地獄色の鏡水晶
その世界で最も希少な宝石の一つ"鏡水晶"を産出する採掘場が、地底の奥深くにある。
そこで働く労働者たちは鏡のような結晶に映るそれぞれの顔と睨み合う。"笑顔"という、彼らにとって鏡水晶よりも遥かに珍しいものを探しているのだ。しかし、どこをすみずみまで探しても、笑顔はまったく見つからない。
今日も笑顔が見つからないじゃないか。鏡水晶を見ても、その結晶には疲れと怒りが溜まった人間の顔、彼らが激しく言い争う様子が映るだけ。採掘場の鏡水晶は地獄の色に輝くが、それはあくまでも現実の人間の姿をそのまま反射しているにすぎない。
この採掘場に来てから、労働者たちは、心からの本物の笑顔を見たことがない。本物の優しさがどんな形をしているかも知らない。普段採取する鏡水晶にも、笑顔は映らず、優しさの形も見えない。鏡水晶を見ても、地獄の色に輝く結晶に、鬼のような怒り顔が映るだけ。
人間の本物の笑顔と優しさがどんなものか。鏡水晶も教えてくれないので、労働者たちは貧民が死に物狂いで金を拝むように、本物の笑顔と優しさをひたすら探し回り、今でも地獄色の鏡水晶の採掘場を彷徨いつづけている。
おわり
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