうして自分の荷物を全て持ち、住んでいた村を飛び出した。
今冒険者が出来ているのは祖母のおかげだ。
感謝してもしきれない。
祖母が優しく読み書きや魔法の使い方、自身が得意としていたポーション生成を教えていてくれたおかげで生きてこれた。
ギルドがある1番近い町を目指したらこの町、タルソマに着いたのだ。
近いといっても出てきた村から9日もかかったが、この町でギルドに登録して冒険者になれたのだから。
だがなれたはいいのにこのザマだ。
私が得意としたのは回復魔法だが、祖母のおかげでポーションを作ることも出来る。
薬師、回復役ともに職業は安定職なのだが、回復役としてパーティに入っても、パーティ状態を維持できないため、薬師でお金を稼いではいるもののお金は貯まらずいつも余裕がない。
トラブルの元となる顔は、町を歩く時はフードを深く被り口元にスカーフを巻き顔を見えにくくしているが、パーティで依頼に行く時は視界が狭まるフードや、声を出しにくくするスカーフをとってしまう。
そうすると、昨日までは普通に話していたパーティメンバーの態度が一変してしまう。
私の顔を見てデレデレしながら言い寄ってきたり、女子には睨まれたり、酷い時には体を触られたり、物を盗まれたり、卑猥な言葉を言われたり。
依頼に容姿など関係はないのだから気にしないで欲しい所だ。
さすがに嫌な人と一緒に居たくないため、あまりに酷い時には自分からパーティの脱退を願い出たりした。
私の選ぶパーティはギルドに登録してあるパーティなので、ギルドに報告すればなにかしらの対処はしてくれる。ストーカーに発展した事がないのはギルド様様だと思う。
私自身の悪い点は直したいところだが、自分の容姿を変えるのは得策ではない。
悪い点なのかと言われれば違うような気もするし、なにより金欠。
容姿を変える魔法が仮にあったとしても珍しい魔法や使える人が少ない魔法は値が張り、私にはきっと払えない額だろう。
容姿を生かして仕事をする事も選択肢にはあるだろうが、良くも悪くも直ぐに顔に出てしまう素直な私には難しい。
(あーいつかは家でも買ってのんびりと暮らしたいなぁ。出来れば恋人とか居れば楽しいそうだけど……いや…当分無理だな。私が誰かを好きになる未来が見えないな……。)
いろいろ考え事をしているうちに、1人の時はいつも使っている宿【戦乙女の金蝶亭】に着いた。
女性専用の宿は値が張るが、防犯面はしっかりしているため背に腹は変えられない。
冒険者だろうと素行の悪い奴はいる。
普通の宿で1人の時に寝込みを襲われるのは御免だ。
【戦乙女の金蝶亭】の扉を開け中に入る。
中は薄ピンクの壁に小さな黄色い花が散りばめられてある可愛らしい部屋に白いカウンター、その横にはちょっとした休憩スペースで、猫足の茶色のテーブルと椅子が対になって置かれている。
カウンターの横から部屋への階段に繋がっている為、必ず宿の人のチェックが入るから安全なのだ。
なんとも可愛い空間に貫禄がある鋭い目つきの50代位の女性がカウンターに座っている。
この宿の女主人、タイス母さんだ。
タイスは私の顔を見るや否や眉を八の字にして言う。
「ロティ…またなのかい…。おかえり…。」
一見怖そうに見えるが、中身はとても優しく心配性なのだ。私は何度もお世話になっているので顔見知りになっている。
「まただね…ただいま、タイス母さん。
そんな悲しい顔しないで!今回は報酬も貰ったし、そこまで酷くもなかったから大丈夫だよ!」
フードとスカーフをとりながら私が言うと、タリスはカウンターの椅子から立ち上がり私の頭を優しく撫でてくれた。
母に撫でられた記憶もないのにこのタリスはこうしてたまに私を撫でてくれるのが懐かしくて好きだ。
慌ただしくはあったが無事に【戦乙女の金蝶亭】の部屋を借りる事ができた。
しかしながら1泊5000Gする宿は懐に響く。
早いうちに手を打たねば。
部屋に持ってきた荷物を下ろし軽く整理して、小さめのカバンに最低限必要な物を詰める。
まだ午前だが、午後にはギルドに行きたい。
朝食を食べ損ねているため早めの昼食をと思い再び町に出た。
❇︎住んでいた村から9日かかったが、たまたま道すがら恋人のパーティと一緒になり、タルソマの町まで安全に移動できた。お礼にポーションや回復をしてあげたため喜ばれた。
❇︎ 【戦乙女の金蝶亭】の部屋へは防犯のため、カウンター横の階段からしか入れない。カウンターにはタリス、タリス旦那、息子の3人の誰かしらいる。3人はB級冒険者以上で、この宿を襲うものはいないに等しい。1番強いのはタリスである。
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