第二章 不殺の支配者と逆嶋バイオウェア

第7話 支配者と腹心と能力値

※前置き

今回の話には能力値ステータスが出てきます。

しかし、今後作中で能力値が具体的に出てくることはほぼありません。

フレーバー的なものだと思ってください。


********************



▼セオリー


「ご主人様、これからよろしくね?」


 その爆弾発言に度肝を抜かれた俺は周りに誰もいないことを確認してからエイプリルに詰め寄った。


「ご主人様ってどういうこと?!」


「私はセオリーの腹心になったんだよ。だから、ご主人様で合ってるでしょ」


「はいぃ、腹心?!」


 額に手をあてて、一呼吸つける。新たな情報が次々と投げつけられて気が動転している。こういう時は冷静になろう。


「……つまり、どういうこと?」


 やっぱり訳が分からなかったため、観念してエイプリルに答え合わせを求める。


「なんて説明したらいいのか私にも分からないんだよね。絶賛、混乱中だったのは私も同じというか」


 肩をすくませて、やれやれといったジェスチャーをするエイプリルは、再び確認するように電子巻物を呼び出すと、中に書かれている文章を読み始めた。

 なんとはなしに覗き込むと、そこに『ユニーククエスト:腹心への道』と表示されていた。


「あれ、メニュー画面が見えるようになってる」


「私のが見えるってこと?」


「そうそう」


 そこから先はお互いに電子巻物を並べ合わせて、いったいどうしてこうなったのかを擦り合わせた。

 おそらく、俺と一緒にいた間は疑似的にパーティー扱いだったエイプリルが、何かしらの条件を満たしてユニーククエストを解放した。そして、俺がログアウトしたことをきっかけに自由への道か腹心への道という選択肢を迫るユニーククエストが表示されたのだろう。

 そんな中で俺がパーティーを組むと言ったので、そのパーティーリーダーである俺の腹心になることを選んだ、というわけだ。


「なんでそんな大事なことを俺の承諾なしに決めちゃってんの!」


 つうか、俺に選択肢無いのおかしくない?

 クエストが更新された時にはすでに腹心になってるし。俺の意志関係なく『称号:支配者フィクサー』になっちゃったんですけど。


「え……、私が腹心になるの嫌だった?」


「うぐっ……、嫌とかそういうわけではないけど、そういう大事なことはゆっくり考える必要があるんじゃないかって、そう思ったからさ。もちろん、俺の腹心になってくれるっていうのは嬉しいことこの上ないんだけどね!」


 女の子にうるうるとした瞳で見つめられたら、日本男子たるものそれ以上強くは言えない。


「じゃあ、私が腹心になる問題は解決ね。そうしたら、あとはセオリーがご主人様になるのは必然じゃない?」


 あ! こいつ、今一瞬でうるうる瞳から平常運転に戻りやがった。怖いわ、NPCなのに女怖いわ!


「全然必然じゃない。 せめて、ご主人様は止めてくれ。周りの視線が痛くなる」


 もし、ここがオフライン環境ならご主人様呼びでも気にしなかったかもしれない。だが、ここはオンラインで他人と繋がっているのだ。うわ、あの人NPCにご主人様って呼ばせてる~、なんて噂された日にはしばらくログインできなくなってしまう。


「それなら何て呼べばいい?」


「とりあえず、他人に白い目で見られなければなんでもいいよ」


「分かった、考えとく」


 ご主人様問題はこれでひとまずケリをつけた。

 次の話だ。


「それで、この技能は何?」


 俺が指さす先にはエイプリルのステータス画面がある。正確にはその中の技能欄という場所だ。『知識権限レベル1』と書かれている。


「『知識権限』は私が私自身をNPCとして自覚する技能だね」


「ほうほう、NPCとして自覚。……はぁ?!」


 正直、腹心だとかご主人様だとかそんな話よりもよっぽど重大な話だった。


「つまり、今のエイプリルは自分がゲームのNPCって分かってるのか」


「そういうこと、ついでに言えばセオリーがプレイヤーなのも分かってるよ」


 エイプリルは今までこの世界を現実と思って生活していた割には自分がNPCだったという真実にあまり動揺してない様子だ。もしくは、納得できるようにAIが設定されているのかもしれない。

 なんにせよ、それなら色々と思い悩まずにゲーム的な視点で話もできる。ログアウトするときに言い訳とか考える手間も省けるのは良い。ゲームのキャラ相手にもついつい気を使ってしまうので、そういう負担が無くなる点で良い技能だ。


「そしたら、なんというか。これからよろしくお願いします?」


「うん、よろしくね」


 向き合い、改まった様子で握手する。

 なんだかこそばゆい感覚に苛まれつつ、再びステータス画面を見合わせながら歩を進めた。






「というわけで、晴れて俺たちは下忍スタートなわけだ」


「ランクが抜け忍にならなくて良かったね」


「あー、それは確かにそうだな」


 無事、チュートリアルを終え、色々と確認も済ませた俺とエイプリルはやっと腰を落ち着けてステータスを見た。そして、下忍のレベル1となっていることを確認した。チュートリアルの前、影子・ファーストと呼ばれる運営NPCの説明によれば、これで能力値なども決定されたはずだ。ログアウトや設定ばかり確認していて大事なところを見ていなかった。

 そんなわけでこれが俺の能力値だ。


名前:セオリー

ランク:下忍

レベル:1

称号:支配者フィクサー

体力:70/100

気力:100

筋力:1

技量:16

耐久:11

俊敏:16

隠密:16

〇固有忍術:不殺術

 ・仮死縫い

●称号忍術:支配術

 ・未取得

▲負傷:右腕損失、出血(微)


 うん、明らかにおかしいところが三ヶ所あるな。

 まず、称号:支配者はやっぱりおかしいだろう。勝手に取得させられたんですけど。

 そして、称号忍術という見知らぬ単語も記載されていた。こちらはまだ取得できてないみたいだけど、字面が良くないよ。なんだよ、支配術って。これだけ見たら悪役じゃないか。


「セオリーのステータス、面白いね」


 エイプリルが横から覗き込み、ある一点を見てプククと含み笑いしてきた。

 頬をつねってその不愉快な笑みを消してやろうかー?


「ごめんごめん、でも、これは相当尖ってるって」


「それは俺も分かってるっつーの」


 俺は目をそらし続けていた自分の筋力を見た。『1』だ。何度見直してもそこには1と書いてあった。もしかしたら、筋力だけは他のステータスと違って桁が少ないのではないか。そう思ってエイプリルのステータスを見る。


名前:エイプリル

ランク:下忍

レベル:1

称号:腹心

体力:85/100

気力:100

筋力:10

技量:11

耐久:14

俊敏:14

隠密:11

〇固有忍術:瞬影術

 ・影跳び

●称号忍術:忠誠術

 ・身代わり

▲負傷:出血(微)


 エイプリルの筋力は俺の十倍だった……。

 がっくしと肩を落とす俺をエイプリルは背中をバシバシと叩きながら慰めてくれる。精神ダメージを与えた相手が慰めてくれても余計に惨めなだけだ。


「筋力1っておかしいだろう」


「なんでだろうね。でも忍者にとって筋力ってそこまで大事なものでもないし大丈夫だよ」


 いや、それでも筋力1は何かと不便が生じる気がするんだけど……。とはいえ、チュートリアルを通して決まったことだ。チュートリアル中の選択に筋力を大幅に下げる要素があったのだろう。そんなのあったかなぁ……?


 その後、ついでに確認したエイプリルの称号:腹心で得られた忍術について話し合った。エイプリルの称号忍術である『忠誠術:身代わり』は自身の定めた主人が危害を加えられた際、その結果を自分に移し替える、というものだ。

 つまり、現状の主人である俺が攻撃を食らった時にエイプリルが身代わりを使うと、俺が受けるはずだった攻撃をエイプリルが代わりに受けるというわけだ。


「絶対にその術使うなよ」


「えー、なんでよ。セオリーが危ないときはこれで守ってあげるよ」


「いや、俺は死んでも復活するから。……あ、そういえば、エイプリルは復活できるのか?」


 ユニークNPCになったことでプレイヤーと同じようにセーフポイントで復活できるようになっていれば、最悪の場合は身代わりを使われることも許容できる。


「うーん、どうなんだろう。知識権限にはそういう知識はなかったかなぁ」


「それだとやっぱり怖いからダメ。身代わりは使用禁止です!」


「ケチ! せっかく覚えた忍術なのに!」


「そうだ、蚊に刺された時とかになら使ってくれていいぞ」


 俺は山を歩いている間に思いついた身代わりを使っていい基準を伝える。

 今は2月なのでいないが、なんでも夏になるとしっかり蚊などが発生したりするらしい。こういう細かいところまで再現されてるのは感心するしかない。

 エイプリルが「えー、そんなのやだー」と言っている声を聞きながら前方を見る。道の先には幽世山脈の中心である巨大都市「逆嶋」がやっと見えてきたのだった。

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