彼の答え

シヨゥ

第1話

「この世界に完璧な答えなんてないと思うんだよ」

 彼はそう言う。

「どれだけ議論を尽くそうと、どれだけ言葉を並べようと、綻びはどこかにあるんだ」

 必死というわけでもなく、あくまで冷静に彼は言う。

「だけれども論を戦わせるからには結論を出さなければならない。それが最適解である結論を出さなければならない。最適解、つまり最も適した結論だ。ではなにに最も適した結論なのか」

 もったいぶるように間をおくと、

「それは目的だ」

 と言った。

「目的に最も適した結論。それがこの場合の答えなんだ。もちろん綻びはある。それでも目的を叶えるには十分な結論。それが僕らが求める結論なんだ」

「なるほど。そういう論理なんだね」

 話は分かったからあえて納得してみる。それでホッとしたのか彼の姿勢が崩れる。

「でも、勝手に契約した理由にはならないよね?」

 そう詰め寄ると再び姿勢を正した。話一つなく家を買う話が進んでいたのだ。それはそれは高い高い買い物に普段何をしても怒らないようにしている私も怒る。

「私は賃貸でも十分だった。暮らすという目的を満たすにはそれで十分だった。それなのに君は勝手をした。君の言う議論もなくね」

「それは、その通りです」

「きっと君は暮らすという目的において家を買うことが最適だと思ったんだと思う。それなら話してよ。夫婦なんだから。そうしてくれたら私もこんなに怒らないよ」

「お怒りごもっともです。はい」

 一転しての平身低頭。なんだか悪いことをしている気分になってくる。

「悪いと思ってる?」

「はい。それはもちろん」

「じゃあもういいよ」

「本当?」

「本当本当」

「ありがとうございます!」

 土下座された。なんだか本当に悪いことをしているみたいだった。

「もういいって。それよりこれからのことを話そうよ」

 だから夢のある未来のことを話そうと思う。

「君が最適解として導き出した結論の先に私はどんな未来を描けばいいのかな?」

 きっと答えは用意されている。だからきっと彼は話してくれる。その期待は間違いじゃないはず。そうじゃなきゃ彼を選ぶことはなかったんだから。

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彼の答え シヨゥ @Shiyoxu

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