第103話 そんな事ない

「勘違いって、おま……………」


 赤面する千葉に釣られて、俺も顔が赤くなる。


「違っ!……………違わないんだけど、その……………羽彩が好きだけど、私だってあんなことされたら勘違いしちゃうし、少しは気になちゃうよ」


「気になる!?え、お前………………俺のこと」


「あぁ~もう!頭ボーっとして変な事言う!私もう寝る!」


 千葉は、湯気を吹き出す頭を布団で隠すと、そのままベッドへ倒れ込む。

 勘違い、気になる………………これが本当に熱のせいだといいのだが。


 こいつは氷見谷が好き、氷見谷も千葉を溺愛している。なのに、千葉が俺に少しでも好意があるとしたら……………気まずいことになりそうだ。


 でも、もしそうだとしたら、ホテルの時押し倒されたり、看病の時手を握ったり汗を拭いたり……これは違うかもしれないが、色々と辻妻が合う。


 疑問なのが、千葉が男が嫌いなはずだ。それも見るだけ近づくだけで嫌悪感を抱くくらい。友達に近くに居て貰わないとダメなくらい。


 以前、俺の事は少しは大丈夫と言ってたが、そこから恋愛感情に発展するのは難しいと思う。

 しかし、もし千葉に告白されたり、好意があることを伝えられたら俺は…………


「心葉、大丈夫?」


 そんな事を考えていると、保健室の扉が開いた。


「遅かったじゃんか」


 来たのは案の定、氷見谷。少し体育着は汚れていた。


「当り前じゃない。あなたの分まで仕事してたのだから」


「俺も仕事は元々ないわ」


「それに、使い終わった用具を運ぶのでこのザマよ」


 体育着を広げ、ため息を吐く。


「だからそんな汚いのか」


 良かった、手伝わなくて。無理やりやらされて泥だらけにならなくてよかった。


「それで?心葉はどうなの?」


「あ、あぁ。さっきまで起きて話をしてたんだけど、なんかいきなり寝だした」


「ふーん、そうなのね」


 と、氷見谷は不快な笑みを浮かべる。


「なんだよ」


 その不審な顔を見つめると、


「あなた、さっきから顔が赤いからどんな話してたのかなと」


「俺顔赤い!?」


「結構真っ赤になってるわよ」


 急いで鏡の方へ行き確認をする。ちゃんと俺の顔は赤くなっていた。


「それで?なんの話をしていたの?」


「…………千葉から聞けよ。俺の口から聞いても意味ないだろ」


「意味なくないわ。面白いもの」


「ただ俺の反応見たいだけじゃねーか」


「まぁね。ならあなたは種目に出てきなさい。もうすぐあるでしょ?その間に私が効いてくるから」


「そうだな、千葉は俺より氷見谷の方がいいしな」


 俺は、立ち上がり、保健室のドアを開ける。

 閉める瞬間、


「そんな事ないと思うけど」


 氷見谷からそう聞こえたのは、気のせいだったかもしれない。


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