『佐取優助』





 家から駅までバスに乗り20分。

 さらに自宅の最寄り駅からお兄ちゃんの通う大学近くの駅まで電車を乗り継いでもう30分。

 1時間くらいかけてようやくたどり着いたお兄ちゃんが通う大学は、私が想像していたよりもずっと広大な敷地を有していて、建物も高校よりも一回り以上大きかった。


 休みの日なのに、私服で出入りする学生達と、そんな学生達が通る度に挨拶する守衛らしき人が大学の門を守っている光景はこれまで見たことも無い光景で、思わず自分が別の世界に来たのではないかと興奮してしまう。



「おお……! 大学って、こんなんなんだ……」



 大学の敷地に入る為には門を潜らなければならないし、私も守衛らしき人の横を通らなければならない。

 関係者ではない私が通れるのかと、今更不安になってきた……というか、門に立つ守衛は門衛と言うんだっけ?

 馴染みが無さ過ぎて、そこら辺はよく分からない。


 きょろきょろと周囲を物珍し気に見ていたのが目立ったのだろう。

 門衛のおじさんが不審そうな、いや、あの子どうしたんだろうという心配するような視線を向けてきている。


 大学の中に入るには、門衛の人に中にいる家族に会いに来たとでも言えばいいんだろうか?


 あの大学の敷地内に入る必要があると考えると、何だか非常にワクワクしてきた。

 大学近くの寮に住んでいるお兄ちゃんは基本的に大学の研究室に篭りきりのようだし、今日も夕方頃までは大学内にいる筈とお父さんが言っていたし、会ってお金を渡すにはなんとか中に入るしかない。

 目の前にある大きな建物の中を歩き回る自分をちょっと妄想しながら、お兄ちゃんの名前を出せば入れるだろうか、なんて考えて、門衛の人に近付いていく。



「あの、すいません。大学に在籍する兄への届け物の為に来たんですけど、どうやって入れば……」

「ああ、お兄さんへの届け物ね! 君みたいな小さな子が周りを見渡していたからびっくりしちゃったよ。えっと、ちょっと待ってね。お兄さんの名前を教えてもらえるかな?」

「……小さい子……あ、えっと、兄は佐取優助って言います。大学二年生の理学部生物学科を専攻していると思うんですけど」

「あー……」



 少しだけ目を見開いた門衛が、通信機を使って何か確認を取りながら、困ったように頭を掻いた。



「あの人ね。最近よくあの人にお客さんが来るなぁ……」

「……お客さん?」

「んー……駄目だ、やっぱり拒否されてるね。佐取優助さんへの用事では入門は出来ないみたいだ」

「え……か、家族なんですけど……」

「申し訳ないんだけどねぇ。今ウチの大学結構ピリピリしてて……何か家族だと証明できるものがあれば別だけど、そんなの持ってないだろう?」

「家族の証明……?」



 そんな、「どの程度の付き合いからが友達か」みたいな、悪魔の様な質問が飛んでくるとは思わなかった。


 ワクワクしていた気分が急速にしぼんでいく。

 私の態度を見て証明できるようなものが無いのが分かったのだろう、門衛のおじさんは、ごめんね、と申し訳なさそうに言ってくるからもう諦めるしかない。


 やっとたどり着いた大学を前にして、私はそっとその場を後にした。



(……もう今日は帰ろっかな。でも、浪費癖は無かったと思うけど、お兄ちゃんお金カツカツだったらどうしよう……)



 大学を何度も振り返りながら、頭を悩ませる。

 お兄ちゃんに電話して迎えに来てもらうか、外でお兄ちゃんが出てくるまで待つか、それとも今日はもう諦めるか。

 気は進まないが、取り敢えず携帯電話でお兄ちゃんへ電話する。



「……出ない。お兄ちゃん、夢中になってると周りのこと無視する癖あるから……」



 予想通りの結果に思わず溜息を吐いた私が、仕方ないから駅方向に戻ろうと決めた時、私が大学の門衛の人に話しかけてからずっと私の様子を窺っていた人達が動いた。


 彼らの内の一人が、私に向かって近付いて来るのを察知する。



「済まない、少しいいかな?」

「……」



 どこかで似たようなシチュエーションがあったなと思いながら、声を掛けて来た男性を見る。

 スーツ姿の男性は、柔和な笑みを浮かべながら私に穏やかな口調で話しかけてくる。



「大学内に入りたいんだろう? 実は困ってる君が見えてね、声を掛けなければと思ったんだ。あそこの門衛は特に頭が固い。そこで、実は私達もあの中に用があって、これから大学に入ろうと思ってるんだよ。どうだろう、ついでだし、良かったら一緒に入らないかな?」

「……貴方は?」

「ああ済まない! 桂(かつら)って言うんだ、教職に就いてる者だ」



 中年と呼ぶには少し若い男性。

 スーツ姿にワックスで髪を固めていて、一見すると教職についている者にも見えなくもない。

 桂、と言う男性は自分が不審がられるというのは分かっていたようで、すぐさま胸ポケットから自分の身分が書かれた名刺を取り出して、私に差し出してきた。

 渡された名刺には、確かにどこかの学校の教職をしていると書かれている。


 思わず気を許したくなるような柔らかな笑顔を浮かべている桂と言う男性は、自分の後ろで私達の推移を見守る者達に一瞥もすることなく、身分が証明され安心したであろう私に手を差し伸べた。



「あの大学内、何度も行ったことがあって詳しいからね、良かったら中の案内もするよ。どうだい?」

「……ご厚意ありがとうございます。ただ、すいません。家族が中にいるので、後で連絡して迎えに来てもらいますので遠慮させてください」

「おや……」



 想定外だと言わんばかりに目を丸くした男は、掴まれなかった自分の手を手持ち無沙汰に引っ込める。

 不思議そうな顔で、「本当に良いのかい」と最後の確認だけして、しつこさを感じさせることなく引き下がった。

 何も事情を知らなければ、これで警戒しろと言う方が無理があるだろう。


 ……明らかに、こういうことに慣れている以外は、だが。


 私の肯定を確認して一瞬だけ残念そうな表情をした桂は、上手く作った笑顔と言う仮面をもう一度顔に張り付けて、「それじゃあ」と言って私に質問を投げかけて来た。



「これも縁だと思ってさ、最後に、君の名前も教えてくれるかな?」

「――――山田沙耶(やまだ さや)です。せっかくお気遣いいただいたのにお断りしてすいません桂さん」

「いいや、ご家族の方が迎えに来られるならそれに越したことは無いよ。会って間もない男を信用しないって言うのは、賢い選択だと思うからね」



 「またね山田さん」、そう言った男が、後ろで待つ仲間達とは別の方向へ歩き出したのを確認しながら、私もその場を後にする。

 困惑した様子を見せる男の仲間達の他に、この大学の周囲に配置された同じ思考を持つ者達の数を、私は異能を使って数え上げていく。


 その数、およそ30人。



 分かっていた。

 桂と言う教職を騙った男性が、反社会的勢力に属している事も。

 この大学の周囲を取り囲むように配置し、出入する人達の様子と人相を窺っている事も。

 彼らの目的が、佐取優助と言う、私の兄である事も。

 上手く取り繕った男性の仮面など私には何の意味もないから、全部分かっていた。


 私と言う見た目が幼い一般人なら、人質としての価値が高いだろうかと見積もっていたことくらい、歩み寄って来た段階で見通していた。


 危険な思考、危険な手段。

 そんな彼らがリスクを冒してでも手に入れたいと思う何かが、今お兄ちゃんを取り巻いている。



(お兄ちゃん……無事だよねこれ……?)



 私は軽く異能を行使してから、予定を変更して、駅に向かうつもりだった足をお兄ちゃんが借りているマンションへと向けた。





 ‐1‐





 『発見されていない人間の機能について』。

 その論文が世に出たのはもう半年以上も前の事である。


 有名大学に在籍する一人の学生が発表した、あまりに非科学的な研究論文は日本の多くの専門家に一笑に付され、当時は多くの者に見向きもされなかったが、半年の時が過ぎた今になって、注目を集める事態を迎えていた。


 その大きな要因となったのは、ICPOによる公式声明。

『科学では証明できない事象』、『非科学的な現象』、色々な呼び名があるが、超常的な現象を認め、その事例として最近世界を混乱の境地に陥れた「全世界同時発生のテロ活動」を名指ししたことにより、それまでの空気が一変したのだ。


 勿論、あり得ないと声を荒げる者もいるし、これまで培ってきた科学への冒涜だと怒りを露わにする者もいる。

 酷いところでは、国家として受け入れられないと声明を出すところもあるのだから、ICPOへの風当たりの強さが窺えるだろう。

 だがそれでも、ICPOとあらかじめ情報共有をしていたいくつかの国々は、「異能」と言う超常的な力の存在を受け入れ、情報収集及び情報提供に協力すると表明したのだ。


 あり得る筈がない。

 これまで培ってきた常識からは到底考えられない、非現実的な新たな常識。

 そんな国際情勢の動きに、これまで一考の余地すらないと考えていた、とある学生が発表した論文が、日本の専門家達のみならず、国内外の『非科学的な現象』に興味を持つ者達から注目を集める事となった。


 もしかするとアレは。

 内容があまりに突飛で、今だって信じ難いが。

 人が持つ発見されていない機能、これまで人類史の転換期に関わって来た大いなる力。

 『異能』と言う、超常能力を有する人間がこの世に存在する可能性を示唆したその論文は、正しいのではないか。


 ――――そう考え始めた者が、少なからずいたのだ。


 だから、その論文を発表した学生は苛立ちを露わにする。



「何度も言いますが、俺は別に確証があってあの論文を発表したわけじゃない。疑問や発想を発展させ論文とすることに何の問題があるんですか。これまで馬鹿にされこそすれ、話を聞かせて欲しいなんて人も、研究に協力したいって人も、一人だっていなかった。でもそれを不満になんて思っていなかった。はっきり言いますが、今のこの状況は迷惑なんです。どんな意図があったにせよ、ICPOが妙な声明を出したからここ最近は連日研究の暇もなくお客さんが押し寄せてくる――――貴方達のようなね」



 苛立ちを隠す事無く、怜悧な目を眼鏡越しに向ける白衣を着た長身の男性、佐取優助はそう吐き捨てた。


 怒りを向けられた先にいるスーツ姿の男性警察官は、到底歓迎されていない彼の強硬な態度に顔を引き攣らせ、頷く。



「い、いやあ、おっしゃる通り、耳が痛い話です……しかし、私達警察としても、対応せざる得ない状況だというのを理解してほしいんです。……ご協力いただけませんか、佐取優助さん」

「だから、俺に何かを協力できるとは思えないと言っているんです。今日で何日目ですか貴方達が来るの。あまりにしつこい……そろそろ俺も普通の研究に戻りたいんです。大体俺はただの学生の身です。協力を要請するなら教授などにお願いすればいいでしょう」

「……せ、先輩」

「ふぅ……彼の言ってることは正しいよ伏木。いったん下がろうか、悪い、邪魔したな優助さん」



 ほとほと困ったように神楽坂へ振り返った元教え子の様子に、付き添いをすることとなった神楽坂はこれ以上要請を続けるのを中止させる。

 どう見ても彼は自分達に良い感情を持っていないし、これ以上の要請は逆効果だと分かっていたからだ。


 肩を落とした伏木に帰る準備をしろと伝え、神楽坂はそっと優助の様子を窺う。


 鋭く怜悧な目にすっと伸びる鼻筋。

 目にかかるほど伸ばされた髪も、端正な彼の容姿を隠すことは出来ていない。

 クールな態度と風貌は、どこにいても女性人気が出るだろうなと思わせるが、同時に気難しそうな彼の性格は容易に誰かに気を許すこともないだろう事も確信させる。


 そして、神楽坂がよく知る少女とどこか似た面影を持つ彼の姿は、血縁関係を想像させるには充分すぎた。



「あの……さっきから人の顔を見て何ですか? それに貴方はここ数日、話を全部そちらの人に任せきりでしたが……何か俺に言いたい事でも?」

「ああ、失礼した。知り合いに少し似ていたものでな」



 神楽坂の視線に気が付いた優助が、訝し気な表情を浮かべる。

 ここで直接、燐香との血縁関係を聞くことも出来たが、神楽坂と燐香の関係は秘密にすると話し合っているので、そんなことをする訳にもいかない。

 完全に嘘ではない返答で答えを濁し、未だに警戒したように神楽坂を見る優助の様子に、帰りの準備をしている伏木の姿も後ろ目に捉えてから、少しだけ話をする。



「優助さんにとってはとんだ迷惑かもしれないが、俺達は別に君を傷付けたり、強制しようという意思はない。むしろそういう者から守るためにここに来ているというべきか……」

「……なにを?」

「君が望まなくとも、君は渦中に巻き込まれる。そういう事は得てして人生で起こりうるものだ。今の世界の情勢と日本政府の動きの遅さ、日本国内の力を付けたい新興組織にとって、この一件は、動き出すには絶好の機会なんだ。本当は君も分かっているんだろう、今自分がどれだけ危険な状態にあるのか」

「…………」



 これまで頑として迷いも見せなかった優助の視線が少しだけ揺れた。

 だが、それも一瞬で、再び不機嫌そうに眼鏡を押し上げた彼は、神楽坂を侮蔑するように見た。



「そういう手ですか。窮地にあることを自覚しろ、守ってほしかったら協力しろ。とんだ警察官がいたものですね。知らないものは知らない。貴方方を手伝えることは無い。俺が言えるのはこれだけで変わることは無いんです、早々にお引き取りを」

「まったく……随分意固地な人だ。君の知らないと俺達の知らないは同義でないだろうに。君には些細なことでも、俺達からすると喉から手が出るほど欲しい情報の可能性だってあるだろう」

「俺は天才じゃない、そんなことはずっと昔に思い知らされましたから。不用意に自分を誇示しようなんて思えませんよ」



 怒りに任せたようにも、自虐するかのようにも見えた優助の言葉に、神楽坂は少しだけ想像がついた彼の過去に若干同情する。

 あの少女が幼少期比較対象にいたなら、きっと今の彼は多くのコンプレックスを抱えているだろうから。



「では、一つだけ聞かせてくれ。君個人の見解として、『非科学的な現象』……いや、『非科学的な力を持つ人間』は存在すると思うか?」

「――――…………論文を知っているなら分かると思いますが、俺はいると思ってます。きっとそういう存在こそが、本当の天才なんだろうとも思っている」

「そうか……邪魔したな。話を聞いてくれてありがとう、悪いがまた来ることになる」

「……」



 黙ってしまった優助の様子に、燐香から妹の話はよく出るのに、兄の話はほとんど聞いたことないのを思い出し、兄妹仲は良くないのだろうと納得した。


 燐香は言わずもがな、優助もこんな有名大学で学生の身で論文を発表するほどに優秀なのだ。


 優秀なもの同士が血を分けた兄妹となると、きっと色々な衝突もあったのだろうと神楽坂は思った。



(……余計なお世話かもしれないが、今度あの子に会った時、話を聞いてみようか。兄妹仲が良くなるなら、それに越したことは無いものな……)



 荷物をまとめた伏木が、神楽坂の元へ戻ってくる。



「すいませんっ! お待たせしました先輩!」

「ああ、じゃあ一度署に戻ろう。報告しなきゃならないことがいくつかある」

「はい! 佐取さん、それではこれで俺達は失礼します」

「……」



 それだけ言い残して、神楽坂達は帰っていく。

 去っていく神楽坂達の背中を見送った優助は、研究室の扉が閉まるのを見届けた。

 連日続いていた面会を求める人達の来訪は、思った以上に学生の身である優助の負担になっていたようで、思わず彼らに感情的になってしまった部分があったと、今更になって彼は後悔する。


 そして、疲れたように溜息を吐いた優助は、説明のために広げていた資料を片しながら、置きっぱなしにしていた携帯電話に、妹から着信とメールが届いていた事に気が付いた。

 随分前、あの警察官達が来る前からだろうか。


 優助の表情が凍る。



「……燐香が俺に? ……何の用だ?」



 思わず優助は困惑しながら携帯に写ったその表示を凝視する。

 この世の誰よりも恐ろしく、彼が今なお自分を優秀だと思えないきっかけを作った人物からの連絡通知。

 あの冷酷で、他人を見下す恐ろしい雰囲気を纏っていて、それでいて全てを凌駕する才覚を持った五歳年下の妹。


 通知を見ただけで恐怖を感じてしまうのは、ある種仕方がない事だろう。


 本物の怪物、本物の天才。

 有名大学まで進学し、海外への留学も経験し、年の離れた様々な研究者や重要な役職を持つ者達に会ってきてなお、本気で勝てないと思った相手はあの妹を除いて終ぞ現れなかった。

 誰よりも恐ろしいあの妹が、今更になって自分に接触してこようとしている事に、どんな厄介な組織に属するお客さんが現れた時よりも、背筋が凍った。



(なんだ……一体、俺に何を言うつもりだ? ……最後のあの怒りを、今度はちゃんと俺に向けるために? い、いや、それにしては、年数が経ちすぎじゃっ……ほとぼりが冷めるのを待っていたのか!? 燐香から獲物にメッセージを飛ばしたということは、もう俺はあいつに命を握られてるんじゃっ!? じょ、状況は――――)



 顔を引き攣らせ、届いたメールを震える指でなんとか開いた優助の目に、彼女からのメッセージが飛び込んでくる。


 その内容は、優助の想像を超えていた。



『受信時間:6月16日12時45分

 送信者:燐香

 表題:お兄ちゃん、早く帰ってきて

 本文:大学入れなかった。変な人達に絡まれた。届け物があるから今お兄ちゃんが住んでる部屋の前で待ってるんだけど、鍵が無くて入れない。お腹空いた、早く帰ってきて』


「――――???」



 首を傾げた優助は、携帯電話の読み込みがおかしくなったのかと、素早く再起動した。

 そして、もう一度妹からのメールを見るが、そのおかしな内容は変わらない。



「……なんだ、どういうことだ? 何かしらの暗号があるのか? 縦読み……斜め……、字抜き……暗喩……????? いや、まて、別の受け取り方をするには……この表題に何かしら意味が持たせられていた場合……それとも時間か? お腹空いた、をどう変換するべきだ……?」



 いくら考えても、この書かれている内容以上のことが見えてこない。

 いや、そもそもあの自分では及びもつかない天才である妹の真意を汲み取ろうとすることすら間違っているのかもしれない。

 だが、妹がこうして通知を入れて来たことには何かしら意味がある筈だ。

 どうにかしてメッセージを読み取らなければ、苦しい状況に追い込まれるのは自分だ。

 そう思い、何とか解読を諦めずに続けていく。


 しかし、いくら考えても妹からのメッセージの真意は読み取れなかった。

 すっかり困り果て始めた優助は、取り敢えずこのメッセージ通り早めに帰るかと時計に視線をやると、時計は『17時12分』を表示している。

 このメールがそのままの意味だった場合、4時間以上妹は待ち惚けを喰らっている事になる訳だが……。


 あり得ない話だが、少しだけ不安を覚える。



(……いや、あの燐香に限ってそんな。多分アイツなら、10分待たされた時点で、相手が泣くまで許さないだろうし……流石に、家に帰ってるだろ)



 そんな風に考えながら、優助はバタバタと帰宅の準備を始めた。





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