第43話 可愛いは正義

「ケホっケホっ、ごめんなさい。乱してしまったわ」


「あ、あぁ。千葉にはとりあえず教えてあげるとして、お前にも少し教えてやろうか?」


「私はいいわ」


「なんだ、せっかく教えてあげようと思ったのに」


「泳げるようになるより、泳ぐ心葉を見た方がいいもの」


「あ、そうっすか」


 俺は呆れた笑いをした。

 これだから、恋人愛好家は…………自分より他人を優先する。

 良いんだか悪いんだが、いまいちわからん。


「もう、移動するならさっさと行きましょう………なんか2人の会話聞いてるだけで小っ恥ずかしい」


 そっぽを向きながら、そそくさと歩き出す千葉。


「それ自分の話をされてるからじゃないのか?」


「うい、うっさいわね」


「立川くん、私達も行きましょうか。心葉なら気に掛けなくてもい大丈夫よ。ただのツンデレだから」


 見透かすような笑みを浮かべる氷見谷に、


「だ、だから私の話をするな!」


 嬉しそうに怒鳴る千葉であった。




                *




「おい、すっげーなここ」


 綺麗に整備された8レーンもある50メートルプール。

 さっきのレジャー施設みたいな様子ではなく、いかにも競技用の雰囲気だ。

「でも………………」


 俺は周囲を見渡し、


「なんで人がこんな少ないんだ?」


 視界に入る限り、プールに居るのは10人ほどしかいない。

 それも、真ん中のレーンでゆっくりとウォーキングしている高齢者と、奥のレーンで永遠と泳いでいるガチ勢の人。


「こんな立派な施設があるけれど、メインはあっちの流れるプールとかウォータースライダーがある方だからね」


 氷見谷は髪をかき上げながら言った。


「だから人がこんな少ないのか」


「好都合じゃない、人がいない方が」


「確かに、手前のレーン誰もいないから独占できるしな」


「私も足だけ浸かりながらゆっくりと心葉を視姦できるわ」


「勝手にどうぞ」


 人が居ないことに、テンションが上がる俺と氷見谷だったが、


「なんか浮いてるわね。私達」


 千葉はどんよりとした表情を浮かべた。

 確かに浮いている。

 完全遊びの水着だし、色もデザインも派手だ。


「気にしなくていいじゃない」


 氷見谷は千葉に声を掛けた。


「どう考えても気にするでしょ」


「大丈夫よ、可愛いから」


「理由になってないっつーの」


 そう言うと、薄く赤面した千葉は、弱く氷見谷の肩をパンチした。


「ちゃんとした理由よ。可愛いは正義」


「正義だとしても、この場、TPOに合ってないわ」


「それなら、今から売店で競技用水着買いに行く?私は違う心葉も見れて、それに水着をすぐずらしてエッチでき――――」


「やっぱこの水着でいいや」


 察した千葉は、背伸びをしながらプールサイドへと向かった。

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