第8話 「これは……しんどいな……」

考えてばかりでも腹は膨れないし、俺の味覚は満足しないので、とりあえず畑の開墾の始めることにした。

が、早速ここで問題が発生。

この世界にはトラクターすらないのだ。


狩猟採集生活なので、そもそも農耕用の道具などと言うものがあるはずもない。

そのため、俺は道具作りも行う必要がありそうだった……。


幸い、クワやスコップは存在していたので、人力で畑を作る事なら何とかできそうだ。

なので、前時代的に俺はなんとかなると思って、畑予定地へと向かう。

前時代的って、まぁそもそもここは別世界なわけだが……。


ルルガと長老に話をして用意してもらったのは、家から少し離れた所にある小さな空き地だった。

空き地といっても、何もない平地ではなく、そこにはいくつかの木が生えていた。

まずはそれらを抜いて平らな畑を作るところから開始だ……と思ったのだが、そもそも機械も使えないここで、日本のような真四角の畑を作る必要があるのかどうか……?


そこから考えてみたところ、別にそんなことをする必要は無いのではないかと言う結論に至った。


確かに、タイなどの東南アジアの田舎に行くと、田んぼのど真ん中にどデカイ木が一本生えていたりもする。

彼らはそこを避けながら、畑を作っているのだ。

なので、ここでもそれを真似してみることにした。


とはいっても、人力で土を耕すというのは意外に重労働だ。

一時間ほど(体感時間で計ってみて)クワを使って畑を耕してみたが、もうそれだけでわりと体が疲れてきた。

……まだ、こちらの世界の気候に慣れていないせいかもしれない。


日本で言えば、真夏の湿度が高い頃のような状態だ。

運動するだけでかなり汗もかくし、何もしていなくても暑さで体力が奪われていく。

いくら農業で体動かすのに慣れていたからといって、この環境にいきなり慣れて一日中労働すると言うのは厳しそうだった。


なので、休み休み休憩を入れながら少しずつ畑を作っていく。


まずは畑の物理性を整えるために下のほうの地をひっくり返して、土の中に空気を入れる。

そこへ周りの落ち葉を混ぜて有機物を入れながら、少しだけ盛り上げて畝を作った。


この辺の地質を考えると、あまり畝は高くないほうがいいし、かといって低すぎてもスコールで水没してしまう可能性があるだろう。


その辺の加減をうまく考えながら、何とか一日かけて、二十メートルほどの列が四つできた。


「これは……しんどいな……」


思わずそんな言葉が漏れる。既に体はガッチガチだ。特に手のひらと肩が酷い。

硬い土に振り下ろした鍬のせいで、手のひらは皮が剥けているし、肩は油が切れたブリキの木こりのようなきしみ具合だ。


……だが、何とか形にはなった。

後はこれを無駄にしないように作付けをしなければならない。

失敗は許されない。

種はこれだけしかないのだ……。


種には、『発芽率』というものがあり、何%の種が発芽をするかどうか?という基準になる。

俺が持っている種は、種苗会社から買った『商品』としての種のため、その発芽率はかなり高く、9割近いはずだ。


だが普通に生えている作物から採った種は、色々な理由があって発芽率は低かったりもする。

この辺はまた改めて語ろうと思う。


ともかく、種のスペックはほとんど問題ないと言っていいだろう。

問題なのは気候と土壌の方だな……。

特に発芽に関しては、土壌の状態が非常に関係してくる。

その辺をしっかり考えないと……。


そんなことを考えながら、今日も川へ水浴びに行くことにした。

今日はルルガは一緒ではないので気が楽だ。


……おいおい、「おいしいだろ」とか思った奴ちょっと来い。

実際、ずっと非モテで過ごしてきたおっさんが女風呂に入った時のことを考えてみろよ。

この上ない居場所の無さだろうが……。


「……うあー……」


「……うあー……」


「……うあー……」


なぜ人は気持ちいいと、出てくる言葉はこれだけになってしまうのだろう?

少し長野の温泉のことを思い出しつつも、ぬるい水の温度が体を癒していく。

今日は一人だけのため、思い切って素っ裸で入ることにしたのだった。


一人の方が全然気が楽なんだよ……と、誰にともなくそんな言い訳を考えながら、ゆったりと川の流れに身を任せる。


うわーこれは気持ちいいわ……。

普段使ってなくて火照っていた肩の筋肉が、ひんやりとして心地良い。


寝れる。

これ寝れるわ……とか思いながら水の上に浮かんでいた時。


チャプ……


またしても、頭の上の方から水音がした。

今日もやはり、向こうの方では子供たちが水浴びをしていた。

……というか、どうやらこの村の子供たちは、暇があればいつも川遊びをしているようだった。


暑いからな。無理もない……。


いやそうじゃない。

まだ俺はこの村の子供たちとは全然打ち解けていないため、奴らが近寄ってくることはない。

早めに村に溶け込むためにも、いち早くガキどもとは仲良くなって怪しいものではないアピールをせねばな……とは思ってはいた。


この辺は農家スキルを研究した結果だ……ってそうじゃない。

ということは、またしてもルルガの奴か……?


とか思っていたら、別の声がした。


「あ、あの……ロキ殿か……?」

「え?ルルガじゃないのか……?」


ザブっと頭を上げて、後ろを振り返ると。


「ぶはっ!!!」


……そこには、別の女の裸があった。

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