第52話 覇道ではなく王道を

「眞田はスマホを持っていないのか?」


 制服の刺繍の色から同学年であるとわかる眞田にそう訊ねると、彼は残念そうな顔をして頭を振った。


「いや、持ってはいるのですがね。残念ながら電池が切れてしまいました」

「充電器ならあるぞ」

「何ですと!?」

「……後で貸そう」

「うおおおおお、かたじけない! 命を救っていただいたばかりか、ネット生命まで救っていただけるとは! 沖田氏は拙者の恩人オブ恩人ですぞぉおお!」

「寄るな! 暑い!」

「ぬっ、失敬!」


 日陰者モヤシっぽく線も細いのに、妙に暑苦しい奴だな。こういう奴に限って不思議な特技があったりするんだが……果たしてこいつの『恩寵』は何だろうか。パソコン部の部長だったということは、パソコン関連なのかな?


「いきなりで不躾ではあるんだが、眞田の『恩寵』が何なのかを教えてもらっても構わないか?」

「もちろんですぞ。拙者の『恩寵』は【プログラマー】。コンピュータが無ければ意味のない『恩寵』ですな。追放されて当たり前というわけですね、ええ」

「き、キタァアアア!!」

「進次……?」


 今度は俺が雄叫びを上げる番だ。柚希乃が若干引いた感じで俺のことを見てきている。


「おや、あなたは確か……叶森かなもり氏ですね?」

「およ、私のこと知ってるの?」

「パソコン部の連中が話していましたからな。確か、A組にかなり可愛い子がいるがどうやら彼氏持ちらしい、残念だ――――とかなんとか」

「何ッッッ!?」

「え、か、彼氏!?」


 初めて聞いた柚希乃の浮いた話に思わず大声を上げてしまう俺。柚希乃は慌てて弁明するように手をバタバタと振る。


「わ、私彼氏なんていないよぉ」

「おや、てっきり沖田氏と付き合っているとばかり思っていましたが……誤った噂でしたかな?」

「俺と柚希乃が?」

「なーんだ、なら良かった……」


 確かに俺には柚希乃以外の友人がほぼいなかったので、学校では柚希乃と行動を共にすることが非常に多かった。柚希乃も柚希乃で友人はいるにしても、結局一番仲が良いのが俺なので一緒に飯を食ったり、行事や授業なんかで二人組を作ったりしていたからな。

 なるほど、それを見て誤解されたというのは非常に納得のいく話だ。

 というか……。


「俺と噂されるのは良いのか?」

「えっ、ななななな、何が!?」

「いや、さっき良かったって……」

「そんなことよりも【プログラマー】だよ! これがあれば色んなものが再現可能になるんじゃない? 農業ビルの更なる効率化に、自動迎撃装置の高性能化、電力供給システムの更新に、家庭用ゲーム機だって作れちゃうかも!」


 めちゃくちゃ話を逸らそうとする柚希乃のセリフに、眞田が反応する。


「確かに、それくらいなら【プログラマー】にできない道理はないですぞ。部活でもExcelでマ◯オとか作っていたのでそれなりに自信はありますからな。流石に今すぐ感情を持った人工知能を作れと言われたら難しいですが……」

「今すぐじゃなければできるのか……」


 もともとパソコン部の部長としてある程度の知識があった上に、【プログラマー】まで加わった眞田のIT技術には相当期待できそうだ。


「よし、眞田。お前をIT担当班長に任命しよう」

「おお……っ、沖田氏は拙者の才能を認めてくださるので……!?」

「ああ。まだ実際に見てないから断言はできないが、お前にはとても期待している」

「沖田氏……! ぬおおおお! 拙者、この恩は一生忘れませぬぞ! 誠心誠意この沖田平野のIT化に取り組ませていただくでござる!」


 この世界には存在しない筈だったコンピュータ。それを俺が開発したことで、眞田は生き甲斐を見つけることができたのだ。恩着せがましいことを言うつもりはないが、感謝して仲間として活躍してくれるなら俺としても言うことはない。

 眞田は自分の特技を活かせるし、俺も必要な人材を確保できた。お互いにウィンウィンな関係だな。


「細かい給与形態に関しては後でじっくり詰めるとしよう」

「沖田氏には命を救っていただいた御恩がありますゆえ、労基法違反レベルの低賃金でも喜んで働かせていただきますぞ!」

「それはお互いにとって良くないぞ。歪んだ雇用形態は歪んだ人間関係へと繋がるからな。そしてそれはこの沖田平野にとっても良くないことだ」

「そこまで考えておられるとは……やはり沖田氏は上に立つべき人間ですな」

「買い被りすぎだよ」


 まあ本人もこう言っていることだし、別に雇おうと思えば低賃金でいくらでも酷使できるんだろう。だが、そういった不健全な関係はいずれわだかまりを生んで、裏切りの発生に繋がる可能性がある。

 ここは日本ではない。俺達の後ろ盾になってくれる存在はどこにもいないのだ。だから自分の身は自分で守らなければならない。

 そのためにも俺は覇道ではなく王道を貫き通す。真正面から敵を倒せる力を持ちつつ、仲間にする時は力ではなく心で従えるのだ。






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