第119話 どこ触ってんのよ!

「何その重そうだったみたいな言い方は」


 後ろからムスッとしか顔を覗かせる千葉。


「んな事言ってねーだろっ」


 これ以上話してると、後ろで暴れてきそうなので一気に階段を駆け上がる。


「ちょ、怖い!いきなり走んないでよ!」


「こっちの方が早く着くだろ?」


「落ちる!落ちるから!――――それにかき氷が!」


「俺の肩と一緒にしっかり持ってろよ」


 と、威勢のいい俺だったが、


「タイム……………ハァハァ……………ダメだ」


 数十秒後には階段にうなだれていた。


「だから走るなって言ったじゃん」


 それを呆れるように見る千葉。

 運動不足には、階段ダッシュは無謀だったようだ。それも人を負ぶってなんてなおさらだ。


「あと少しなんだから頑張りなさい」


「あれ?そんなに進んでたっけ?」


「100メートルくらい先、階段がなくなってるからあそこが広場だと思うわよ?」


「なら頑張るしかないな」


 まだ荒い息を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。


「ほい」


「え?」


「早く乗れよ」


 千葉を待ち構える俺だったが、


「いや、もういいから!あんた死ぬよ?」


「人間はこんな簡単には死にません」


「あと少しだから歩くって私」


「ここを降りた後から歩けなくなるぞ?」


「あとって、降りる時もおんぶするわけ?」


「そのつもりだけど、まぁ、降りてサンダル買うまでだがな」


「どこまでお人よしなの…………あんた」


 そう言いながらも、千葉は背中に乗っかってくる。


「あ、あとかき氷、食べた方がいいんじゃないのか?」


 半分顔を振り返りながら、千葉に言う。


「確かにそうね」


 千葉の手には、溶けかけのイチゴシロップのかき氷。


「ゆっくり行くから、食べな」


「手、離すからしっかり支えなさいね」


「もちろんそうするよ」


 言われた通り、千葉をしっかりと支える俺。

 浴衣の上から支えてたつもりが、いつの間にか露わになっている白くスベスベな太ももに手を置いていた。

 それに気づいたのも束の間、


「んっ//………………ってどこ触ってんのよあんた!」


 口に運ぼうとしていたかき氷を一旦戻すと、俺の耳元で絶叫する。


「どう考えても不可抗力だろ!」


「この期に及んでセクハラしようとしてるんじゃないでしょね」


「いつもセクハラまがいの事されてるんですが俺は」


 目の前でエッチされるのは、それはもうセクハラだし。

 俺の机でするなんてセクハラだけではなく、公然わいせつ罪だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る