第114話 夏祭りだよ!?

「てか、あんたなんで浴衣着てないのよ」


 俺の全身を眺めると、千葉は言う。


「なんでって、別に着てこいとも言われてないし」


 持ってるけど、お祭りで浴衣着るとかなんか浮いててあまり気が進まない。


「はぁ?」


 それを聞いた千葉は、一気に顔をしかめる。


「なんだよ、その顔は」


「いや、普通に考えてさ着てくるでしょ」


「そうなのか?」


「当り前じゃない!」


 いきなり声を荒げる。


「夏祭りだよ!?花火だよ!?浴衣着て来なくてどうすんの!?」


「なら最初から言ってくれればよかったじゃんか」


「……………うっさい!男ならそのくらい考ろ!」


 正論を言われたからか、そっぽを向く千葉。

 浴衣くらいでこんなに怒るか?乙女心はこれだから分からない。


 いつもと変わらない千葉。この口調は安心するな。

 外見は変わっても、やはり性格まで変わることはなかったな。


「それに、浴衣なんて着てる人……………」


 と、俺は周囲を見渡す。

 浴衣を着ている人は、大体4割ほど。圧倒的に女子が多い。


 男子で浴衣を着てるのはカップルしかいない。男子だけで着てるグループは皆私服か制服だ。


「ほらね?いるじゃない」


 なぜか自慢げな顔をする。


「でも、やっぱ私服の方が多いな」


「多い少ないの問題じゃない!いるかいないかの問題なの!」


「いるけどなー、男子なんかゆうていないぞ?」


「男女で歩いてて、私だけ浴衣とかおかしくない!?普通どっちも浴衣でしょ!」


「それはカップ――――――いやなんでもない」


 こいつ、その組がカップルだって気付いてない?

 そうだよな。もし気付いてたならそもそも言わないし、顔を赤くする。


「そうよ!カップ……………ル?…………カップルだわ」


 ポカンとした表情をすると、かぁっと顔を染め上げる。

 今更かよ。

 お祭りに浴衣姿で男女で来るなんて、カップル以外の何物でもないだろ。

 千葉もどこか抜けてるよな。


「ままままぁ?着てこなかったなら仕方ないわね」


 明らかに照れ隠しをして、俺から目を逸らす。


「だったら最初から言うなよ」


 ため息を吐く。

 氷見谷ともそうだが、千葉と会話してても疲れる。

 また違った疲れだが。

 疲れても、下手に千葉がお高く振る舞まい、俺に違った疲れが来るより、こっちの方が

 慣れている疲れの方がいいか。


「早く、花火始まる前にお祭り周りましょ!」


 コツコツと、花柄の下駄を鳴らしながら、足早に前を歩く千葉。


「はいよ」


 いつもと違う後ろ姿の千葉を見て、俺は少し頬を緩ませながらついていくのだった。



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