第33話 ジェットコースター

 目が回る。視界が瞬く間に変化していく。青い空が見えたと思えば、茶色の大地が目の前に現れる。

 顔面から大地に突き刺さり、天に放り出される。

 そして、徐々にHPが削られていく。


 逃げ出そうとしても、ゲムの足が体の奥底に埋まってしまっている為、抜け出せない。

 ゲムの足を切ろうとしても、目と体がブレてしまい、上手く刃を立てることが出来ない。


 更に、私はジェットコースターが嫌いだ。

 前に遊園地で、あのクソみたいな乗り物の起こした反動で意識を刈り取られたことがあった。それ以来、私はあれが本当に嫌いになった。

 そして、今の状況はあれに似ている。......流石に、ここまで酷くはないが、似ているのだ。


 どうすれば、この状況を抜け出せれるのか。

 武器は使えない。ならば、スキルか。

 武器を使わないスキルと言えば、《魅了の瞳》に《傲慢なる王の手イヴィル・オーダー》、《空間浮遊》、《異変ノ凶波》や《飢えた獣の饗宴アブソリュート・デス》か。

 《魅了の瞳》や《傲慢なる王の手イヴィル・オーダー》は、ゲムを目視か指定しなければならない。現在の状態では、不可能。

 《空間浮遊》は論外。私のスキルの強制力よりも、現在、ゲムが起こしている事象の方が強制力が高いだろう。

 《飢えた獣の饗宴アブソリュート・デス》は、発動までの時間が長く、使用する前に死ぬだろう。

 残っているのは、《異変ノ凶波》か。


*****

《異変ノ凶波》

 彼の者の厄災が此処に来たれり。彼の凶器は身を突き刺し、焼き、侵し、止まらせ、狂わせる。

 凶器による厄災の波が、異常たる悪変の人災が、今解き放たれた。

種類:異常系並びに放出系、創造系

属性:無(使用者の状態異常に対する耐性の属性が当てはまる)

効果:MPとSPをそれぞれ5割消費 CT 5min

   両腕を横に広げることで発動する。  

   (MPとSPの消費量)×0.5分の凶器を出現させる。また、50mの切れ目が確定でできる。その空間から凶器が出現する。

   一本一本に状態異常が付与されており、その状態異常は使用者が耐性に由来したものとなっている。

   例)《毒耐性Ⅱ》→《状態異常:毒Ⅱ》となる。

   凶器の放出スピードは使用者のINTとDEXに比例する。

   一回に50個の凶器が放出される。その3秒後に、二回目の凶器たちが発射される。

   状態異常の付与確率は30%であり、ランダムで付与する。

*****


 両腕を横に持って来ることならできるだろう。

 MPとSPを半分持っていかれるのは辛いが、効果は相応のものだ。

 私の場合は凶器の数は1072。それぞれに、麻痺や狂気に病魔、即死と激痛、疲労が掛かっている。

 ......下手したら、これで勝てるかもしれないな。......今のでフラグ立ってしまったかもしれない。まぁいいや。


 大地とぶつかり、空中に持ち上げられる。

 今しかないな。



「ぐっ......《異変ノ凶波》!」



 両腕を横に向けて、スキルを発動させる。


 赤黒いオーラが湧き上がる。前に使った為に覚えているが、私の背後の空間は捻じ曲がり、赤く黒く染まっている事だろう。

 赤い雷が迸り、紫と黒、赤の煙が湧き、赤茶色の渦が巻く。

 分かりやすく言えば、邪悪版王の財宝、ゲートオブバビなんとかだ。



「なっ!ゲートオブなんとかじゃ......ッ!!!」



 殺意に塗れた凶器の波が放出された。

 赤黒い気色の悪い剣や矢、槍に大鎌、鎖がゲムに向かって駆け巡る。


 ゲムは手を交差させて、顔を守る。


 私を叩き潰す動きを止めた。というより、足を下ろそうとする。

 ここで私が《空間浮遊》を使用したらどうなるだろうか。



「《空間浮遊》」



 正解はバランスを崩して倒れる、だ。

 体は勿論、顔にも突き刺さる。いくら硬くなろうとも、これは防げなかったか。

 オーラのせいで見えないが、実に愉快な事になっているだろう。


 ......どのぐらいかかるだろうか。


 今なら足を切り落とせるか?

 放出される前の短剣を手に取り、踝より上に刃を立てる。

 短剣を肉に押し込もうとするが、硬い為に斬れない。


 ならば、鋸のように引いて斬るか。

 前後に絶え間なく動かし続ける。偶に、足がぴくっと動くが気にしないことにしよう。


 ......ふぅ、完全に斬れたな。綺麗な断面だ。病院の模型みたいだな。

 序に、《異変ノ凶波》も終わったようだ。


 下を見れば、数多の武器があらゆる所に刺さっていた。

 中心部には臓器が零れ、半分脳が剝き出しになった満身創痍のゲムがいた。

 この惨事で何故かHPが残っているな。どこぞの吸血鬼より吸血鬼らしいな。まぁ、再生はできないだろうが。


 付与された状態異常は、病魔と麻痺に疲労。これは可哀そうだな。

 早く殺してやろうか。


 私はゲムの方向へと、足を向けて話しながら進む。



「聞こえているか?貴様の負けた理由を教えてやろう」



 幸福に煌めく王の肉叉フェリスに力を入れながら、歩みを続ける。



「貴様は慢心し過ぎた。侮り過ぎた。甘過ぎた」



 自分で言っといてなんなんだが、これは私にも当てはまる。私も気を付けなければこうなるので、用心していかなければならない。



「貴様の勝ち確だったのかもしれない。が、そこで油断してはならない。

 如何なる時も、最悪を見越して動かなければならない。それが人生だ。

 貴様はプロゲーマーだったが故に、慢心した。アマチュア如きに負けるはずがない。自分の方が強いからと、愚かにも確信していた」


「分かっているだろう。どんな事象にも確定などない。不確定要素が必ずある、と。」


「では、どうすればいいか。それは知らん。自分で考えろ。

 ただ私が言えるのは、貴様は負けた事。それだけだ」



 一人の愚かな覇者に向けて、突き刺した。


[2回戦第3回戦勝者リズ=カムニバに決まりました]


 はぁ、偉そうな事を言ったが、私にも言えることだな。

 人生に確定などない。愚かなのはゲムより私の方が当てはまるだろう。

 私もまた、どう生きればいいのか知らないのだから。

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