第24話 強盗がいた


 地下四階に行ってサンドシャークと戦うという話をすると、リタは喜んで賛同してくれた。

ところが、シドはあからさまに嫌そうな顔をしている。


「わざわざ危険なところにいかなくてもいいだろう?」

「だって、サンドシャークの浮袋があれば散水機だけじゃなくて、シャワーなんかもを作れることができるんだよ 」

「そんなこと言ったってよお……」


 やっぱりシドは消極的だ。

でも、ダンジョンに詳しいシドにはぜひとも一緒に来てもらいたい。


「畑が広くなればシドにいいものを作ってあげられるんだけどなぁ……」

「いいもの? なんだよ?」


 スキル『発酵』を使えば比較的簡単にできるあれだ。


「焼酎」

「ショウチュウ? 聞いたことがないな」

「麦やナツメヤシで作る、つよ~いお酒だよ」

「酒だと!?」


 釣れた! 

予想はしていたけどチョロ過ぎだよ……。

でも、シドのこういうところはかわいい。


「お酒ですって!?」


 予想外にリタまで反応している。


「リタも飲みたいの?」

「うん、一度飲んでみたいと思っていたんだ」


 リタはまだ飲んだことがないのか。

そういえば僕だって、結城隼人としても、セラ・ノキアとしてもお酒を飲んだ経験はゼロだ。

どんな味がするかちょっと興味はある。


「じゃあ、作物を作って、お酒を造ってみようよ。そのためにも地下四階でサンドシャーク狩りね!」


 最終的にはシドもノリノリで協力してくれることになった。



       ◇


 デザートホークスはメリッサを助っ人に加えてダンジョンに乗り出した。

危なげなく地下一階を通過して、今は地下二階にいる。


「おっ、緑晶みーつけたっ!」


 魔結晶も順調に見つかり、背中のリュックサックもパンパンになっていた。


「大丈夫なの、そんなに担いで?」


 みんなの分も僕が担いでいるのでリタは心配そうだ。


「余裕だよ。でも次回からはリヤカーでも作って持ってきた方がいいかもね」

「リヤカー?」

「人が引っ張る荷車だよ」


 ポーターを雇うよりそっちの方が早そうだ。


 先頭を歩いていたシドが足を止めた。


「待て、人の気配がする……」


 シドは僕らをその場に残して、明かりも持たずにゆっくりと前に進んでいく。

斥候スカウトの固有ジョブを持つ人は暗闇でも目が利くのだ。

しばらくすると、シドはスルスルとこちらに戻ってきた。


「やっぱりそうだ。前方で待ち伏せしている奴らがいるぞ」


 ダンジョンにはしょっちゅう強盗が出没する。

人が集めた魔結晶や素材をかすめ取る汚い奴らだ。

そういう輩は露見すると袋叩きに遭うけど、犯罪者は後を絶たない。


「盗賊は全部で十五人だ。迂回するか?」


 数だけで言えば僕らの倍以上だ。

余計なトラブルは嫌だけど、放置するのもどうかと思う。

善良な採取者が襲われることを考えれば良心が咎めるよね。

それに迂回すれば一時間以上の遅れが出てしまう。


「排除するよ」


 そう言うと、メリッサとリタが同時に声を上げた。


「手伝おう」

「だったら私も!」


 そんな僕らを見てシドだけが苦笑を漏らす。


「まったく、顔に似合わず血の気の多い連中だぜ。俺がいちばん温和ときていやがる」

「いちばんの悪人面なのにね」

「余計なお世話だっ!」

「シドは休んでいて」

「バカ野郎、俺だってああいう奴らは大嫌いなんだよ」


 なんだかんだでシドだってやる気なのだ。


 何なにも気が付かないふりで歩いていくと覆面をした十五人の盗賊に囲まれた。

相手が四人だけだと思って舐めた態度をしている。

リーダーとおぼしき奴が剣を突き付けてきた。


「死にたくなかったら持っている魔結晶を全部おいて置いて いけ!」


 『スキャン』発動

 対象:マコール・メッコラ 三十二歳 身長百七十八㎝ 体重八十二キロ

 固有ジョブ:曲芸師 スキル:『ナイフ投げ』『煙幕』

 戦闘力判定:Dマイナス


 戦闘力はDマイナスか。

だとしたらシドのCマイナスよりずっと下だ。

ちなみに僕はA、リタはCである。

メリッサについてはわからないけど、僕より上だとは感じている。

他の盗賊たちも調べてみたけど、全員がD以下の判定だった。


 ふと見るとこちらから顔を隠すように俯いている男がいた。

なんでかわからないけど視線を合わせたくないようだ。

スキャンをしてみると知り合いだった。


「あれ、ピルモアじゃないか。なんか下っ端になったみたいだけど、自分のチームはどうしたの?」


 覆面をしているのに正体を言い当てられて、ピルモアは飛び上がらんばかりに驚いていた。


「うわっ、最低。盗賊にまで落ちぶれたんだ!」


 好意を寄せていたリタにまで白い眼で見られている。

さすがにちょっとだけ憐れだ。


「う、うるせえ、お前たちには関係ないだろう……」

「なんだ、ピルモア、この小僧はお前の知り合いか?」

「前にポーターとして雇っていただけだ……」

「ふーん……。となると見逃してやるわけにはいかないな。こちらの正体がバレちまう恐れがある」


 メッコラは覆面を取って僕を睨みつけてきた。


「可哀そうだが皆殺しにするしかない。悪いなガキども」

「だろうね。アンタの名前がマコール・メッコラってこともわかっているよ。曲芸師さん」


 図星をつくと、メッコラの表情に焦りの色がにじんだ。


「どうしてそれを!」

「ここにいる全員の名前を知っているよ。多過ぎて覚えられないけど……」


 十五人のフルネームを覚えるなんて無理な話だ。


「これはいよいよ口封じをしなきゃならないようだな……」


 盗賊たちは殺気をあらわにして僕たちとの距離を詰めた。

ところがピルモアだけは怯えたように後ろに下がる。


「お、俺はやらねえ! セラ、リタ、俺はやらねーからなっ!」


 ピルモアは僕の実力の片鱗を見ているから、自分は無関係だと主張したいようだ。


「なんだ、ピルモア。こんなガキにビビってんのか?」


 盗賊たちはゲラゲラと笑っていたけど、ピルモアは顔面蒼白だった。


「そいつは普通じゃねえ、レッドボアを持ち上げるような奴なんだ。手を出さない方がいい!」

「レッドボアを? あり得ねえよ」

「こんな小さなガキに何ができるっていうんだ」


 刃物を持っていないと思って、盗賊の一人が不用意に僕に近づいてきた。

ヘラヘラしているけど目は本気だ。

僕を殺すつもりでいる。


 出力を上げた雷撃のナックルをみぞおちに打ち込んだ。

もちろん手加減はしている。

そうしないと僕の拳は奴のお腹を突き破って血だらけになってしまうからね。


「セラ、雷撃の意味があるのか……?」


 悶絶している男を見て、シドが呆れたように訊いてきた。

うん、ないかもしれない。

普通のボディーブローだけでじゅうぶん効いているね。

魔力を節約するためにも魔法付与は切っておくか。


 高速で動いて十四人の敵を次々と倒した。

全員が一撃で倒れたからたいした時間はかかっていない。

リタとシドは褒めてくれたけど、メリッサから見るとまだまだみたいだ。


「身体能力に頼り過ぎている。もう少し無駄な動きを削ぎ落とした方がいい」

「うん、こんど戦闘を教えてくれる?」

「任せておけ」


 メリッサは力強く頷いてくれた。

そしてぼそりとつぶやく。


「もっと強くなってもらわないと困るからな」

「なんで?」


 リタが鋭く質問した。


「私のいいなず………………(ボッ)」

「無表情のくせに、なに真っ赤になっているのよ!?」

「…………赤くない」


 明らかに嘘だった。

いいなずって何だろう? 

僕の知らない異世界の言葉なのかもしれなかった。


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