第31話 冒涜的美貌

「《出血付与ブラッドエンチャント》、《死を齎す風サディエスローグ》」



 死宴が手を上に翳すと、黒紅色の風の集合体が出現する。


 称号の名前を冠したスキル。確実に強いスキルだろう。

 予想としては、範囲攻撃になると思うが、どうやって防ぐか。

 風系統属性の攻撃。しかも、風は刃を形どっている。威力は低いだろうが、前に発動した《出血付与》の効果で当たれば、《状態異常:出血》が付与されるかもしれない。

 ......あまり好きではないが、《魅了の瞳》を使うか?


 まだ死宴のスキルは完成していない。

 今しかないな。



「《魅了の瞳》......ちっ!」

「......残念でしたね。そろそろ完成致しますよ。

 美しく死んでくださいね」



 死を齎す風が解放された。


 私は上へと移動をする。理由としては、上が好きだからだ。......嘘だ。下に居る敵を狙うより、上に居る敵を狙う方が難しいからだ。


 風が来る方向を見ながら、移動する。

 斜め下から私を殺さんとする風の刃が襲ってくる。外から見れば、圧巻の光景だろう。しかし、私からしてみれば、これ程までに理不尽な事はない。


 最小限の動きで斬撃を避ける。

 それでも攻撃は私の体を傷付ける。右に少しズレたとしても、次の攻撃は私の正面を捉える。さらに、足にも風の刃が迫る。

 更に、《状態異常:出血I》にもなってしまった。

 こうなったら、短期決戦をするしかない。


 私は攻撃方向から目を離し、急上昇する。

 被弾率が上がったが、気にしている余裕はない。


 ほどほどの高さまで来たので、体を翻して風の集団に突っ込む。

 風の刃の量も減ってきたので、あまりダメージは受けないだろう。

 代わりに過度に動いた為、《状態異常:出血Ⅱ》に変化した。私としてみれば、こちらの方が厄介だ。


 まあ、もうすぐ終わるだろうが。


 私は死宴に向かって、加速しながら進む。

 肉が切り裂かれる感触が少しだけ気持ちいい。


 私と死宴の目が交差する。

 その瞬間、猛威を振るった死の風が消え失せた。



「なっ!?まだ、放てるはずn......魅了だと!?」



 そう、魅了だ。

 彼の上には魅了に掛かった事を表すマークが描かれていた。



「お前はスキルを使っていなかったはずだ!どうしてオレが魅了に掛かっている!?」



 それは私の装備の効果だ。

 冒涜伯爵の人飾貴族服による冒涜的美貌。30秒間、私を見続けると1/2の確率で《状態異常:魅了I》に掛かるというものだ。

 死宴は私に攻撃を当てる為に私の姿をずっと見ていた。そして、彼は不運なことに当たりを引いてしまった。

 もう、彼はこれで詰みだ。


 私の足が暗褐色のオーラを纏う。

 本来ならば技名を発さなくていいのだが、折角だ、言ってやろうか。



「芸術家よ、これで死ぬといい。

 ――踏み潰す傲アース・オブ・慢なる一歩ナッシングネス――」

「なぁっァ!?グガギァィおウぇあああァァ!!!」



 暗褐色の光が地面に衝突する。

 音として表せないものが武闘場に響く。


 奇天烈な叫び声を上げながら、死宴は踏み潰される。

 鮮烈な赤が舞い散り、地面が割れる。血肉は地面の裂け目に流れ込み、三途の川を作り出す。

 有無を言わせない傲慢な一撃を以って、彼は死んだ。

 ダメージ量は約1,250だった。


 《飛翔双刃撃》でもよかったのだが、こっちの方がかっこいいだろう。


[初戦第5回戦勝者リズ=カムニバに決まりました]


 疎らな拍手が私に送られた。

 改めて、私の人気のなさが知れた。まあ、どうでもいいのだがな。


 私は会場を後にした。


*****


 白色の髪を持った少女がいきなり飛びついてきた。

 倒れかけそうになったが、全力で地面を踏み込んで耐えた。流石、私。



「リズ~、おめでと!」

「あ~、ありがとう。だがな、いきなり飛びついてくるな。転ぶだろう」

「えへへ、ごめん」



 ニコニコと可愛いらしい笑みを浮かべる。

 その表情を見ていると、怒りが消えてしまった。まあ、元からそんなに怒っていなかったし、怒りの感情もないがな。


 リーシアは次の試合だったな。応援でもしてあげようか。



「リーシアも頑張れよ。リーシアが勝てば、私と殺し合いができるぞ」

「うん、頑張る!!でも、リズ。ゲムとも戦わなきゃいけないよ。そっちは勝てるの」

「ああ、勝てる。というより、私のこのイベントで愉しみにしているのは、リーシアと殺し合う事しか無くなってしまったからな。だから、負けるわけにはいかないんだ。

 最後の愉しみが残っているのだからな」



 赤毛の少女は初戦敗退してしまったからな。実に残念だったが、リーシアとの方が愉しめそうなので問題ない。



「そっか。嬉しいな♪じゃあ、楽しみにしているよ。リズと殺し合う愛し合うの」

「ああ、ではな」

「バイバイ♪」



 そこで、リーシアと別れた。

 あの雰囲気ならば、負ける事はないだろう。嗚呼、愉しみだ。


*****


 リーシアは約1分でムケツを殺した。

 まさに早業だった。

 敵を謎の力で押さえつけて、後は殴りまくっていた。さらに、一発一発に魅了の力が宿っていた。

 圧倒的な力を私たちに見せつけた。

 最後には、私に笑いかけると、極小のブラックホールを作り出して、敵を吞み込んだ。

 その笑みは純粋であり、好戦的だった。

 私も自然に笑みが浮かんでいた。その笑顔は不純で、邪悪で、残虐なものだっただろう。

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