第116話 お礼だから…………

 目的地に向かいつつ、効率的に屋台を巡っているが、


「あのー、買いすぎじゃね?」


 俺の両手はもう食べ物でいっぱいだった。


「えっとーポップコーンにたこ焼きに焼きそば~ラムネとチョコバナナ、あとはかき氷で最後だね」


「かき氷は夏祭りの代名詞でしょ」


 真面目な顔になる千葉。


「いや、俺もう持てないし…………てかなんで俺が荷物持ち?」


 流れるがまま買ったものを持たされてる。


「これ全部お前が食べるものだよね?そもそもこの量一人で食べるとか…………」


 引き気味に言う俺に、


「誰も一人で食べるなんて言ってないでしょ!?」


「俺も食べろと」


「そのためにいっぱい買ったんじゃない!」


「俺、お金払ってないし、自分で食べろよ」


「あんた、私この量一人で食べれるとでも?」


「………できなくはなさそう」


「誰が大食いファイターよ!」


「一言も言ってないんだが?」


 理不尽にキレる千葉に、俺はギョッとする。


「何あのカップル」「ケンカかな~」


 周囲の人達からもクスクスと横目で笑われている。

 少し距離を取ると、千葉は顔を赤くしながら、


「それに、これはお礼だから…………」


「お礼?」


「そう、今日ついて来てくれたお礼」


 ツンデレなり、千葉なりの感謝の気持ちという事か。

 自分の気持ちを上手く相手に伝えられないのがツンデレという生き物だ。

 簡単に言えば、不器用。


 頑張って伝えてくれたんだから、俺もそれに対してお礼……………でも言おうとしたが、ここで何か言ってしまうとそっぽを向かれてしまうので言わないことにした。


「なら、かき氷買って例の場所向かうか」


 一度伸びをすると、千葉の方を半身振り返る。


「う、うん…………でも、その前に」


 と、千葉は俺の左手に持っているたらふく食べ物が入った袋を持つと、もう一方の手で俺の手を繋ぐ。


「はぐれたら、元も子もないでしょ」


 俯くが、チラリと見える耳は真っ赤に染まっていた。

 ベージュの髪色に、彼岸花の浴衣。

 そして、性格いつもと変わらない、でも、少しだけ大人しい千葉。


 そんな彼女を、可愛いと思ってしまっているという事を、言えるわけ………いや、言う権利などどこにもないのだった。




 ~~~~


「言えるわけがないのだった…………って、っク!なんだあの初々しい青春は!」


 勝手にナレーションをすり替えるのは、少し後ろからイカ焼きをむしゃむしゃと食べながら監視する氷見谷こと私。


「あの2人、早くくっつけマジ」


 私が立川くんを誘えと心葉に行ったとはいえ、やはり焼いてしまう。

 あの2人が付き合うのなら、三角関係で合法的にヤキモチを焼ける。


 そして、その嫉妬をバネに、激しく熱い夜が過ごせる。


 だけどそれは2人がくっついたらの話、今はただあの2人が付き合ってないのに、それに夏の定番デートである夏祭り&花火に行ってる事が凄くモヤモヤする。

 だけど同時に興奮が止まらない。これがNTR趣味というやつなのか。


 新たな性癖に目覚めてしまった。

 これから始まる花火大会。

 心葉にとっても、私にとっても大事なこと。








 これから起こる出来事の結果は―――もう既に決まっている。


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