闇の勇者と弱気な王様
弱気な王様は、悪い魔王のいたずらに悩んでいた。
大好きな本には落書きをされる。幼馴染の勇者が作ってくれた料理にも、勝手にレモン汁を入れられる。
弱気な王様は、毎日のように夜も悩まされていた。そこで王様は、幼馴染の勇者を呼んだ。王様は勇者を尊敬しており、魔王の退治を頼もうとしたのだ。
ところが、王様が話をしている途中に突然、魔王が乱入してきた。まだ城を出てもいないのに、勇者はいきなり魔王と戦うことになってしまった。
「俺がお前たちの城に来たのではない。お前たちが俺の城にいるのだ。なぜなら、お前たちの城はもう、俺の城の一部だからだ」
魔王は今の状況を、嬉しそうに語る。実は、王様の城は魔王城の一部として取り込まれていたのだ。
「私の城を勝手に改造しおって、許さん!」
怒った王様は、自分の宝箱から、アダマンタイトの鎧と兜、聖剣エクスカリバーを勇者に渡した。
ところが、これらの装備も、魔王一味の手によって改造されていた。それらを着てしまった勇者は闇の勇者に変貌してしまう。闇に堕ちた彼は、王様に襲いかかった。
「……勇者まで、こんな目に遭わされるなんて」
勇者から逃げる以外、弱気な王様にできたことは、勇者を操る魔王に憤るだけだった。
普段は忠実な城の兵士たちも、この時は魔王の凶悪な魔力を恐れたのか、魔王側に寝返って王様を攻撃した。
兵士たちも裏切った今、王様は自分だけが知っている隠し部屋へ避難した。しかしその隠し部屋もまた、魔王城の部屋の一部として改造されていた。
王様は読書家なので、隠し部屋にも秘密の本を何冊も置いていた。しかし今、その隠し部屋には、狂った科学者の格好をした魔物がいた。魔物は部屋の家具や内装を改造するだけでなく、なんと、王様の大事な本の中身も勝手に書き換えていた。
「私の大事な本に、何をする!」
自分の本を汚されて王様は激怒し、全力で魔物から本を取り上げた。すでに時遅く、青い表紙のその本は、全てのページが真っ黒く塗り潰されていた。
ただ一文だけ、「世界のすべてを支配できても、人の心は支配できない」の箇所だけはまだ何とか読めなくない程度に残っていた。
唯一残っていたその言葉から王様は勇気をもらい、魔物に毅然と立ち向かった。しかし魔物は逆上し、王様が逆らわぬように彼の肉体も無理矢理改造した。
その科学者らしき魔物は、魔王の幹部の一人。宝箱にあったアダマンタイトの装備一式を改造し、城の兵士たちを操り、王様の城を魔王城に取り込んだ実行犯だった。
改造で自身も魔物になった王様はすっかり凶暴化した。大事なはずの青い表紙の本を食い破り、丸呑みしてしまった。
彼は今や弱気な王様ではなく、凶暴な魔物に変わり果ててしまった。
しばらくして、闇の勇者に捕獲された王様は、魔王のいる部屋へ連れて行かれた。凶暴な魔物になった王様は、魔王の目には可愛い愛玩動物に映った。王様が可愛くて仕方がなくなり、魔王は王様に豪華な食事を与える。王様の城の食糧庫から奪った食材を勇者が調理し、運んできて、王様はその料理にかぶりついた。
闇の勇者が作った料理を食べて、王様は一瞬、勇者の味を思い出した。思わず食事が止まるが、すぐに食事を再開する。それから王様は獣の食欲で、豪華な食事をあっという間にほとんどすべて食い尽くした。
最後の一口を食べようとしたが、突然、王様は喉がつかえたようにまた食事を止めた。王様の心の奥底で、とある言葉が白い光を放つように引っかかっているようだ。一向に食べる様子がなく、魔王は苛立ちを募らせる。
「急にどうした。なぜ最後の一口を食わないのだ!」
魔王は怒鳴り散らし、王様の大きな体を蹴り飛ばした。この魔王の行いが引き金となり、王様の心に引っかかる光は大爆発を起こした。
「痛い……心が、痛いよ」
本来の心を取り戻した王様は、魔物の体で魔王に襲いかかった。魔王が襲われるのを見て、闇の勇者は王様を阻止しようとする。しかし王様は勇者の剣を奪い、装備も破壊した。そして突然、王様は魔物としてのその体に勇者を抱き寄せる。
鎧を外した普段の姿で抱きしめられ、勇者は小さい頃の王様との記憶を思い出す。小さい頃の勇者と王様は、本物の兄弟のようにいつも抱き合っていた。
子供時代から昨日までの日々を思い出し、勇者も本来の心を取り戻した。
「たとえこの世界のすべての場所を支配できても、人の心を支配することはできない」
あの青い本に書かれていた言葉を王様が語ると、勇者の心にもその言葉の力が灯る。
「お前たち、駆け出しの装備で俺に逆らう気か?」
魔王は勇者と王様を嘲笑った。それでも二人は怯むことなく、勇敢に立ち向かう。
「お前なんかに、人の心を支配することはできない!」
二人の叫びが同時に響く。闇に汚染されていた勇者の装備が、本来の光り輝く姿に浄化された。
改めて、勇者はその装備を着て、黄金に輝く聖剣を手に持つ。勇者はその聖剣を振るい、魔王の体を一刀両断したのだった。
魔王を倒し、幹部がかけた呪いもすべて解け、城も兵士も元通りに戻った。
いたずらをする魔王はいなくなり、王様と勇者はいつまでも幸せに暮らした。
おわり
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