独白:物語の双道



 現代ファンタジーの美少女ゲーム『Re:turnerリターナー -fantasiaファンタジア gardenガーデン-』は、意中のヒロインと甘く睦み合う展開よりも、苦しく険しい展開の方が多い。その犠牲の矢面に立たされているのが、噛ませ犬筆頭として出番を消費される加地かじ月彦つきひこだが、主人公である天道てんどう良太郎りょうたろうや分岐した物語のメインヒロインとて、その過酷さの例外ではない。


 ――『硝子ガラス野薔薇ノバラ』では暁奈が。

 ――『百合籠ユリカゴ』では■■が。


 世界を救う生贄たる巫女として、または世界を巣食う病魔たる悪女として、それぞれ危険の矢面に立たされる。どちらの分岐ルートでも円満解決などという、隠された可能性グランドエンディングもない。憂き目に遭うとは、まさにこのことだ。

 世知辛い悲劇ぶりがここまで露骨となると、物語の執筆者シナリオライターはそれほどまでにシビアさをストイックに表したかったのだろうか。余人……特に物語のいち登場人物となった月彦には、計り知れないことだった。


 既に月彦の想定外の動きによって、物語は本来の筋書きを外れつつある。ならば事実上の創造主の思惑などは関与しないだろう……と割り切れないのもまた、厳しい現実だった。

 これが原作ゲームであれば、データの保存・再開セーブ&ロードによって試行錯誤を繰り返し、お目当てのエンディングに辿り着くこともできるのだろうが、生憎今の月彦にそのように便利な能力は望めない――誰かが死んでも、次の朝日は昇ってくる。


 現実であれば当然の摂理でも、


 原作ゲームのとおりであれば、敷かれたレールの上の走っていることは否めずとも、大きなアクシデントがない限りは安寧が保証されている。

 しかし現月彦が歩んでいる物語という人生に、物語の執筆者シナリオライターの加護はない。

 だが裏を返せば、それはヒロインも主人公も誰一人失わずに済む未来も掴み取れるかもしれないという、希望の光ともなり得る。


 神のみぞ知る世界で、それでも精一杯あがこうと決めたはずの月彦……だったのだが、


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