第11話 「そういえばこの辺は害獣とか出るのか?」

作物の種類によっては、そのまま地面に蒔く『直蒔き』と、一度ポットに蒔いて苗を起こして(作って)から地面に移植する『ポット蒔き』がある。


ここの気候なら、温度などの環境は全て直蒔きにしても発芽する可能性はあったが、ここはやはり確率を上げるためにきちんとした手順を踏むことにした。


しかし、こちらには苗用のプラスチックポットは存在していないため、代替となる何かを探すか作らなければならない。

もしくは、種蒔き専用の場所を作る『苗床』を用意しなければならないのだが、それにはもう少し時間が掛かりそうなので、今日はとりあえず直蒔きの物を蒔くことにする。


というわけで、『トウモロコシ』だ。


気候が違い過ぎる上に、こちらには冷蔵庫のような便利な電化製品は無いため、種は放置していたら劣化して発芽しなくなってしまうかもしれない。

……できるだけ速やかに全てを蒔き終わる必要があった。


その点、トウモロコシは類似種がこちらにも生えていることは確認していたため、やや安心できる部類だと言ってもいい。

ただ注意が必要なのは、近くに同種の植物があると、交雑して特性が混ざってしまう『キセニア現象』というものが起こる。


なので、周辺環境については調査済みだ。

……伊達に適当に村内をぶらぶら歩いていたわけではないのだ。


「トウモロコシー♪トウモロコシー♫」


謎のトウモロコシの歌をシンガーソングライターしながら、ルルガが思わせぶりに肩越しにこちらを覗きこんでくる。


……ウザいな。


が、まあ気にしないようにしよう。

雑念を捨てて集中しながら、二つずつ種を蒔いていく。


申し訳ないが、播種作業に関しては素人さんの手伝いは無しだ。

種の大きさに合わせて、浅すぎても乾燥してしまうし、深すぎたら腐ってしまう。


どちらにしても発芽しなくなるので、この微妙な作業だけは人任せにするわけにはいかない……と、柄にもなく真面目になってしまった。


ともかく、そうこうしながら20mの畝四列に渡ってトウモロコシ【ゴールドラッシュ】の種を蒔いた。

……この【ゴールドラッシュ】という名前がゴージャスでいいね。

ぜひ無事に育って欲しいものだ。


この時ばっかりは、さすがの俺も精霊様に祈りたくなる……。


ちなみに、二粒ずつ蒔いたのは、保険の意味合いと『できるだけ野生の環境に近づけるため』でもある。

一粒では発芽しなかった場合に、その場所にスペースができてしまうし、トウモロコシの種はあの実の様子を見てもらえば分かる通り、密集してできる。

なのでそれが地面でそのまま発芽することを考えても、できるだけ密集させて植えた方がいいだろうということだ。


……優れた農家は、見知らぬ環境でもその植物の特性を考えて栽培が可能なのである……!

とかカッコつけてみたりする。


「ふぅ〜……。とりあえずトウモロコシはこれで終了。後は水やりして待ちだな」


「やったー!トウモロコシー!」


「いや、まだできてないぞルルガ。植えただけだ」


二人で勝手に漫才してくれている女性陣を放っておいて、俺は次の準備に取り掛かることにした。

が、ここで一旦午前の作業は終了。

ミミナが狩ってきてくれた鹿を焼いて食べながら、雑談をする。


「そういえばこの辺は害獣とか出るのか?」


「そうだな……まあたまに出るな。コボルドとか」


「ブッ!?コ……コボルドですか……!?」


さすが異世界……。

確かにいるとは言っていたが、まさかコボルドが害獣とは。

シカやイノシシとは訳が違うのか?……てか、コボルドってイノシシよりつおいのか?


気になったので再び聞いてみた。


「あ、あのさ……。コボルドって、あのコボルド?イヌの頭を持って、銀を腐らせることからコバルトが訛って……てアレ?」


「そうだ。そのコボルドだぞ。あいつら、みんなで寄ってたかって、ちょっと目を離した隙に果物とか全部持って行ってしまうんだよなー」


「あ、そ、そう……。イノシシとコボルドって……どっちが強いの?」


「ロキ殿、不思議なことを聞くのだな。それは確かに一対一ではイノシシに分があるとは思うが、奴らは集団で狩りをする上に、道具を使うからな。それはコボルドだろう」


「へーそ、そうなんだ……分かったありがとう……」


……。


やっベーコボルドマジ勘弁!まさかイノシシ以上の強さとは!


田舎に暮らしたことがある人なら分かると思うが、シカですら普通の人間には全く敵いそうにない。

それにイヌだって、本気出されたら勝てる気がしないというのに、まさかコボルドはイノシシ以上とは……。


ヤバいどうしよ。

やっぱり異世界で農家なんてやるもんじゃないかな……。


なんて考えが、どうやら顔に出ていたらしい。

ルルガとミミナの二人が、心配そうにこちらを伺っていた。


「ロキ、どうした?コボルドが心配なのか?」


「確かに、ロキ殿の貴重な作物が盗られてしまっては大変だからな。……よし、いつもの巡回ルートにこの畑も加えておくことにしよう」


「あ、そ、そう……。ありがとう」


「そうだ!ロキの得物も準備しないとな!何がいい?弓か?それとも斧か?」


「え、ああ……いや、とりあえずいいかな……」


「おいルルガ、何を言っている。ロキ殿は精霊使いなのだから、武器など必要無かろう。もっとこう神聖な……杖などは無いのか?」


なんだか曖昧な返事をしている間に、二人の会話は色々進んでいた。


しかし結局、武器を練習しようかと思ってはみたが、止めておくことにした。

だってVRゲームの世界でも無いし、チート能力も魔法も使えないんだぜ!?


まだ命のやり取りをする覚悟は俺には無かった……。


てか、完全素人の人間に、いきなり弓矢は難しかったし、薪割りならともかく、斧で戦えとか言われたって、振り回すだけで大変そうだ。

ファイアーエムブレム初期の戦士がカッコ悪いとか思ってごめんなさい……。


だが、そんな心配も後でいくらか解消されることとなった。というのも、あのけも耳娘たちの実力というのを見せて貰ったからだ。


ミミナは弓の名手というだけあって、ウイリアムテルばりに果物も野鳥も射止めていたし、ルルガにいたってはどこが巫女なのか?というほど、抜群の身体能力と腕力を持っていた。


聞けば、既に何度も彼女たちはコボルドを倒したり撃退したりしているらしい。

だが、奴らの繁殖力はそれ以上なので厄介なのだとか……。


そういう部分もあり、村では人口をもっと増やしたいらしい。

なんか他人事とは思えない状態だな……。


「ミミナが苦手なのは、男を射止めることだけなんだよな!あははは」


「そ、そうなのだ……」


おいおい、ショボーン……って、そこ怒るとこじゃないのかよ!

なんだか微妙な視線がこっちに飛んでくるのに気付かないフリをしつつ、午後の作業に戻ることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る