第73話 空中戦

「これは…………機甲騎士マシンリッター?」


 三騎のドラゴンにまたがるようにして乗っている鋼の巨人。俺達の搭乗している「アマテラス」に酷似した存在は、真っ直ぐこちらへと向かってくる。


「ミネルヴァ。ルシオン王国が機甲騎士を配備していたなんて事前情報、あったか?」

「《否定します。ルシオン国内の軍事施設並びに政府関連施設はすべて衛星および偵察ドローンで調査しましたが、機甲騎士に類似した近代兵器の存在は確認できませんでした》」

「ならいったいどこが……そもそも奴らは敵なのか? それとも中立なのか? 少なくとも味方ということはない筈だが……奴らの目的は何だ。何故こちらを真っ直ぐ目指す?」


 正体不明の存在を前にして、しばし悩む俺達。一応警戒態勢は取っているが、敵と見做して発砲して良いのか判断に迷う。


「《敵の正体を判断する根拠には乏しいですが、対象の騎乗するドラゴンの生息域はルシオン王国からは大きく外れ、大陸北部に集中しています。また、現在ルシオン王国が置かれている状況を鑑みると、考えうる可能性として候補に挙がる国家が一件。――――対象の所属国はヤークト帝国である蓋然性が非常に高いと思われます》」

「「ヤークト帝国が!?」」


 思わず叫ぶ俺と柚希乃。

 俺達が今敵対しているのはあくまでルシオン王国だ。その他の国とは、そもそも国交すら樹立していない。

 ヤークト帝国はルシオン王国と交戦中なので「敵の敵は味方」の理屈で接触を図ろうと考えたこともあったが、彼らに国を追われたリガニア人達の感情に配慮してこちらからのアクションは取っていない。


「このタイミングでヤークト帝国が攻めてくるのか? ……敵地の中枢である王都に?」

「たまたまヤークト帝国軍の斬首作戦と私達の『ノアの方舟』計画が重なったのかな?」

「……可能性としては充分に考えられる話だな。もともとルシオン王国はかなり追い詰められていたということだし……起死回生の挽回策として俺達日本人を召喚したんだから、王国中枢を奇襲攻撃されるくらい国境の警備が脆弱になっていてもおかしな話ではない」

「《マスターの考察に、全面的に同意します。敵機甲騎士マシンリッターの武装に原始的な火砲と思しき装備を確認しました。ルシオン王国はここから【銃士ガンナー】の重要性に気付き、柚希乃様を誘拐しようとしたと推察されます》」

「話が繋がったね」

「ああ。……ということは、史上初の空中銃撃戦に発展する可能性があるわけか!」


 この「アマテラス」の装甲なら、自身の一二〇ミリレール砲の直撃にすら数発以上耐えられるが、それでも万が一の可能性を考えるとあまり敵からの攻撃を進んで喰らいたいとは思えない。

 つまりは、敵の攻撃を回避できるか否かは俺の操縦の腕に懸かっているわけだ。


「こちらからヤークト帝国を敵に回すことはできれば避けたい。この世界における唯一の先進国として、戦争の大義名分は俺達にあって然るべきだ」

「……つまり最初の攻撃はあっちからってこと?」

「そうなる」

「私は進次を信じるよ」

「ああ、俺も柚希乃を信じる。……敵が撃ってきたら即座に反撃だ」

「任せて!」


 彼我の距離は残り数キロメートル。もう完全にこちらの射程圏内だ。


「標的を目視にて確認! 光学照準モードでロックオン……完了!」

「さあ、どう出る? ヤークト帝国」


 どうやら向こうもこちらに気付いたようだ。三騎編成の隊列に乱れが生じる。


「敵さんはどうやら空中戦には慣れていないらしいな」

「多分、初めてなんだろうね」

「これまでこの世界で航空戦力を保有していたのは、おそらくヤークト帝国くらいのものだったろうからなぁ」


 きっと制空権の概念すら無かったに違いない。奴らの装備には、対空火砲に類するものが一つも見当たらない。もちろんミサイルもだ。


「《対象、砲口をこちらに向けました。これより対象を敵と認定。レーダーの自動追尾モードをオンにします》」

「撃ってくるぞ! 緊急回避の衝撃に備えろ!」

「うんっ」

「《敵の発砲を確認。弾道を計算します…………直撃確率一五%》」

「緩やかに回避だ」


 俺は機体を傾けて敵の射線から退避する。再度の攻撃に備えて左右に撹乱するのも忘れない。


 ――――ヒュンッ……ヒュン、ヒュンッ……


 敵の砲弾が大きく外れて遥か後方の地面に着弾するのが見えた。この分では命中精度はさほど高くはなさそうだ。


「反撃だ!」

「りょぉぉおおおかぁぁあああい!」


 砲弾を粘着榴弾に切り替えた柚希乃が、一二〇ミリレール砲を連続で三発ブッ放す。


 ――――ズドォンッ ズドォッ ズドォォンッッ


「《標的まで残り三……二……一、着弾。命中》」

「よっしゃあ!」

「気を抜くなよ」

「もちろんだよ。次弾装填!」


 見事に敵ドラゴンを撃ち抜いた柚希乃がガッツポーズを決めて叫ぶ。即座に次の攻撃に備えているあたりは流石だ。勝って兜の緒を締めよ。柚希乃の気が緩むことはない。


「効いてるな」

「流石のドラゴンの鱗でも、粘着榴弾には耐えられなかったみたいだね」

「肉が吹き飛んでるな。割とグロテスクだ」


 ホプキンソン効果で腹の肉やら臓物やらをぶち撒けたドラゴンが一気に失速して墜落していく。上に乗っていた鋼の巨人達も道連れだ。


「さあ、これで何事もなく終わってくれるといいんだが……」

「進次、それフラグ!」

「わ、悪い」


 敵の様子を確認するために、地上へと降下する俺達。土煙が上がっているので、再起不能とは言わないにしてもかなりのダメージは与えられている筈だが……果たして結果やいかに。










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