02 烏龍茶

「これは、振られてしまったのだろうか…」


俺は、烏龍茶に入った氷をストローでクルクルとかき混ぜながらそう呟く。

すると目の前の親友―綾部とおる、は心底興味の無さそうな視線をちらりとこちらに向けた後、すぐに手元の液晶に顔を戻した。


「そうなんじゃね?」


ほとんど身の入っていないその返事に、いつもならツッコミを入れるのだが、今日はそんな気になれなかった。


「一体何が悪かったんだろう…」

「いや、全部だろ。」

「え?」


首を回し、ボキボキと音を立てる徹はなんだか呆れたような顔をしている。


「何?引越しの挨拶しようと訪ねたら、超可愛い男の子が出てきて一目惚れし、勢いでプロポーズした?馬鹿じゃねーの。」


どうやらちゃんと聞いていたらしい。

その言葉に慌てて弁解をする。


「なんて言うか、本当にビビッときて…」

「いやお前さ。初対面の、しかも、自分より何十cmも大きな男にいきなりプロポーズされたらどうよ。」

「…それは怖い。」

「だろ?」


確かにそれはそうだ。

自分感情ばかりに振り回され、俺の嫁、いやあの子の事なんて1ミリも考えていなかった。

未だにスマホの画面を超高速でタップしている親友の前でしょんぼりと肩を落としていると、更に胸を刃で刺された。


「だから、今そいつの中でお前の印象は最悪だ。」


心臓が痛い。


「最悪どころか、なんだアイツ、きも、むり、しね。そう思われててもおかしくねーな。」


そう言ってケラケラと笑う親友に、俺はアドレナリンが湧き出てくるのを感じる。

睨みつけてやろうと顔を見た時、その揺れる金髪が視界に入った。


そういえば、あの子も明るい髪の色をしていた。

徹はどちらかと言えばアッシュに近い金髪だが、あの子はもっと甘い感じのミルキーブロンドの髪だ。

顔は思い出しただけでも鼻血がでそうな可愛らしい日本人の顔だったから、きっと地毛ではない。

染めたのだろうか。…可愛い。


「とにかく、今度そいつに会ったらちゃんと謝っとけ。」

「…そうだな。」


この間会った、つまりプロポーズしたのはつい三日前。

それなのにもうあの子が足りなくなってきた。

ああ、あの小さい体を思いっきり抱きしめてサラサラの髪の毛をわしゃわしゃしたい。

顔を埋めたらきっといい匂いがするのだろう。


「おい、顔とんでもない事になってるぞ。」

「…ああ。」


顔なんて前髪が邪魔してほとんど見えていないだろう。

切ろう切ろうとは思っているのだが、美容院や床屋の雰囲気が苦手でもうずいぶん行けていない。

店員に話しかけられるのが鬱陶しいと思ってしまう質なのだ。


それとは対照的に徹は同性から見てもとてもイケメンだ。

もちろん女の子にも人気で、さっきから通り過ぎる人の三人に一人は頬を染めている。


そこまで考えると、改めて自分がただのやばい奴のように思えてきた。

とにかくまたあの子に会えたら謝ろう。

そう決心し薄くなった烏龍茶を一口、飲み込んだ。

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初めまして、結婚してください。【BL】 7n' @7naaa

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