第18話
「それで、俺の言いたいことの件だが。いや、まあ今の件と重複する面もあるんだが」
「今の話と?」
「ああ」
ロベルナは、どこから話すべきが一瞬迷う。
「実は、お前とオアシスで会ったときから今日まで、少し焦っててな」
「そうなの? とてもそんな風には見えなかったけど」
「今はもう焦っちゃいねぇ。当座の目的は果たせたからな。俺が魔法学生で、今まさに卒業課題の一環で世界中を旅してるって話はしたよな?」
「聞いた」
「その旅も、無計画にだらだらと続ければいいってもんでもなくてな。どの街にいつ頃到着しなければならないのか、期限が決まってる。俺は、最後の目的地がこの街だった」
「ふーん」
「期限は今日まで」
「今日、ってめっちゃぎりぎり……あ」
「そう、ぎりぎりだった。本気で期限が迫ってたんだ。もし期限に間に合わなければ卒業は見合わせだ。だからとにかく急いで向かう必要があった。……だから、面倒な異世界人にかまう余裕なんてなかったんだ。可哀想だとは思ったけどな」
「……まあ、確かにあんたの境遇だったら私も放置しちゃうかもだし、ていうか結局は助けてくれて、ホテルまで取ってくれてたわけだし」
「夕方、この街に着いてお前と別れた後、俺は一目散に魔法学校の支部に向かった」
「支部」
「世界中の街にあるんだ。担当者と会って、無事に旅の報告と簡単な口頭試問を終えてきた。これで俺の旅も終わりだ」
「え、じゃあ、卒業決まったってこと?」
「ああ、そうなるな」
「へえ、それは良かったじゃん、おめでと」
想定外なホシオトの無邪気な笑顔の祝福に、ロベルナは内心たじろぐ。
いつもむっつりと不機嫌そうな顔をしているホシオトが年相応に笑顔を見せると、花がほころんだようだ。
見惚れそうになる自分を叱咤して、ロベルナは宙を見ながら胸を張って続けた。
「あ、ああ。まあ、当然の結果だがな。ついでに、俺は優しいからな、哀れな異世界人についても報告したところ、有益な情報を得た」
「有益な……?」
にやり、と得意そうな笑みを浮かべ、ロベルナは内緒話をするように声を潜めた。
「例の洞穴の場所が分かった」
「えっ、嘘」
「嘘つく場面か? 本当だ。よかったな。山の奥の小さな村の、さらに奥にその洞穴はひっそりとあるらしい」
「山奥の、村……」
「ああ。学園長が言うんだ。間違いねぇよ」
みるみるうちにホシオトの目が輝く。が、山奥と聞いてなんとも言えない表情をした。
「その村って、どこにあるの?」
「この大陸を東に横断した、果ての果てだ。無理せず馬車で行くとなると、……そうだな、ひと月はかかるだろうな」
「ひと月かぁ」
ますます表情を曇らせたホシオトに、ふふん、とロベルナはさらに得意げに続ける。
「一度拾ったものは最後まで責任を持って世話しろと、学園長に念を押されたと言っただろ」
「付いてきてくれるってこと?」
「それだけじゃない」
「?」
「学園長は寛大かつ融通の利くお方でな。お前を送り届ける際に俺の転移魔法を使ってもいいと許可をいただいた」
「転移魔法?」
また急に異世界感出てきた、とホシオトは思った。
「そうだ。説明が必要か? 目的地までほんの一瞬のうちに到着できる上級魔法だ。寝坊しても明日の昼にはその村に着けるぜ」
「じゃあ、明日には私の世界に帰れるってこと? あんたって、本当に魔法使いだったんだね。すごいや!」
「おう。しかも卒業率一割未満の魔法学校の卒業見込み生だ。エリートだぞ」
「うん、よろしく」
元の世界へ帰れる算段がついたことにほっとしたようだ。ホシオトは、これまでロベルナに見せたこともないほどになんとも無防備な、穏やかな表情をしていた。
「おう。大船に乗った気でいろよ。……ほら、今日は寝ちまえ」
「ん、そうするよ。おやすみ」
「お、おやすみ」
笑顔でおやすみを言い大人しく布団に潜り込むホシオトを見守り、ロベルナは部屋の電気を消した。
暗い部屋の中を難なく歩き、ホシオトのとなりのベッドにごろりと横になった。
しばらくすると、規則正しい寝息がかすかに聞こえてくる。
安らかなそれに釣られるように、ロベルナも心地よい眠りの波に身を委ねた。
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