第95話 謁見をしました。
再びフィリベルトです。
俺たちは後謁見の間へ向かいます。
俺たちが中に入ると、普通の男が居ました。
ファルケ王国国王、ペルリ・ファルケ。
温厚そうな顔ですが、玉座の周りに半裸の女性を従えていました。
ハーレム?
これならケイン様の周りに居る方々のほうが上だと思います。
大臣らしき男が俺たちを紹介すると、
「お前がケイン・ハイデマン伯爵か?」
国王が聞いてきました。
「ええ、そうです」
とケイン様が答えると、
「メルカド伯爵をその下に従えたとか?」
再び聞きます。
「まあ、カミロ・グリエゴ公爵が無理難題を言っていたお陰で、簡単でしたよ?
無償というのは難しいにしろ、乗っ取りと体の提供はやりすぎたんじゃないでしょうか?」
ケイン様が言うと、
「私はそんなことはしていません。
ケイン・ハイデマン伯爵の作り話です!」
カミロ・グリエゴ公爵が汗をかきながら否定します。
表立って言われるとは思っていなかったようだ。
「恩を着せずに普通に兵を貸し出すのならば、メルカド伯爵はそのままあの場所でバレンシア王国の壁になっていたと思いますが?
それを拒否するほどの何かがカミロ・グリエゴ公爵との間にあったのでしょう。
貴族の娘とは言え、自分が望む男の所に行きたいと思うようです。
結果、カミロ・グリエゴ公爵よりも、俺の方が良かったようですね」
ケイン様がニコリと笑って言いました。
「グリエゴ公爵よ。
申し開きは?
私の方にもそのような話が届いているのだが……」
王はカミロ・グリエゴ公爵を睨み付ける。
(あっ、これ、事前調査済みだ。
逃げ場がない奴)
俺はカミロ・グリエゴ公爵を見た。
「私はお前の叔父だぞ?」
と声を上げるが、
「だから何です?
そのせいで、メルカド家が離反しました。
それも、攻め取ろうにも壁ができており、無理です?
叔父上も知っているでしょう?
壁を越えてきたのですから……。
あの壁を超えるために何人の兵士が必要ですか?」
と冷静に返す。
「ファルケ王国の力を使えば……」
言葉が弱くなるカミロ・グリエゴ公爵。
「何をバカなことを言っているのです。
うちのアルベルティ・アルバネーゼ伯爵が従者に一撃ですよ?
それよりも強いというケイン・ハイデマンの配下も居るのです。
どうやって、あの壁を抜くのですか?」
正論を言われ、
「それは……」
とカミロ・グリエゴ公爵は言葉が詰まりました。
すると、
「叔父上。
勝手なことをしないでください。
バルトロメ・メルカドの仇討は考えていたのです。
しかし、今回のことで、あなたを取り戻すために金と兵糧を払うことになり、兵は維持できても兵を動かすことはかなわなくなりました。
このお金は、民が我々に預けた税金です。
それを、バレンシア王国のために使ったのです」
更に正論を言われ、カミロ・グリエゴ公爵は何も言えません。
「叔父上の処分は後にします。
覚悟しておいてください」
国王がそう言うと、カミロ・グリエゴ公爵の両脇に騎士がつき、連れて行かれるのでした。
「さて、我が国の恥ずかしい所を見せてしまったようで申し訳ない。
この醜態を忘れてくれるなら、好きな女を連れて行っていい」
ケイン様が女好きだという情報を得たことで、国王の周りに、女性を揃えていたようです。
年齢層が広いのも頷けます。
俺が納得していると、
「誰でもいいって訳じゃないんですよね。
たまたま出会って、たまたま好きになる。
そこに居る人はそうじゃないですから……」
そんなことをケイン様が言いました。
そして、俺を見ると、
「そうですね、国王が言う通り女性ならば誰でもいいというのなら、エレンと言う騎士が居ました。
私たちの世話をしてくれた騎士です。
私の従者が、その騎士を気に入ったようです。
その騎士を貰いましょうか」
と言います。
エレンさんのことです。
「従者が騎士にだと?」
驚く国王に、
「関係ないでしょう?
うちの従者は、そちらのアルベルティ・アルバネーゼ伯爵よりも強いのですから。
それに本来は、女性は物じゃありません。自分の方を向いてもらって連れてくるものだと思いますよ。
まあ、今までの流れで、エレンとフィリベルトの仲がいいので、問題がないのであれば、我が家の騎士になってもらいたいだけです。
フィリベルトも、そのうち騎士になるでしょう。
その後、妻も必要になりますし……」
と言ったあと、俺を見てニヤニヤするケイン様。
(やられた……。
そりゃ、エレンは気に入ってはいるけども……。
他国の騎士をなんて……)
俺は顔が赤くなる。
「良かろう。
確かエレンには両親は居なかったな。
家の格も低い」
国王が言いました。
確かに、エレンは騎士団の中でも浮いた存在だったが……。
「そりゃ良かった。
我が家の新しい騎士には家の格などは関係ありません。
喜んでいただいて帰ります。
ただし、向こうが嫌がるのであれば、諦めます」
ケイン様は笑いながら言うのでした。
「ケイン様」
「どうした?
これで、お前も俺と同じだな」
「それを狙っていたのですね?」
「フィリベルトは、俺を守ったってことにもなる。
それに、エレンの事を気に入っていたのだろ?
楽しそうに話をしていたじゃないか。
まあ、俺たちが求めても、向こうが断るかもしれない。
それは帰るころにわかるさ」
ケイン様が笑う。
俺たちが出発する時には、見送りの兵士などほとんどおらず、アルベルティ・アルバネーゼ伯爵が挨拶に来た程度。
ファルケ王国が準備してくれた馬は、そのまま貰ってもいいことになりました。
乗りこなせる者が居なかったようです。
「私は戦であなた達と戦いたくない。
一騎当千が二人。
いや、鬼神さえ居る砦をどうやって攻められましょう?
屍の山を築くのがオチです」
そう言っていました。
アルベルティ・アルバネーゼ伯爵、ファルケ王国の武では一番らしいのだが、先の件で心は折れたようです。
ケイン様は話しを聞きながらウンウンと頷いていました。
「私どもも、襲われない限り戦う気などないのです。
現在の国境で満足していただけるのなら、関を開き交易したいぐらいです」
ケイン様が言った一言に反応し、
「では、我が懇意にしている商人を紹介しても?」
アルベルティ・アルバネーゼ伯爵がケイン様に言います。
「それはいいですね。
壁の砦まで来ていただければ、話を通しておきましょう」
「間者が入るかもしれませんが……」
「私は今、あなたを信用しましたので、それで裏切られるならそれまでですね」
「それほどまでに……」
アルベルティ・アルバネーゼ伯爵が感動したのか涙を流します。
そして、
「それでは、そのように取り計らいます」
と頭を下げるのでした。
そして、俺たちが帰るとき、エレンさんは馬を曳いて現れる。
「私も間者かもしれませんが、いいのですか?」
赤い顔をしてケイン様に聞くエレンさん。
「んー、その時はフィリベルトに責任を取ってもらうからいいよ」
と笑うケイン様。
「えー、俺っすか?」
嫌な顔を擦ろ俺に、
「嫌なのか?」
ケイン様が問うと、俺を覗き込むエレン。
「いや……そうじゃないけど……」
そう言うしかないだろ?
すると、
「とりあえず、エレンはお前が世話しろ。
一応、ラムル村の屋敷に部屋も準備してやる。
これで、俺と同類ができた」
ウンウンと頷くケイン様に、
「同類とは?」
聞くエレン。
「動くたびに婚約者や愛人が増える人のことらしい」
俺が言うと、
「それは……当たり前なのでは?」
エレンさんが俺を見ました。
「まあ、皆がそう言う考えだったらいいんだけどね」
ケイン様が苦笑いです。。
「ケイン様の場合、カミラ様、リズ様、ライン様、レオナ様、アーネ様、ミラグロス様、ミンク様にアネルマ様、そして、ミア様。
多すぎでしょう?」
俺が暴露すると、
「まっまあ……確かに。
要はそれだけの方を満足させればいいとは思います」
と頷きます。
「まあ、満足させてるんだろうね。
だから、揉めない。
カミラ様がバランスを取っているんだろうし」
俺は本音を言いました。
(改めて考えれば、確かにすげえよなぁ……)
ケイン様を見てしまいます。
「私がバランスを取ればいいのですか?」
エレンが俺の顔を見て言いました。
「えーっと」
俺はケイン様を見ます。
「私はフィリベルトの妻になればいいのですよね?
その予定で、私はケイン様に呼ばれたのでは?」
エレンもケイン様を見ると、
「その通り」
ケイン様が頷きました。
「では、そのように。
末永くよろしくお願いします」
エレンさんが言うと、
「えーっと、早くない?
俺まだ従者だし」
と返しました。
しかし、
「それはですね……。
私は従者だからフィリベルトを好きになった訳じゃないんです。
王都への旅の間、私を助けてくれたフィリベルトが好きになったんです。
あのまま、ファルケ王国に居ても、低い身分の私は、あのまま独り者だったり、適当な貴族の後添いでしょうし、私にとってケイン様の申し出は良かったんだと思います」
と言ってエリスが笑いました。
(ケイン様もこんな感じなのね……。
断れない雰囲気。
まあ、断る気もないけど……)
エレンさんを見ると、
「俺の方もよろしくお願いします」
俺が頭を下げげました。
俺たちを見て苦笑いをするケイン様は、
「人のイチャイチャを見ても楽しくない。
さっさとバレンシア王国に帰るぞ」
ケイン様がライアンを走らせ始めるのでした。
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