滅び得る力

 「ん、電話…血染さんから?」一方の瞳と晶はしばしの休息をとっていた。そんな中、瞳のスマートフォンが振動する。


 「…はい、どうしましたか血染さん?」


 「時間がない、状況と要求だけ手短に話すよ!」


 電話越しの血染、らしくない焦った様子を感じ取った瞳は少し表情を強張こわばらせる。「…分かりました、お願いします。」そのあとの血染の言葉で、彼女は更に動揺することになる。


 「韋駄天と戦ってるやつが…として覚醒しちまった…!」


 「な……激情者…そんな…!?」電話越しの血染の声は晶には聞こえなかったが、彼女は瞳の愕然がくぜんとした表情から事態の深刻さを理解した、しかし「激情者」という言葉には聞き覚えがない。


 「…えぇ、分かりました。私達もすぐに向かいます!」彼女は電話を切るや否や入口に向かって走り出したので、晶も一歩遅れて彼女を追いかける。


 「瞳さん、移動しながらで結構です。状況説明と、激情者というものについて教えて頂けませんか?」


 「!すみません晶さん、何も言わずに急に駆け出してしまって……状況を伝えるには、先に激情者について説明しなければなりませんね…」険しい表情を浮かべつつも瞳は話し始める。


 「人には喜怒哀楽、四つの感情が備わっている…これは大丈夫ですね?」晶は頷く。


 「そして私達具情者は、その感情をかてに特別な力、情力を発現させている…しかし、実はその情力にはまだ先があるのです。」


 「情力の…先…?」


 「えぇ……喜怒哀楽には、それぞれが存在するのです。」


 「!!」目を見開く晶を一瞥し、瞳が続ける。


 「喜びは「歓喜」怒りは「憤怒」悲しみは「悲哀」楽しみは「快楽」…これら上位の感情はまとめて「激情」と呼ばれており、その感情を発現させた者が…」


 「…激情者…」晶の呟きに、瞳がゆっくりと頷く。


 「激情を目覚めさせた者には「激情紋様」という独特の模様が身体の表面に浮き出ます、だから一目ひとめで分かる…ただそれよりも重要な特徴があと二つあるのです。」


 「二つの特徴…とは?」


 「一つは爆発的な情力の強化。激情者の情力は、通常の喜怒哀楽のそれとは次元をことにします。もし激情者と戦う場合、普通は同じ激情者でなければまず勝ち目はない。」


 晶は息を呑む。「…二つ目の特徴は…?」


 瞳は重々しく口を開く。「それ程強い感情を持ち続けることは当然容易ではありません。激情は他の感情を喰らい、それでも消えないその情念は…その者の心を焼き尽くしてしまう…」


 「……まさか!」最悪の答えへと考えが至った晶が顔を青くする。


 「そう…許容を上回った激情を使い続けた情力者はやがて………


 ……廃人となる。」

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