第200話 不死夜叉丸攻略戦2×技の一号、力の二号

祝・200話!

こうやって続けられているのも読んでくれる人がいるおかげです。



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▼セオリー


 不死夜叉丸とのファーストコンタクトは事前に考えていた策が上手くハマり、左腕一本を奪い取ることに成功した。


「これで片腕使用不能か。やっぱり当たれば強力だな」


「当たればな!」


 ハイトの軽口に返答しつつ、距離を置いた不死夜叉丸を観察する。ハイトが言うように『仮死縫い』は当たりさえすれば強力だ。しかし、当てるまでが難しい。……というふうに思われがちである。だけど実際には当てた後も気を抜けない。

 視線の先、不死夜叉丸が片膝をつき、祈りを捧げるようなモーションを取った。すると、緑色の光が不死夜叉丸の周囲に蠢き出す。


「さあ、回復行動がきたぞ。無駄口を叩いてる暇はない」


 タイドが号令をかけたと同時に前衛組と妨害組、計六名のプレイヤーが一斉に距離を詰めようと駆け出した。だが、その間にも緑色の光が不死夜叉丸の左腕を包んでいく。そう、緑色の光の正体は自身の受けたダメージを回復するオーラなのである。この回復を許すと『仮死縫い』で与えた仮死状態が解除されてしまう。


 あわや回復されてしまうかと思いきや、誰よりも早く動き出していたライギュウが素早く肉薄し、不死夜叉丸の顔面へと拳を振るった。さすがの剛腕にたまらず不死夜叉丸は回復行動を中断し、回避行動へと移る。ライギュウの拳をギリギリで見極め、たった一歩後退するだけで回避してしまう。


「チィッ、ひらひらと避けやがって」


 憤慨の声を上げるライギュウだが、単発の攻撃ではそうそう当たらないというのは想定の範囲内だ。だからこそ、俺たちは一斉に全員で距離を詰めたのだから。

 ライギュウが剛腕を振るうのに続いて、今度はタイドが不死夜叉丸との距離を詰めていた。忍術を唱え、不死夜叉丸の右足へ手を触れる。


「いいや、ライギュウ、上出来だ。『監獄術・鉄鎖鉄球ボール&チェイン』」


 タイドの手が触れた瞬間、不死夜叉丸は驚異的な反射神経ですぐさま後方へ跳躍した。しかし、跳躍の最中にがくっと片側に身体が傾くかのように体勢を崩す。何が起きたのか不思議に思ったのか、不死夜叉丸の視線が右足へ向けられる。その足首にはいつの間にか鉄枷が嵌められており、鎖によって鉄球と繋げられていた。その重みで体勢を崩したのである。


「俊敏は低下させた。後衛組、対象変更だ」


「了解! 『結縁術・月下氷人』」

「オーケイ、『付加術・威力加算アドパワー』」


 忍術を成功させたタイドは振り返り、即座にアマミとコタローへ次なる指令を出す。ゲンとハイトを繋いでいた赤い糸がほどけたかと思うと、今度は新たにライギュウとタイドが赤い糸で繋げられる。


「一気に畳みかけるぞ」


「言われなくてもそのつもりだぁ!」


 タイドが腕を振るうと手に握った伸縮式の特殊警棒が瞬時に展開された。そして、ライギュウとタイドの二人が同時に追撃を仕掛ける。

 タイドの警棒とライギュウの拳、間合いの異なる波状攻撃は対応の手を狂わせる。動きの精彩さを欠いた不死夜叉丸は二人の猛攻に掴まり、防戦一方となっていた。不死夜叉丸に掛けられたデバフの影響もあるが、タイドとライギュウの動きが変わったのも大きい。


 このゲームにおいて、攻撃の威力を上げる方法にはいくつか種類がある。その中で一番分かりやすいのは筋力のステータスを上げること。筋力はダメージを算出する際、ベースとなる数値に含まれるからだ。それに加えて武器を使用していれば、それの基本攻撃力が加算される。

 しかし、他のステータスが火力に寄与しないかというとそんなことはない。俊敏のステータスが高ければ速度分だけ火力が上乗せされるし、隠密のステータスが高ければ奇襲判定により火力が倍増されたりもする。


 そんな中、技量というのも火力を出す上で非常に重要なステータスとなってくる。技量ステータスは様々な部分で作用している。例えば忍術の発動速度を上げたり、身体の動かし方が上手くなったりなどの効果だ。この効果がどう作用するのかというと、攻撃時のクリティカル発生率に関係する。

 クリティカル攻撃は確率で発生するのではなく、正しく対象の急所を突けたかで判定される。そして、技量が高くなると身体の動かし方が上手くなり、結果として急所を突きやすくなるのだ。

 ちなみに技量はその他にも敵の攻撃を回避するのにも補正が掛かる。そのため、カウンターで攻撃をする場合、技量ステータスを上げるのが良いとされているらしい。



 さて、今回『月下氷人』で繋がれたタイドとライギュウの二人は火力を上げるアプローチの掛け方が正反対だ。

 片やタイドは技量型。固有忍術である『監獄術』を使って相手の動きに制限を掛け、急所を狙って攻撃することで火力を稼ぐタイプだ。

 もう片方のライギュウは分かりやすい筋力型。ひたすらに筋力を上げた結果、力こそパワーを体現するほどの火力を有し、通常攻撃一つとっても必殺となる。


 では、そんな正反対の二人が『月下氷人』で繋がれたらどうなるか。答えはすぐに分かった。




「ライギュウ、そちらへ行ったぞ」


「んなこたぁ、百も承知よ。『雷神術・壊雷拳』」


 回避と防御に専念していた不死夜叉丸にとうとうライギュウの拳がクリーンヒットした。タイドの攻撃を回避し、続くライギュウの拳は刀で切り結ぼうとしたようだったが、技量がタイドのステータスに合わせて大きく上昇したライギュウには通じなかった。横振りされた刀の下をかいくぐるようにして低い体勢からアッパーカットが繰り出されたのだ。


 弾けたように吹き飛んでいく不死夜叉丸。そこへ追撃を仕掛けるためにタイドが並走した。そして、空中で腹部に特殊警棒の一撃を叩き込む。途端に身体をくの字に曲げた不死夜叉丸は地面へと叩きつけられ、地面にヒビが入った。


 明らかに一方的な戦いとなっていた。ライギュウの筋力を得たタイドと、タイドの技量を得たライギュウという二人の化け物が誕生した瞬間だった。

 その後は戦列に俺とハイトとルペルも加わり、妨害の層を厚くして盤石の状況を作り出していく。反撃の出鼻を妨害で挫き、タイドかライギュウが手痛い攻撃を叩き込む。理想的なハメパターンが構築されつつあった。


 さすがの火力にユニークモンスターのボスといえどもかなり体力を削られているのが見て取れる。そして、ようやく残り体力が三分の一ほどというところまで達した。


「上手くパターン化できたとはいえ、あまりに静かすぎて不気味だな」


「おいおい、不吉な事言うなよ」


「いや、相手はユニークモンスターだ。私もハイトと同感だね。このまま終わりなんてことはないと思うよ」


 ハイトに返事する俺へ対してルペルが注意を促す。上忍と上忍頭である二人は踏んできた場数が俺よりも多い。ダンジョンボスとの戦闘経験も上だろう。そんな二人が言うとなると、まだ不死夜叉丸は奥の手を隠してるかもしれない。気を付けないといけないな。


「『六韜奥義が一・舞うは水鳥の如し』」


「チィッ、逃げやがった」


「クールタイムが終わったか。だが、これでまたしばらくは使えない」


「畳みかけろ、ってことだなぁ!」


 初手で使わせた完全回避技のクールタイムが明け、不死夜叉丸はライギュウの攻撃を回避するために再度使用した。とっておきの完全回避技を早々に切らざるを得ない状況に追い込んでいる。それこそがこちらが優勢である証拠だ。


「あぁん、あいつはどこいった?」


 ライギュウが不思議そうな声を上げる。俺もキョロキョロと前方を見渡す。ダンスホール並みに広いとはいえ、奥まで吹き抜けで見渡せる。回避技で一瞬姿が消えるけど、それで存在が消えるわけではない。しかし、突如として地上からも空中からも不死夜叉丸の姿が消え失せた。

 状況は優勢である。今まで負け続けた相手に勝ちの目が見えてきた。そんな状況がわずかばかりの慢心を生んだか。俺たちは完全回避技を使用した不死夜叉丸の行方を一瞬見失った。


「バウッ!」

「皆さん、後ろです!」


 犬の吠え声とともにアルフィが声を上げる。ハッとしたように俺は後ろを振り返った。盲点だった。俺たちがボス部屋に入ってきた時の通路、その入り口に陣取る形で不死夜叉が立っていた。戦いの最中、俺たち全員の死角へと転移したのだ。

 俺たちが不死夜叉丸を見失っていたのは一瞬だ。時間にしたって二、三秒もないだろう。しかし、その一瞬の隙で不死夜叉丸は新たな術を展開していた。


「『心象結界・在りし日の大橋よ』」


 不死夜叉丸の周囲の景色がぐにゃりと歪む。岩壁に囲まれたダンスホールのようだったボス部屋空間が、不死夜叉丸を中心にしてパタパタと折り畳まれるように上書きされていく。空には星が煌めき、柔らかな風が吹き抜ける。気付けばフィールドが大きな橋の上へと転換されていた。


「『召喚・羅刹不動僧兵』」


 続けて不死夜叉丸は地面に手を付く。すると彼の影の中から背丈三メートルを超そうかという巨漢の僧兵が現れた。手に持った薙刀を構え、不死夜叉丸を背後に庇うようにして立つ。


 やはり、奥の手を隠していた。これまで何度も挑戦していたハイトやタイドたちが周囲の変化に驚いているということは、ここまで追いつめたのは今回が初ということ。しかし、それは裏を返せば着実に不死夜叉丸を追い詰めることができているとも言える。


 いよいよ、こっからはラストスパートだ。

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