第27話 聖騎士メイド限界攻略術〜最上級編〜

 エリゼ視点



 その日の朝はとても穏やかな陽気に包まれていて、近くの空を通過する鳥の囀りが空間に響き渡っていた。


 心地のよい風が木々を揺らしている。

 春の陽射しが中庭を照らしている。

 雑音が一切ない最愛の午前。


 外の綺麗な景色を眺めながら、メイドの作ってくれた美味しい朝食を堪能した。

 本当に今日はいい日になりそう、心の底からそう思う。


 だって、わたしは今最高に幸せを感じているはずだから。


 ご飯を食べた後、わたしは自室へ戻った。

 観賞用として飾ってあった装備立ての剣を手に取る。


 テンペストに所属していた時は、一度も使わなかったその剣。

 なんだかんだ、手入れしておいて良かったな。


 鞘を備え付けてあるベルトを腰に締めて、姿見を覗く。

 やっぱり、わたしは剣士の方がしっくりくるな。


 自分の格好を見て気持ち良くなると、再びリビングへと戻る。

 出かける前に、メイドと喋っておこうかな。


 部屋を覗くと、みゅんみゅんは丁度床掃除をしている最中だった。

 箒で埃を掃いている彼女を見て、勝手に成長感じる。 


 この前までのみゅんみゅんなら、力加減を間違えて床を抉っていただろうな。

 そんな失礼なことは胸の内に秘めておき、わたしは携えた剣を隠す体勢で要件を伝える。



「みゅんみゅん、出かけてくるね。昨日言った通り夕飯までには帰れると思うから」


「了解した。今日はご主人様の大好物を作るから楽しみにしていてくれ」


「え!?超絶的に楽しみなんだけど!あ、くれぐれもドジで家を消滅させたりしないでね」


「安心してくれ。その時は弁償する」


「みゅんみゅんって割と強引な考え方してるよね……」



 黒いロングワンピースに白いエプロンを装備しているみゅんみゅんを目に焼き付けて、わたしは屋敷を出た。


 目指すは深淵の遺跡。

 あなたの忘れ物を探しに行ってきます。



 ☆



 みゅんみゅんから腕輪の話を聞いたあの日以降、わたしはギルドに出かけて情報を集めていた。


 何度か訪れた訳なんだけど、結局ブレスレットがギルドに届けられることは無かった。とはいえ、完全に無収穫という訳でもない。

 実は耳に付いた情報があったりする。


 わたしの推測が混じるんだけど、それは本当に良くない情報だ。


 深淵の遺跡。

 みゅんみゅんが腕輪を失くしたその場所で、自立人形ゴーレムの凶暴化が確認されているらしい。

 そして、腕輪が消えた時期と凶暴化のタイミングがピタリと合致してしまっている。


 仮の話だけど、自立人形ゴーレムの凶暴化が腕輪の影響によるものだとしたら相当やばい。


 負傷者はまだ出ていないから良いものの、もしたった一人でも傷つく者が現れてしまえば、それはみゅんみゅんに責任が課せられるだろう。


 これは早急に対処しないとうちのメイドが大変なことになってしまう。

 責任取らされてわたしと離れ離れ、なんてことになったら心臓が体から家出するかもしれない。


 それを未然防ぐためにも、腕輪を探すためにもまずは現場へ向かわないと。



 ☆



 そして、わたしは来てしまった、深淵の遺跡に。


 困った時は相談しろ、なんてみゅんみゅんに説いた訳だけど。

 当の本人がこれじゃ説得力の欠片も無いな。


 太陽の位置を見るに、既に昼をすぎているようだ。

 ここに来るまでに、結構時間を費やしてしまったな。


 というのも、ギルドに無断で遺跡に侵入する為、整備された道路を大きく迂回しながら山道を走ってきたからだ。

 見つかれば不法侵入で取り締まられるからね。


 遺跡に到着する直前、正規ルートの方から複数人の走る音が聞こえてきた時は流石にヒヤヒヤした。


 その人達はとても急いでいたようで、わたしは目撃されずに済んだ。

 遠回りしてよかったよほんと。


 改めて、深淵の遺跡に立っているわたしはその建造物の全貌を眺めて驚いていた。

 想像していたより小さいかも。


 周囲は木々に囲まれていて、どこか幻想的で不気味な雰囲気だ。



「何してんだわたしは、もう当分戦わないって決めたばかりなのに」



 正直、自分でも馬鹿だなとは思う。

 たかだか一ヶ月前に初めて会話したメイドの忘れ物を探しにいくなんて。


 いや、みゅんみゅんの主人として生きている時間が一ヶ月なだけで、実際は聖騎士ミュエルのファンとしてもう何年も過ごして来ているじゃないか。


 あなたはわたしに夢を与えてくれた。

 理由なんてそれだけで十分だ。


 目の前の女に笑って欲しくて、認めて欲しくて。

 そんな傲慢だけでこんなところまで来てしまったんだ。

 哀れな女(わたし)だな。


 だけど、腕輪を見つけたらミュエルさん喜んでくれるだろうな。

 きっと抱きしめてくれるし、夜も一緒のベッドで寝てくれるに違いない。


 そう思うと、底のない胸からやる気が湧き出て来た。

 今のわたしはなんだってできる最強の戦士だ。



「今日のわたしは絶好調」



 歌うように自分を鼓舞した。

 夕飯までには帰れるように、と祈りながら先へと進み始める。


 ここからは油断禁物、隙を見せれば命が無くなると思え。


 鞘に入れてある剣の柄に手をかける。

 これは誰にも言っていない秘密なんだけど、今回持ってきた剣の名は


 名付け親はわたし。

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