2013年12月1週

「ねー、ちーちゃん」

「んー?」

「ちーちゃんってなんでタバコ吸ってるの?」

「ん-、だってカッコいいじゃん。」

「かっこいい?」

「そ、例えば刑事ドラマで事件解決した後にダンディなおじさんがタバコ吸ってるシーンってなんか良くない?」

「それは、ダンディなおじさんが良いだけなんじゃないの?」

「確かにダンディなのも理由にはあるけどさ。そうじゃなくって。タバコ吸ってると一仕事終えたーって感じが出るじゃん。それが良いのよ。」

「まあ、確かに?」

「それだけ。」

「え、それだけなの!?」

「そうだよ?」

「なんかもっといろんな理由があるのかと思ってた。」

「タバコ吸う人なんてみんな大した理由ないでしょ。大体カッコいいからだと思うよ。知らんけど。」

「じゃあいつから吸い始めたの?」

「先月?頭くらい?一か月くらいたったかな?」

「えー!結構経ってるじゃん!気づかなかった。」

「そりゃ一応隠してたからねー。別に気づかれてもいいんだけど、目の前で吸われるのは嫌じゃん?と思って。」

「それはまあ嬉しいけど、隠し事されてたのはちょっと複雑……」

「彼女かよ!」


申し訳ないっていうか、ちょっとだけ恥ずかしかったのもあるしねー。

不良でもないし、不良の男子と付き合って影響されたわけでもないし。

そこそこ真面目系な女子がいまどきタバコってのもちょっと合わないし……。


「でさ、話ついでなんだけど。」

「なに?」

「うちって両親がともに喫煙者なの。もう、昔から副流煙バンバンだったの!」

「え!ちーちゃんのお母さん吸ってるんだ。意外。」

「あー。…………。言わないでねー?お母さんタバコ恥ずかしがってるから。」

「えー、どうしよっかなー。ちーちゃん次第かなー。あ、今度駅ビルのパンケーキ食べに行こうねー。」

「あー。うー。……。よし。分かった、それで手を打つ。だから黙っててね!」

「うん!楽しみにしてるねっ!」

「もうそれはいいや。……本題なんだけどね。副流煙まみれのわたしなら普通に吸えると思ってたの!で、いざ吸ったらメチャクチャ咳込んだの!もうすごかったの!頭はガンガンするし、気持ち悪いし、マジで最悪!」

「え、タバコヤバ!じゃあ、何で吸ってるの。」

「そりゃ、カッコいいからじゃん!めっちゃ練習したよ、毎日毎日タバコ吸って。」

「うわ、めっちゃ依存してるじゃん!」

「そうなのー、依存なの。これが依存かーって思った。」

「え、ちょっとそれヤバヤバじゃん!ちーちゃん、肺がんで死んじゃうよ!」

「別にすぐには死なないよ。ただ今もさ、ちょっと口が物寂しいというか。タバコ吸いたくなってきちゃうよね。」

「あー、ちーちゃんがいつの間にか結構悪い子になってる……」

「悪い子って……」

「……。わかった!わかりました!あやちはわかりました!」

「なにをわかったの?」

「ちーちゃんは口が寂しくてタバコを吸っちゃうんだよね?」

「まあ、そうだね。」

「じゃあ、口が寂しくなった時はあやちとチューすればいいと思います!これでちーちゃんの健康と財布は守られるよ!」


またあやちが頭の悪いこと言ってる……。

あやちはよく天然とか言われてるけど、わたしとしたらそれは違う。

思考をかみ砕く前に適当に口に出しちゃってるだけ。

しかも無駄に自信を持って。


「あのねあやち、一回冷静に考えてみて?恥ずかしくないの?」

「恥ずかしくはあるけど、でもちーちゃんの健康のためだから!あやち頑張る!だから任せて!」

「はあ。……。ん?……。ねえあやち?」

「どうしたの?」

「あやちのチューは、タバコの代わりになるんだよね?」

「?分かんないけど、口の寂しさは紛らわせれると思うよ?」

「じゃああやちのチューお願いしよっかなー」


向かい合ってた炬燵からモソモソと這い出て、あやちの隣に並んで向かい合う。

たまにはこうやってからかって痛い目見てもらわないと、あやちも成長しないからね。


「あやち、じゃあちゅーするね。わたしのタバコ治してね。」

「ぅ、うん。任せて……」


めちゃくちゃ緊張してるじゃん!

全然目閉じないし!

てかやば、めっちゃ真剣な目で見られてる!

目合ってる!

ドッキリでしたで済ます予定だったのに。

めっちゃ待ってるんですけど。

わたしもメチャクチャ恥ずかしいんですけど。

目瞑っていいかな。

目合わせたまんまキスできないよわたし。


「チュッ」

「っんんーーっ!!」

「んっ。…………。ふう。よしっ!これで、ちーちゃんのタバコはなくても良くなったよね?」

「…………。」

「あれ、ちーちゃん?おーい?大丈夫?」

「ねえあやち?」

「おー、ちーちゃん生きてた。全然返事ないから死んじゃったかt……」

「タバコって一本吸うのに五分くらいかかるからさ、今のじゃ全然足りないんだけど。」

「えー!ちょ、ちょっと待って!ちーちゃん!あやち、本当はチューしてなくてミカンを当てただけで。」

「ええいしらんしらん!もう取り返しはつかないところまで来てしまったのよ!さあ観念してわたしにもっとチューしなさい!」

「あーん、待って!待って!ちーちゃん待ってー!」

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